日本の黒い夏 冤罪のレビュー・感想・評価
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情報誘導のそら恐ろしさ
風光明媚な美しい街と全く符合しない凄惨な事件。事件は実際に見聞きしていた自分の情報整理になった。あの頃は、圧倒的に繰り返す同じ報道を信じるしかなかった自分への検証でもある。
恐ろしいのは、確固たる検証を怠って市民を誘導してしまうマスコミの姿勢、それに乗せられて真実を疑うことなく迎合する市民、メンツのために科学的立証もなく犯人を作り上げようとする警察。日本人の従順で真面目な国民性を考えると本当にこわい。
前の戦争に至る大日本帝国の系譜のまま。戦後も帝銀事件、和歌山カレー事件などあいまいなままで有罪。本件だって、オウムがなければ、被害者が犯人に仕立て上げられる可能性もあったんじゃないかな。
事実はわからないけど、本編の救いはTV局キャップと冤罪被疑者の態度が冷静で論理的であったところかな。寺尾さんの演じる主人公にはただただ拍手を送りたい。よく頑張った。
報道記者の北村さんの、「肩の荷が下りた」セリフと涙がこの作品のすべてを語っているのかもしれない。
戦後史を語るうえで日本人が忘れてはいけない事件、ぜひ見ておくべき作品と思う。
熊井啓監督の社会派映画
松本サリン事件の冤罪はどのようにして生まれたのか、を描いた熊井啓監督の社会派映画。
冒頭、松本の綺麗な自然の風景・松本城が描かれて、本題に入っていく。
この冤罪ドラマを語るには、地元の高校生が当時のテレビ局に聞き込みに行って、当時のテレビ局社員たち(主に、リーダーの中井貴一)が語っていくかたちを取っている。
⇒ まったく映画とは関係ないが、この映画も他の映画も中井貴一は「じっくりと話す雰囲気」なのが、NHKテレビで夕方放映されている番組「サラメシ」では如何にも「軽薄そうな雰囲気」なギャップが…(笑)
平成6年(1994年)6月27日、長野県松本で「有毒ガス事件」が発生。
死者7人、重軽傷者586人。(この死亡者数には冤罪にされた家族の奥様はまだ含まれていない)
第一通報者(劇中では神部さん(寺尾聰))が重要参考人として調べられると、テレビ・新聞が一斉に犯人扱い。警察も面子をかけて犯人扱いの取り調べ。
テレビ局の取材で「最初は青酸カリ」を使ったと思われたが「被害者の状況から青酸カリではない」となったり、「サリンはバケツでも簡単に作れる」などという取材場面があったりして、当時かなり混乱していた模様。
ただ、化学研究者への取材では「サリンなんて簡単に作れない。巨大な設備、複数の頭脳などが必要」とだんだん真実に迫って行く。
劇中では「カルト集団によるサリン事件だった。神部さんは冤罪…」と、既に知れ渡っている事実をなぞった程度の映画に見えて、数々の傑作を生み出してきた熊井啓監督らしい深堀りが見られなかったのは残念。
地下鉄サリン事件の報道映像も使われたりしているが、もう少しドキュメンタリー的な描き方をすべきだった気がする。
また、映画では「カルト集団」と曖昧な呼称だけだが、あの教団について深堀りすべきではなかったろうか?
冤罪にされていた神部さん側だけを描くのは片手落ちという感じ。
追究不足の感が否めない映画であった。
冤罪のプロセス
ひかりTVビデオで鑑賞。
事件報道の倫理や情報を取得する側である我々のメディア・リテラシーの問題は、ネットやSNSの発達した現代社会において、余程重要なものとなっている感があります。
本作で描かれたことは過去のものではなく、今でも充分に起こり得るのだと云う意識を持って観ていると、冤罪がつくり上げられたプロセスの恐ろしさに戦慄させられました。
世論を形づくり、人心をひとつの印象に凝り固めることのなんと容易いことだろうか、と…。それがひとりの人物の人生を破滅へ導き掛けたことを、決して忘れてはならない…
松本サリン事件
あくまでも、マスコミに謝罪を求めるのではなく、神部さんが捕まった背景、「なぜ簡単に犯人にされたのか」を調べる高校生。エクスプレス社のデスクだけが神部さん無罪説に向かっていた事実。
警察、マスコミの事実確認などは想像もあるのだろうけど、かなり響いてきました。それもこれも河野さんを知っているからで、実際、最初の報道だけでは自分も疑ってしまったことを思い出しました。ただ、河野さんが出たテレビ番組を見たことがあるので、それほどまで感動もできなかった。高校生の取材という手法を取ったのも苦心の末ということがわかるけれど、順撮りのドラマにしたほうが感慨深いような気がします。
絶対にあってはいけない
冤罪なんてものは、絶対あってはいけない。
世の中には、この罪を犯してしまう人達がいる。
冤罪をかぶせられた人からしたら、たまったもんじゃない。
今は人ごとでも、ある日突然。自分がその立場に
なりうる可能性は誰にでもある。恐ろしすぎる。
この映画が伝えようとすることは何か。
マスコミの情報の取り扱い方。
そのマスコミの情報を、自分の頭で考えずに
促され、信じ込み、今度はそれをあたかも自分が
本当のことを知っているかのように周りに伝える
視聴者達。
警察という権力を振りかざし、己のメンツの為に
罪なき人を罪人にしてしまう組織。
それぞれが、いい加減なことをすると、罪がうまれる。
今の世の中は情報社会。
コミュニケーション不足だと感じる世の中で、
不確かな情報が一人歩きするのは容易。
そんな中でも、人と人の絆や、正義を貫こうとする人の存在というのは、本当に大切だと感じる。
マスコミや警察。世の中に影響を与える立場の人間が、私欲のために動くと、世の中はめちゃくちゃになる。
