「池脇千鶴の演技が光る、軽薄そうに見えて真面目なせつない話」ジョゼと虎と魚たち(2003) Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
池脇千鶴の演技が光る、軽薄そうに見えて真面目なせつない話
総合80点 ( ストーリー:80点|キャスト:85点|演出:75点|ビジュアル:75点|音楽:70点 )
最初はのりが軽いしエッチだし軽薄な感じも含んだいまどきの喜劇なのかと思っていたが、これがなかなかどうして良い作品だった。妻夫木聡はまあまあ、上野樹里は今回はそれほど目立たないが、障害者として風変わりな人生を歩んだジョゼ役の池脇千鶴の演技はとても良かった。若くして彼女がこの映画で裸体をさらしたということは聞いていたので、ちょっとした色物かという思い込みもあったのだが、不真面目に見えて真面目なせつない話だった。
祖母が死んで天涯孤独になったと思われる彼女が、強がりながらも堪え切れずに遂に本音を出して2人の気持ちが通じ合う。家庭の恥と思われて世間から隔離された人生を過ごしてきて生活の不安もあって家族も友達もなくて孤独な障害者が、人を食ったような態度で明るく強く振る舞い続けられなくなる瞬間に素直さが出る。一生ないかもと思っていた好きな人と虎を見に行くことが出来て、浜辺で好きな彼に背負ってもらい密着して堂々と甘えてはしゃぎ、だけどホテルでは幸せの中で暗闇の冷たい深海の底に沈む迷子の貝殻に過ぎない自分を悟る。
それは将来の不安というよりも、もう近い未来に訪れる現実であり覚悟である。車椅子があれば彼は楽でも彼女は背負ってはもらえないし、人生初の旅行中にトンネルの中で車内でいちいち色の変わる様子に驚く彼女と彼との間には溝がある。彼の両親に会うこともなかった。
彼女は全てわかっていたのだろう。結局二人は住んできた世界と住む世界とが違いすぎた。いくら理由をつけて言い訳をしてみても、彼の心の底ではそんな彼女が重荷になっていた。明るい浜辺と深海のホテルとの対比が、感情だけでは乗り越えられなかった現実を示唆して、突然泣き出す彼に罪悪感と切なさとやるせなさが残った。
だけど暗さ一辺倒だけではなくて、冷たい潮風に晒された時のようになんとなく不幸を自嘲気味に笑い飛ばすような、彼女のささやかなしたたかさが最後に見られたのは辛いけれど滑稽さもあってかすかな救いだった。そんなこんなでも、安直なお目出度い話にしなかったのは良い。