「17年前より生きやすい世の中になっただろうか?」ジョゼと虎と魚たち(2003) 琥珀さんの映画レビュー(感想・評価)
17年前より生きやすい世の中になっただろうか?
前から気になっていたけれどなかなか観る機会の無かった本作をやっと鑑賞。
評判通りの良作でした。
『万引き家族』や『37セカンズ』を鑑賞済みの立場から観ると、2003年のこの作品の先見性と普遍性に驚かされます。
・事情はそれぞれだが、養育してくれる親のいない子どもたちがいること。
・身内の障害を世間様に申し訳ないと考えてしまう保護者に育てられる子どもがいること。
・同情なんかじゃない、本当に相手のことが好きなんだという無垢な気持ちにウソはない若者。
・ウソではないが、二人だけの世界と、世間という世の中が混じり合うことで生じるさまざまな葛藤と立ち向かうのは、若者ひとりには荷が重すぎて、最後は逃げてしまう。
・冷静に考えれば、そこで生まれる葛藤の大半は若者ひとりの問題ではなく、社会全体の責任で支えるべき問題のはずなのだが、若者は自分の弱さや卑劣さこそが原因であると自分を責めてしまい、深く傷つき、後悔することになる。
生きにくい環境で暮らしている人たちを応援するのに、個人でできることは財力のある篤志家でもない限りほとんどないかもしれません。では今の社会全体は17年前より生きやすくなったのかと考えると、少なくとも格差は広がり、メンタルを病む人が増えている現実をみると、否定的にしかなれません。社会の一員として自分が出来ることを考えることだけは
続けていこうと思います。
世間が見ないことにしている現実や存在にスポットを当てた『万引き家族』。
障害を持つ者との関わり方について、特別なことではなく、誰にでもある遠慮や後ろめたさや普通でいいんだという気づきを与えてくれた『37セカンズ』。
それらの要素が、主要な登場人物はあのコワイおばあちゃんを入れて4人だけなのに見事に映し出されています。
重荷ではなく、苦役でもなく、水族館のようなラブボのイルミネーションのような『アトラクション』として
出会った相手との関係を楽しめることが出来たら(出来ていたら)、自分も良かったのかもしれないなぁと、「離婚」を選んだ僕も妻夫木聡のようにつらつらと昔を思い出したりしているんです。
おっしゃる通り!この映画は「人間の関係の悲喜こもごもの普遍性」を見せてくれますね。
ジョゼを確かに愛して、しばらく一緒に暮らして、そして去って行ったどこにでもいる優しい男の子=妻夫木の生き様と、介護しきれずに老妻に手を掛けて、長年一緒に暮らした妻と別れる夫たちのニュースと、
何が正しかったのかは分からないのです。それらはぜんぶがグラデーションで繋がっているので。
だからその人生の途上にある人間たちは、自分の危うさや不甲斐なさがたまらなくて、妻夫木のようにガードレールにしがみついて声を押し殺して泣くのだと思います。
元特別養護老人ホーム介護職員の きりんの独り言でした。
長々と失礼しました。
改めてグレシャムさん、本当に素晴らしいレビュー!!