ウォーターボーイズのレビュー・感想・評価
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【90.8】ウォーターボーイズ 映画レビュー
『ウォーターボーイズ』は、単なる青春映画の枠を超え、日本映画史において一時代を築いた傑作と評価すべき作品である。その完成度の高さは、複数の要素が奇跡的な均衡を保ち、観客に普遍的な感動を与える点にある。物語の根幹をなす「弱小男子高校生たちがシンクロに挑戦する」という一見突飛なアイデアは、リアリティとファンタジーの絶妙な配合によって、説得力のあるドラマへと昇華されている。
特に秀逸なのは、作品全体に漲るポジティブなエネルギーだ。挫折や葛藤といった青春期に不可欠な要素も描かれるが、それらが観客にネガティブな感情を抱かせることはない。むしろ、困難を乗り越えようとする登場人物たちの姿は、観る者に勇気と希望を与える。この前向きな姿勢は、単なる表面的な楽観主義ではなく、等身大の高校生たちが自らの限界に挑み、仲間と協力することで得られる達成感に裏打ちされている。
また、コメディとしての質の高さも特筆すべき点である。ベタなギャグに陥ることなく、登場人物たちの個性や状況が生み出すユーモアが、観客を自然な笑いへと誘う。これらのコメディ要素は、物語の緩急をつけ、重くなりがちなテーマに軽やかさをもたらす効果も持つ。
さらに、エンディングにおけるシンクロのパフォーマンスは、映画的カタルシスの極致と言える。これまでの練習風景や各登場人物の成長が凝縮され、水中で繰り広げられる彼らの演技は、観客に圧倒的な感動を与える。単なる「感動」に留まらず、諦めずに努力することの尊さ、仲間との絆の強さ、そして何よりも自分自身を信じることの重要性を、五感に訴えかける形で提示する。
社会現象を巻き起こすほどの人気を博した背景には、この作品が世代や性別を超えて共感を呼ぶ普遍的なメッセージを内包していたことがある。誰もが経験するであろう青春期の不安と期待、友情の尊さ、そして目標に向かって努力する過程の輝きを、瑞々しい映像と心温まる物語で描ききったこと。この点が、『ウォーターボーイズ』を単なるヒット作に終わらせず、記憶に残る名作たらしめている最大の要因である。
矢口史靖監督の演出は、作品の持つ瑞々しさとユーモアを最大限に引き出すことに成功している。彼の持ち味である、細部にわたる観察眼と、それを物語に落とし込む手腕が遺憾なく発揮されている。例えば、男子高校生たちの他愛ない日常会話や、シンクロの練習風景におけるぎこちなさなど、些細な描写一つ一つがリアリティをもって描かれ、観客に彼らの世界観への没入を促す。
特に評価すべきは、シンクロの練習過程を丹念に描いた点である。一足飛びに上達するのではなく、試行錯誤を繰り返し、時には失敗をしながらも、少しずつ前進していく様子が克明に描かれる。このプロセスこそが、最終的なシンクロのパフォーマンスの感動をより一層深める要因となっている。また、登場人物たちの心情を巧みに表現するカメラワークや、コメディとシリアスのバランスを保つ編集も見事であり、観客を飽きさせない緩急のある物語展開を実現している。矢口監督の演出は、俳優たちの個性を引き出し、彼らが自然体で役を演じられる環境を作り出したことも、作品の成功に大きく貢献している。
妻夫木聡が演じる鈴木智は、ごく普通の、どこにでもいそうな男子高校生でありながら、物語の中心で成長を遂げる主人公として、その存在感を際立たせる。当初、シンクロ部への入部に躊躇し、周囲の目を気にする様子は、多くの若者が経験するであろう等身大の葛藤をリアルに表現している。シンクロの練習を通じて、彼は臆病な自分を乗り越え、仲間との絆を深めていく。この内面の変化を、妻夫木は繊細な表情の変化、姿勢、そして声のトーンによって丁寧に演じている。特に印象的なのは、シンクロの練習における不器用さや、時には挫折しそうになる弱さを隠さずに見せる点だ。しかし、そこから立ち上がり、仲間を引っ張り、最終的にリーダーシップを発揮していく姿は、観客に強い共感を呼び起こす。シンクロのパフォーマンスにおける、真剣な眼差しと、水を得た魚のように生き生きとした表情は、彼がどれだけ役と一体化していたかを物語る。彼の演技は、単なる技術的な巧みさに留まらず、役の内面にある「青春の輝き」を全身で表現していたと言える。シンクロの練習を通して肉体的な変化も伴い、クライマックスのシンクロでは、序盤の頼りない印象とは一変し、自信に満ちたリーダーとしての姿が際立つ。その変化の過程が説得力を持って描かれたのは、妻夫木の深い役作りと表現力に他ならない。
