「奇跡のような作品」ジョゼと虎と魚たち(2003) 映画マンさんの映画レビュー(感想・評価)
奇跡のような作品
奇跡のような作品だと思います。下手な表現で、申し訳ありませんが。
主人公は、足の悪い身体障害者のジョゼと、大学生の恒夫。
内容は簡単に言えば、この二人が織りなす恋愛物語。
この作品の素晴らしさは、まずリアルさにあると思います。
懐かしさを感じる街並み。自然と耳に入ってくるセリフ。障害者への差別的感情。そして薄っぺらい恋愛映画とは違う、暖かさと虚しさを兼ね添えた、思い出にはないのに、何故か体験したことがあるかのように感じるラブストーリー。
その全てが完璧で、この映画に私は共感してしまいました。
悲恋だの、運命的な出会いなの、そういった劇的な恋愛でも内容でもないです。
だからこそ、素晴らしい。共感こそが、人の心を掴むのでしょう。
恒夫とジョゼの関係性が素晴らしい。ジョゼは障害者であるがために、人の悪意には敏感で、心を開きません。しかし、そんなジョゼに現れたのが、屈託のない純粋な青年、恒夫です。
恒夫は、ジョゼに対し差別もしなければ、同情もしません。一人の人間として、等身大に向き合ってくれます。
彼はジョゼをその世界と繋げるただ一人の存在でした。ジョゼは、恒夫と過ごすなかで、人の暖かみを感じます。
今まで知らなかった世界を教えてくれた、優しい男にジョゼは恋をします。同時に恒夫も、今まで出会ったことのない、純粋で独自の世界観を持つ彼女に惹かれます。
ですが、この恋は破局を迎えるのは、映画を見るなかで、自ずと分かっていきます。
二人がどんなに、二人だけの小さな世界を築こうとも、恒夫は外の世界との繋がりを断つわけにはいきません。
誰かが悪いわけじゃない。だからこそ、悔しくて切ない。
恒夫の優しくも、ずるい性格が作品の魅力を底上げしてます。
恒夫は自らジョゼの元を去り、泣きます。
ですが、誰が彼を責められるでしょうか。
誰が彼のように、ジョゼに真剣に向き合ってきたのでしょうか。
皆、身障者を見ると、目を背けるだけです。
彼はそうじゃなかった。
そして、彼だけがジョゼの世界を広げ、ジョゼの束の間の幸せとなり、希望となったのです。
ジョゼの最後のシーンは決してバッドエンドなどではありません。強くなった一人の女の姿を観客に見せ、希望を抱かせる物語でした。
最後に。主演の池脇さんと妻夫木君の二人の演技は見事でした。彼ら以外に、この作品を演じられた人はいないでしょう。この二人をキャスティングし、原作小説を映画作品に昇華した監督の手腕も、見事と言うほかありません。
何もかもが完璧でした。
いつまでも忘れられない映画です。
出会えてよかったです。