「子供が母親にだけ語る夢物語のような恋愛劇。」冷静と情熱のあいだ mark108helloさんの映画レビュー(感想・評価)
子供が母親にだけ語る夢物語のような恋愛劇。
素人でもわかるレベルの伏線の張り方に加え、次のセリフが思わず口をついて出るほど単純な展開であるにもかかわらず、おそらく作家の強烈な妄想レベルの舞台設定において、勢いだけで物語を引っ張る図太さがむしろ爽快に思えてくるほど、この物語の世界観は笑ってしまう程の夢物語なのであるが、その単純さにすっかり浸らせといてのひねりが加えられてくるので徐々にその世界から戻れなくなる自分を感じてしまう自分がいるという不思議なラビリンス。徹底した辻仁成の妄想日記=私小説の形式で、俯瞰した視線を全く持たずこれほどまでに照れを度外視した物語の作り手を僕は他に知らない。そしていつの間にか観客は(読み手は)辻仁成のご意向と顔色を窺いながら物語の進行を読み解いているの気付かされハッとしてしまう第二の迷宮。この結末であってますか?きっとこれでしょ?結末は?っていつの間にかど素人の様な結末を勝手に自分で作り上げて、作り手に(辻仁成に?それとも監督の中江功に?)知らず知らずに問い質しながら物語を一緒になって読み解き始めてしまうこの強烈なる閉鎖空間にわれわれはいつの間にかすっかり毒され始めていくのである。もはやこの作品が傑作なのか駄作なのかすら判断のつかぬような設定の渦巻きに飲み込まれてしまってしまうのである。この作品、唯一客観的に褒めれる点はセリフを多言語でか合わしている点だ。これがこの妙な非現実空間にリアリティを与えてしまうので厄介だともいえる。いつの間にか僕らはヒロインと一緒になって「順正」という主人公の名前を「仁成」と呼び始め聞き間違いながら心の奥底に眠る誰にでも潜む主人公願望が呼び覚まされて、徹底した純愛物語にドン引きしながらも徐々に怖いもの見たさで、気が付いた時にはすっかり辻仁成に取りつかれて、最後はJR東海のプラットホームに立って、男はヒロインを向かい入れ、女は人ごみの中主人公だけを発見するに至るのである。