竹中直人演じる尾崎は、シンクロを教える水族館のイルカトレーナーであり、シンクロ部員たちを指導する異色のキャラクターである。彼の演技は、単なる指導者役にとどまらず、物語に深みとユーモアをもたらしている。竹中は、尾崎の持つ奇人変人ぶりを、抑制の効いた演技で表現している。彼の独特な間の取り方や、生徒たちを試すような言動は、観客にクスッと笑いを誘う一方で、彼の真意を測りかねるミステリアスな魅力も兼ね備えている。特に、生徒たちが壁にぶつかった際に、突き放すような態度をとりながらも、最終的には彼らを信じ、後押しする姿は、指導者としての深い愛情を感じさせる。竹中の演技は、尾崎というキャラクターに多面性をもたらし、物語に緩急をつける重要な役割を果たしている。彼の存在が、男子高校生たちの成長物語に、大人からの視点と、どこか超越したユーモアを与えている。
脚本・ストーリーは、単純なサクセスストーリーに留まらない、多層的な魅力を持つ。物語の出発点は「男子シンクロ」という珍しさにあるが、その根底に流れるのは、青春期特有の普遍的なテーマである。弱小水泳部の部長・鈴木智が、廃部寸前の危機を救うため、ひょんなことから男子シンクロに挑戦することになるという導入は、観客の興味を引きつける。
その後、個性豊かな部員たちが集まり、シンクロの練習を通じて互いにぶつかり合い、友情を深めていく過程が丁寧に描かれる。それぞれのキャラクターが抱える葛藤や、目標に向かって努力する姿は、観客に強い共感を呼び起こす。特に深みがあるのは、単に「シンクロが上手になる」という目標だけでなく、それを通して彼らが自分自身を見つけ、成長していく姿が描かれている点である。シンクロは、彼らにとって単なるスポーツではなく、自己表現の手段であり、仲間との絆を深める媒体となる。
物語は、ユーモアを随所に散りばめながらも、友情、努力、そして挫折と再生といった普遍的なテーマを深く掘り下げている。例えば、シンクロ発表会でのトラブルや、それに対する彼らの対応は、単なる試練としてではなく、彼らが真のチームへと成長するための不可欠なステップとして機能している。
クライマックスのシンクロ発表会は、それまでの彼らの努力と絆が凝縮された集大成であり、観客に圧倒的な感動を与える。単に成功したから感動するのではなく、その成功に至るまでの彼らの汗と涙、そして互いを信じ合う心が描かれているからこそ、観客はその感動を共有できる。
また、社会的なメッセージとしても秀逸である。性別の固定観念にとらわれず、自分たちが本当にやりたいことに挑戦することの尊さを描いている。男子がシンクロをすることに対する世間の偏見や、それに対する彼らの葛藤は、多様な生き方が認められる現代社会において、改めて考えさせられるテーマを提示している。この物語は、単なるエンターテイメントとしてだけでなく、観客に何かを問いかけ、考えさせる深さを持っている。
『ウォーターボーイズ』の映像は、夏の日差しを思わせるような、明るく透明感のあるトーンで統一されている。プールの水の青さや、高校生たちの瑞々しい表情が鮮やかに捉えられ、青春映画としての魅力を最大限に引き出している。シンクロのシーンでは、水中と水上からの様々なアングルを駆使し、彼らの動きの美しさと迫力を余すことなく伝えている。特に、スローモーションを効果的に使用することで、シンクロの繊細な動きを際立たせ、芸術的な美しさを表現している。
美術と衣装も、作品の世界観を構築する上で重要な役割を果たしている。高校の古びたプールや部室、彼らが練習に励む市民プールなど、日常的な風景が丁寧に作り込まれ、物語にリアリティを与えている。衣装は、男子高校生らしいシンプルなデザインが中心だが、水泳部員たちの個性や、シンクロという非日常的な活動を際立たせる工夫が凝らされている。特に、クライマックスのシンクロ衣装は、彼らの努力と達成感を象徴するような、鮮やかで印象的なデザインとなっている。これらの美術と衣装は、作品全体の明るくポジティブな雰囲気を補強し、観客を物語の世界へと誘う。