そして、私達一視聴者にも、それぞれに責任がある。
実際にあった事件をベースに作られた本作からは
多くの学ぶべき点があったと感じることができた。
正しい姿を問う
日本中を敵に回しても真相を解明してみせると言い切った弁護士は格好良かった。警察に対抗できるのは世論で、世論を形成しているのはメディアだ。のセリフに心動かされた中井貴一の正義感に感服。
本作は冤罪事件を題材に組織や個人の正しい姿とはなにかを問うヒューマンタッチで描いた男たちの熱いドラマである。
冤罪に加担したマスコミと視聴者
視聴率を追い求めて、不確かな情報を鵜呑みにするマスコミとワイドショーに踊らされる視聴者の図式はネットの普及した現代もあまり変わっていない事が良く解る。
作品のモチーフになった松本サリン事件の当時の報道を見た人は、あの冤罪を疑わなかったと思う。
農薬の調合を間違えた…と第1報を流し、被害者が加害者にしか思えない報道であった。
さらに警察の取り調べも違法性の高い形で行われたように言われており、被害者をよってたかって叩いた様は改めて考えさせられる。
警察の捜査の是非は素人にはわからないが、災害や事件を取り上げるマスコミの姿勢に一石を投じる内容であり、作品としての面白味には欠けるものの、下らない噂話レベルのニュースやワイドショーの情報を真に受けるような人間にならないよう努力する必要を感じるようになる作品である。
一方、内容は高校生の質問に真面目に答えたマスコミという体で、高校生が人権、モラルについてマスコミに尋ね、それに対し真面目に答えようとするのだが、なんと言うか…堅っ苦しい(笑)
日活で撮影したせいなのか、全体に雰囲気は暗く、暑苦しさが伝わってくるので、まさに黒くて暑い夏のイメージである。
当時、モデルになった河野さんの講演を聞いてみたが、理不尽さに怒りや悲しみが限界を越えた様子で淡々と話されていた事が印象に残った。
この人がこうなった原因は、あのカルト教団が一番悪いが、事件後に河野さんを追い詰めたのは事件に無関係な上に、何の責任も取らないマスコミとその視聴者であった事を忘れてはいけない。
この作品はその為に存在すると思う。
冤罪事件には個人的関心があり鑑賞しました。 そういえばこんな事件が...
冤罪事件には個人的関心があり鑑賞しました。
そういえばこんな事件があったなあ、くらいに世間の人たちに思い出させるのは評価できますが、その悲惨さはまだまだ伝えきれていないように思います。
映画としてもドキュメンタリーなのか、フィクションなのか、やや中途半端な感じ。遠野なぎこが若くてかわいいのにびっくり。
●なぜ昭和風?
冤罪ってこうやって起きるのね。と勉強にはなる作品。
時はネット黎明期。ようやくwindows95が発売された年。
マスコミに扇動されて罪無き人が追われてしまう。
松本サリン事件の舞台裏だ。
北村有起哉の憎まれ役ぷりが鼻に付くけどよい。
しかし、なんでこんな昭和風なつくりにしたのかはギモン。
古いけれど。
昭和4,50年代の雰囲気です。
日活感が漂っています。台詞回しも古くさいので、堅苦しく違和感があります。
役者は実に豪華なんですが。
ただ、内容はとても意義のある物です。
マスコミの情報の扱い方、視聴者の受け取り方、警察の在り方。
考える良い機会になると思います。
名前こそ変えてあるけれど、この冤罪事件は実際に起きた事ですので、こちらも真摯に向き合わざるを得ません。
当時私は高校生でしたが、テレビで報道される通り、「第一通報者のおじさん
(この映画ではかんべさんとされています。)が犯人なのか」と信じて疑いませんでした。容疑者と報道された時点で、その人は殺人犯だと世間に認識されます。後遺症に苦しめられるのみならず、この第一通報者の方は、殺人犯のレッテルを貼られる二重の被害を被っています。
最近でも、この映画同様、マスメディア(と情報提供者、及び視聴者)に問題提議する映画がありました。
インターネットやSNSの普及等で情報が簡単に拡散される時代、若い世代にも是非考えて頂きたい問題だと思います。
それだけに、この古くさい仕上がりが
もったいなく感じてしまいました。
それでも【冤罪】は産み落とされる
前日に‘あの時間帯’の電車に乗り合わせて居た身としては、その発端となった松本サリン事件の真相と、当時のマスコミ各社の報道の在り方、“何故冤罪は起こるのか?”は実に重要です。
警察は検挙率を上げる為の《体裁第一》であり、テレビは《視聴率》とゆう怪物が、新聞は《部数を増やす為》にすぎない。そこに“思い込み”と“決めつけ”が絡み合い【冤罪】は産み落とされる。
映画はその事に疑問を持った高校生が、テレビ局の報道関係者に会って当時を検証するデイスカッションドラマになっています。
よく見ると主な参加者はテレビ側の4名に、高校生は女子高生の1名(男子はほとんど発言しない)それに警察関係者1名と、モデルとなった河野義行さん役の寺尾聡の僅か7名とも言える。
熊井啓監督自ら書いた脚本は、冤罪がいかにして作り上げられて行くのかを実に丁寧に描いてはいるのですが、今時の高校生が発する様な言葉や仕草等からは程遠く、主要な出演者達の関係からは「一般の人が果たしてそれぞれの関係から、そんな言葉遣いや態度を示すのだろうか?」との疑問が終始気にはなります。
但しそれに疑問を持たなければ問題意識の高い作品ですので、【冤罪】を考えるのに良い機会の作品かと思います。
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