「面白アイディアのパレード」マインド・ゲーム JIさんの映画レビュー(感想・評価)
面白アイディアのパレード
いつも映画を観るときは、面白い表現を一つでも発見できたら満足だ、と思って鑑賞に臨んでいます。
ですが驚いたことに、この映画の中には面白くない場面が一切ありませんでした。多様な映像表現やユーモアを炸裂させ続ける、驚異的なアイディアのパレードでした。
しかしまず、全ての源としてシナリオの存在があったのではと思います。作品のテーマ的には、マヌケな主人公を中心に、人間味溢れる人物たちが、明るい未来に向かってとにかく全力で走り出すという、快活で陽気なストーリーです。そこにあろうことか、生き返ったり、ヤクザと争ったり、クジラに飲まれたりといった、かなり突飛な道が敷かれています。明るくて自由なシナリオと柔軟な表現力との出会いが、幸運な化学反応を起こしているように見えました。
アニメーションの多様さは、やはり言葉に尽くせないですが、実は全体に、細やかに組み込まれた現実らしさが、良い効果を発揮している気がします。口角がちょっとピクッと動くのとか、不器用で洗練されていない風なセリフとか。知っている感覚があることで、抽象性の高いアニメ世界にすんなり適応できる気がします。ダイナミックな表現を組み立てている、そんな細部の工夫が痛快です。
加えて、映像のアイディアの導き方も、無視できません。自由で柔軟な映像ではありますが、「気狂いピエロ」などとは違い(優劣をいうのではありません)、各表現が、シーンの意味と噛み合っていて必然性があるため、納得でき、心地よいのです。つまり、なんとなくの身勝手な表現ではなく、論理的な思考によってコントロールされた表現であることが伺えるということです。観る人を置き去りにせず、きちんと伝わる描写だと感じられます。
多様で面白い映像のもとにある、自由奔放なシナリオと、知恵に富んだ表現力との幸運な出会い。これは本当に唯一無二なことで、奇跡のようにすら思えます。
もしまだアニメーションというものを軽視している人がいたら、まずこの映画を観てもらいたいです。