編集は、作品全体のテンポとリズムを司り、観客を飽きさせない緩急のある物語展開を実現している。コメディシーンでは軽快なカット割りを多用し、ユーモラスな雰囲気を盛り上げる一方、シンクロの練習風景や、登場人物たちの葛藤を描くシーンでは、比較的ゆっくりとしたカット割りを採用し、感情の機微を丁寧に映し出す。特に、シンクロのパフォーマンスシーンにおける編集は圧巻である。複数のカメラアングルからの映像が巧みに切り替わり、水中の動きと水上での表情がシームレスに繋がり、観客に圧倒的な臨場感とカタルシスをもたらす。練習風景と本番のシンクロの対比も鮮やかで、彼らの成長が視覚的に明確に示されている。情報量の多いシーンでも、視覚的な混乱を招くことなく、観客が物語に集中できるような配慮がなされている。
音楽は、作品の感情表現を豊かにし、物語に深みを与えている。特に、シンクロのパフォーマンスシーンで使用される楽曲は、観客の感情を最高潮に高める効果を持つ。場面ごとの感情に合わせたBGMの選択は秀逸で、コミカルなシーンでは軽快な音楽が、感動的なシーンでは壮大な音楽が流れ、物語を盛り上げる。
音響設計もまた、作品のリアリティを高める上で重要な役割を果たす。プールの水の音、部員たちの会話、シンクロ時の水しぶきの音など、細部にわたる音の表現が、観客を物語の世界に引き込む。特に水中での音響効果は、シンクロの独特な世界観を表現する上で不可欠であり、臨場感を高めている。
作曲家である松浦晃久のスコアは、作品の持つ青春の輝きと、挑戦することの尊さを表現する上で大きな貢献をしている。彼の楽曲は、物語の様々な感情に寄り添い、観客の心に深く響く。キャッチーでありながらも、時に切なく、時に力強いメロディは、映画のテーマを効果的に補強している。
主題歌であるフィンガー5の「学園天国」は、作品の陽気で前向きな雰囲気を完璧に体現しており、映画のエンディングを鮮やかに締めくくる。この曲が流れることで、観客は登場人物たちの達成感と、青春のきらめきをより強く感じることができる。音楽と音響は、単なる背景としてではなく、作品の重要な要素として、物語の感情的な核を形成している。
作品
監督 (作品の完成度) 矢口史靖 127×0.715 90.8
①脚本、脚色 矢口史靖 A9×7
②主演 妻夫木聡A9×3
③助演 竹中直人 A9×1
④撮影、視覚効果 長田勇市 S10×1
⑤ 美術、衣装デザイン
清水剛 B8×1
⑥編集 宮島竜治
⑦作曲、歌曲 松田岳二
冷水ひとみ S10×1
男子高校生たちの奮闘と青春が光る!!
当時とても話題となり、映画やドラマで多くの活躍があった映画のひとつ。
福山雅治さんの主題歌も評判となりましたね。
実在した男子高校生をモデルとしたシンクロナイズドスイミングが舞台となった映画で、今もなお活躍する俳優さんの若かりし時代も楽しめる作品となっています。
当時、男子生徒がシンクロナイズドスイミングをするという発想がなかったので、すごく話題になっていたのを思い出しました。
少ない人数での結成の中、発表会のに向けて練習するもそれぞれの個性がぶつかって、時には喧嘩したりかみ合わなくてぎくしゃくしたりと学生ならではの若さがみえる部分は、自分の学生時代と重ねてしまうところもありますね。
現在はSNSやネットでのコミュニケーションツールが増えていますが、当時はメールができる程度でリアルでやりとりをする機会が多くありました。
お互いの顔をみて言いたいことが言えるのも当時の良さでもあり、理解に努めお互いが成長しようとする人間模様がみえるのもとても良かったです。
本番では緊張の中、お互いの最大限を出し切り、愉快さ茶目っ気たっぷり、見どころ満載のショーがとても素晴らしかったのも思い出深いです。
お互い本気だからこそ結果以上の想いが見ている側にも伝わってるのを画面越しにも感じることができました。
久しぶりに学生時代を思い出せた作品でした。
妻夫木さん、玉木さん
前代未聞チャレンジの先駆け☆男子シンクロを目指す青春学園映画
