「女たちの夜叉」夜叉 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
女たちの夜叉
背中で語る高倉健だが、今作では背中を見せられない。
何故ならその背中には…
冬の嵐吹き荒れる日本海の浜で漁師として生きる男、修治。
妻が居て子供が居て、実直で真面目で仲間から慕われているが、ある時彼の過去が明かされる。
背中に刻まれた夜叉の刺青。
大阪・ミナミの伝説のヤクザであった…。
高倉健がヤクザの世界から足を洗って約10年。
「ザ・ヤクザ」は洋画なのでちと例外として、久し振りにヤクザの世界に戻った本作。
フリーになってからのスタイルである武骨で不器用な漢。
かつて星の数ほど演じてきたヤクザの侠。
その二つが合わさった、まさに高倉健の為の役柄。
海の男として浜に佇む姿も様になっているが、冒頭のミナミ時代の白帽子白スーツ姿。狙い過ぎでもあるが、やはり画になる。
修治の過去が知れ渡ると、浜でヒソヒソ噂、陰口。
元ヤクザの肩書きはさすがに誰でも怪訝するが、女の為に足を洗い、浜で暮らした15年は偽りじゃない。
妻・いしだあゆみの言葉がごもっとも。
「あの人が何をしたの」
修治の平穏を突如狂わしたのが、ふらりと浜にやって来た一組の男女。
浜で居酒屋を開いた女、螢子。
都会から来た惚れ惚れするような女の色香に修治も惑わされる。
田中裕子のいい女っぷり、ベッドでのあどけない表情に、男なら虜になってしまう。
そんな螢子には、ヤク中でギャンブラーでヒモのろくでなしが。
ビートたけしの狂演。包丁を振りかざして暴れるシーンは、演技じゃなく地だろうと散々言われたであろう。
悪行祟ってヤクザの囚われの身に。
終盤、修治は彼を助けに再びミナミへ。
ろくでなしでも、螢子は彼を…。
惚れても実らない女の為に、我が身を危険に晒せるだろうか。
それでも我が身を投じる、侠の美学。
男と女の壮絶な愛憎劇。
受け身のように見えて、しかし実は男たちを振り回し、惑わす女たちの物語でもある。
同じ男を愛したいしだあゆみと田中裕子の対峙シーンは緊迫。
田中裕子のラストカット。
女の夜叉が笑う。