「【真の漢の生き様を描いた近代邦画が誇る時代劇の傑作の一品。真田広之の清貧な凛々しさ、宮沢りえの美しさ。そして田中泯の凄さを世に知らしめた作品。良いモノは良いと言う事を三度鑑賞して思った作品でもある。】」たそがれ清兵衛 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【真の漢の生き様を描いた近代邦画が誇る時代劇の傑作の一品。真田広之の清貧な凛々しさ、宮沢りえの美しさ。そして田中泯の凄さを世に知らしめた作品。良いモノは良いと言う事を三度鑑賞して思った作品でもある。】
■内容は、巷間に流布していると思われるが簡単に。
幕末期、庄内・海坂藩の下級藩士・井口清兵衛(真田広之)は、妻を病気で亡くし、ふたりの娘と年老いた痴呆症の母の世話に明け暮れていた。
仕事の終わりになると酒席の誘いを断ることから「たそがれ清兵衛」と呼ばれながらも、慎ましく生きていた彼は、幼馴染の朋江(宮沢りえ)の酒癖の悪い元夫甲田(なんと、大杉連!)が、朋江の実家に因縁を付けてきた事で、真剣に対し棒きれで軽く倒したことで、剣の腕が立つことを知られ、上意討ちの討ち手に選ばれてしまう。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
ー シンプルに記す。良いモノは良いと言う事を三度鑑賞して思った作品。清貧な生き方をブレなく生きる漢、井口。そして、両想いながら、当時の慣習でお互いの立場を気遣う清兵衛と朋江の姿が美しき庄内三山を背景に描き出されている。-
・井口の女性でも論語を学ぶ娘の姿を、”良い”と言い、褒める姿。
ー 彼が、近代的な思想を持っていた事が分かるシーンである。旧弊的な叔父に対する言葉も良い。ー
・とは言え、身分違いの妻に苦労を掛け、病で亡くした事に悔いを持つ姿。
ー 井口の、屈託を表現している。-
・そこに現れた、幼馴染の朋江。彼女が来ると、明るい雰囲気に包まれる井口家。
ー 岸恵子さんの、気品あるナレーションが、私はこの作品の気品を上げていると思う。-
・甲田を軽く打ち負かした井口の元にフラリと訪れた、余吾善右衛門(田中泯)。彼は、甲田を”所詮、あの程度の男だ”と言いつつ、”いつか、御主と剣を・・”と言う姿。
ー 作品構成の妙である。-
・余吾は仕えていた主君が、藩の後継者争いに敗れた事で、追われる立場に。だが、切腹を命じられた藩一流の剣の使い手である彼はその命に従わず、自宅に籠り、刺客を返り討ちにする。
■余吾と、清兵衛との一騎打ちは今作の一番の見所であろう。
清兵衛が一騎打ちに行く前に身なりを整える事をお願いした朋江に対し、死を感じていたからこそ、幼き頃からの想いを伝えるシーン。
そして、余吾の家を訪れた際に、余吾から聞かされた彼の娘を亡くした哀しき人生。
この長廻しのシーンの余吾を演じた、田中泯の演技は凄い。
彼が今作後、邦画界になくてはならない人物になった事が良く分かる。
キャスティングの素晴らしさよ。現代舞踏家が、映画でも第一級の演者である事を見せつけたシーンである。
<他のレビューでも記載したが、私は藤沢周平の作品はほぼ総て読んでいる。理由は名もなき市井の人々の生きる姿を見事に描き出した短編集の魅力であり、貧しき武家の姿を今までにない視点で描き出した作品集の魅力である。
私が、短期間であるが海坂藩のモデルになった、庄内藩の都市に住んでいた事も、その一因かもしれない。”・・であるのう。”という柔らかい方言の中には、冬、雪深い都市に住む市井の人々の逞しき生活が含まれているのである。>
僕ももう一度鑑賞したくなりました。
心が清められますよね。藤沢周平はいい。本当にいい。
(愛読書です)。
思えばこの映画ドット・コムに参加して、生まれて初めて「レビュー」なるものを書いてみた・・その記念の作品でした。