~ポケモントレーナーみゆきは、92点の経験値をもらった!~
2001年に公開された男子シンクロナイズドスイミングを題材にした青春学園映画。
ポケモントレーナーみゆきの親戚の母校で実際にあった水泳部が、文化祭講演でやっていたことがモデルとなっているらしく、当初はその親戚からよく話を聞いていました。
そのため、夏のウォータースポーツのシーズンになるといつも懐かしく思い出します。
ちなみにですが、今は「シンクロナイズドスイミング」から「アーティスティックスイミング」という名称に変わったそうです。
監督は矢口史靖さんで、以降の「スウィングガールズ」、「ハッピーフライト」のヒット作でも有名です。
楽しく進行していくリズミカルな演出が好きです。
また、キャストがかなり豪華。
妻夫木聡さん、玉木宏さん、竹中直人さんという主演を担える方ばかり。
僕はコーチとして登場する竹中直人さんのキャラクターが好きで、映画に一味も二味も深みと面白さを与えています。
泳ぎが遅い主人公、中途半端な元バスケ部員、筋肉をつけたいだけの細身くんなどスタートだけ見ると超グダグダ。
そのメンバーがシンクロ講演という一つの作品を生み出す過程と結末に感動します。
ぜひ観てみてくださいね。
★大好きなポケモンに例えると★
オシャマリ
人を魅了するオシャレで力強い水中のダンスは、笑えも感動もする最高の作品に仕上がります。
【邦画青春コメディ映画の嚆矢的作品。矢口史靖監督のオリジナル脚本も冴え渡る。現代邦画を支える俳優さん、多数出演作品でもある。】
■久しぶりに鑑賞した感想
1.邦画青春コメディ映画は現在では多数あれど、今作はその先駆け的な作品だったのだなあ、とシミジミ・・。
2.矢口史靖監督のプロットが冴え渡っているなあ・・、とシミジミ・・。
・釣り堀プールからの、金魚掬いシーン。そしてそのまま、水族館でアルバイトの流れ。
・”アルバイトトレーニング”の幾つか
ー”ガラス拭きトレーニング” で、立ち泳ぎ、ラッコ、フラミンゴまで出来るように・・。
-”ゲームセンターステップマシーントレーニング で、シンクロの動きバッチリ!
3.男女関係なき恋愛の面白き描き方・・
・久しぶりに見ると、佐藤君(玉木宏)に恋する早乙女君(金子貴俊)の関係性など、序盤から上手く描かれているなあ。(当時、全く気付かず・・)
・オカマバーのママ(柄本明)の”ウォーターボーイズ”への絡み方。
4.良ーく見ると、現代邦画を支える俳優さんが沢山!
ー何人、分かるかな? 商店街の”一部の人達”ってずっとエキストラだと思ってたよ!-
・大ヒットした映画に”メイン役”で出演した事実って、その俳優さんたちの人生を左右するのかなあ、とシミジミ・・。(大袈裟かな?)
<矢口史靖監督の練り込まれた脚本の凄さを再認識するとともに、公開当時に全く気が付かなかった事が、沢山盛り込まれていた作品。>
Waterboys
すべてのテンポが良い名作
小技が冴える
非現実的で、ばかばかしい内容
話は、非現実的で、ばかばかしい内容。ただ、最後のシンクロのシーンは 美しく、見ていて楽しい。ほかは どうでもいい。
全体的に「ご都合主義」な感じで、重要なシーンは すべて省かれている。こういう話の場合、一般的には「専門情報」の要素が重視される。つまり、もし本当に男子高校生がシンクロを始めたい場合、どうすればいいのか、という情報だ。その部分の調査が しっかりされていて、リアリティーが高い場合、話に信用性が増す。そして説得力が出る。そのうえ、トリビア的な要素も高いので、娯楽性も上昇する。逆に、その重要な部分を大して調査もせずに話を作ると、台無しになる。「イルカの調教師にはシンクロは教えられない」。そして「男子生徒だけでシンクロをマスターするのは不可能」。この2つの常識を、映画監督が理解できていない時点で、すべてが台無しだ。
「イルカの調教師にシンクロを習う」などといった非現実な話に走らず、普通に男子高校生がシンクロに挑戦する話にしたほうが、おもしろかっただろう。惜しい作品だ。
青春映画の傑作
学生ノリと爽やかさ
矢口史靖監督の大出世作
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