「湯浅政明の最高傑作」マインド・ゲーム 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
湯浅政明の最高傑作
湯浅政明の監督作品でどれが一番好きかと問われれば私は今でも本作を挙げると思う。物語そのものは、ヘタレが原因で一度死んだ男が、何事にも全力で生きることを誓って二度目の人生を突っ走るという、言ってしまえば昨今の異世界転生モノと大差のないビルドゥングス・ロマンなのだが、演出がとにかくすさまじい。
湯浅はイマジネーションを知性のふるいにかけることなくそのまま出力するという離れ業を、まるで慣れ親しんだ身体運動か何かのように平然とやってのける。パースと重力法則を捻じ曲げて自由闊達に動き回るキャラクター、生き物のようにのたうち回る背景オブジェクト、緩急自在のカッティング。物理的桎梏によって結合を阻害されていた肉体と精神が、ここでは熱い抱擁を交わしながらいつまでも激しく踊り続ける。『クレヨンしんちゃん』『ちびまる子ちゃん』をはじめとする子供向けアニメで、子供の自由で未分化なイメージの奔流を作画と演出に落とし込む訓練を重ねてきた彼だからこそできた、まさにアニメ表現の一つの極点だ。
殊にラストシークエンスの約5分にもわたる一連のモンタージュは奇跡と形容するほかない圧巻の出来だ。それぞれのキャラクターの人生の軌跡が実際の歴史と混じり合いながら、ものすごい速さで未来、つまり現在を目指す。ここでは喪失も再生も個人も歴史も等しく一瞬の運動として過ぎ去っていく。我々はただその痕跡に圧倒的で不可逆的な時間の流れのダイナミズムを痛感するばかりだ。
これは絶望でもあり希望でもある。どれだけ辛いこと悲しいことがあっても、時間の流れはすべてを前へ前へと押しやってしまう。つまり決してやり直しはきかない。しかし翻って言えば、どうであれ生きてさえいれば、我々は前に進み続けることができる、ということでもある。命を絶つ、あるいは絶たれない限り、このカオスなモンタージュは絶えず更新され続けるのだ。その結果幸福を得るか不幸に沈むか、それはわからない。ただ、すべてはつまるところ均等な一瞬の運動となって圧倒的で不可逆的な時間の流れの中へと収斂していく。ねえ、ほんならいっそ開き直って好き放題にやってみたらええんやないの?
シークエンスが船上に寝転ぶ老爺の幸せな「現在」に辿り着いたところで、モンタージュの奔流は一旦の終結を迎える。そして「MIND GAME」というタイトルが悠々と真っ白な画面上に現れる。文字の内側はくり抜かれており、そこには雲の流れる青空が映し出されている。私はこれによく似た絵画を知っている。ルネ・マグリットの『大家族』。人々の織り成す無数の人生を、湯浅は大家族になぞらえ、そして抱擁してみせる。まだ中学生だった頃、このシークエンスをはじめて目の当たりにしたとき、アンタは神か仏にでもなろうとしてるのか?と神妙に唾を吞み込んだことを私は思い出した。