夫婦善哉のレビュー・感想・評価
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主人公森繁久彌が駆け落ち相手の芸者淡島千景の健気さや可愛らしさは、とても良かったが
1955年製作/120分/日本、原題または英題:Love is Shared Like Sweets、配給:東宝、
劇場公開日:1955年9月13日。
有名な映画らしいが、森繁久彌演じる金持ちボンボンの主人公には共感は出来ず。一方、彼と駆け落ちする芸者淡島千景の健気な美しさには、魅せられた。根性なしで甘たれてどうしようない男を見捨てず、純愛を貫くのが、オジサンから見たら理想的にも思えた。ただ、今の時代的感性から見れば、甘やかせすぎで、さっさと追い出せとも感じた。
森繁久彌という俳優は凄いと伝え聞くが、有名なこの映画の演技にはあまり感心させられなかった。ダメ男であるだけで淡島が惚れる要素が表出しておらず、どこが凄い?
監督豊田四郎、脚色八住利雄、原作織田作之助、製作佐藤一郎、撮影三浦光雄、美術伊藤熹朔、音楽団伊玖磨、録音藤好昌生、照明石川緑郎、編集岩下広一、製作担当者馬場和夫、助監督中村積、記録藤本文枝、スチール吉崎松雄。
出演
維康柳吉森繁久彌、維康伊兵衛小堀誠、維康筆子司葉子、維康みつ子森川佳子、蝶子淡島千景、種吉田村楽太、お辰三好栄子、おきん浪花千栄子、金八万代峰子、京一山茶花究、駒七志賀廼家弁慶、長助田中春男、鳩子春江ふかみ、里枝二条雅子、新聞記者梶川武利、新聞記者丘寵児、客A大村千吉、薬屋のお内儀さん三條利喜江、客一上田吉二郎、客二吉田新、客A広瀬正一、巳之吉谷晃、おふさ本間文子、ヤトナA出雲八重子、ヤトナB江幡秀子、料亭の女中登山晴子、熱海の宿の女中宮田芳子、儀平沢村宗之助、おきんの亭主若宮大祐、通りのコック。
呆けた男と美女
「頼りにしてまっせ、おばはん」の台詞を英語に訳すなら
昭和7年1932年、戦前の活気溢れる大大阪と云われた時代のお話です
冒頭の地震は関東大震災ではありません
それは本作の舞台の9年も昔の出来事で、その年には記録に残るような大地震はありません
つまり関東大震災の再来かと大した地震でもないのに逃げ帰る維康柳吉の頼りなさと、これ幸いと駆け落ちから大阪に帰れる口実を作る彼の打算を説明しているシーンです
旅館の中居さんのさっぱりした関東弁との対比で二人の大阪弁で全編進行する本作を包む雰囲気をものの見事に説明してしまう監督の演出の手際にも感嘆します
森繁久彌、淡島千景の演技は惚れ惚れするほどです
駄目男のだらしなさ、情けなさををこれでもかと演じきる森繁久彌の名演は神がかって驚嘆するレベルです
駄目男を更に甘やかせてしまう蝶子を演じる淡島千景は本当に愛情のこもった細やかな気遣いの仕草と表情を見せます
男の理想の女房像を見せてくれます
蝶子の父役の田村楽太も感嘆する名演でした
二人は本当の夫婦ではありません
駄目男とその浮気相手のカップルで籍は結局最後まで入りません
しかし本作の二人は本当の夫婦の姿です
駄目男の行状や言動や態度のひどさは耳が痛く胸が痛むものです
本作を観た男性陣はこれ程酷くはなくても、どれもこれも大なり小なり心当たりがあるものばかりでしょう
それに対する蝶子の怒り方、赦し方もまた思い出すとまた胸が痛むのです
それほどの見事なリアリティーです
本作にはシャイな日本人ができる精一杯の男女の細やかな愛情表現とその機微が画面一杯に全編に詰まっているのです
それが本作のテーマであり観る価値と意義なのだと思います
ラストシーンの肩を寄せあって小雪が降る中を歩く姿こそ、いろんなことを経験した末に結局このまま二人で生きていくのだという結論が心震えるレベルで映像となっています
長く連れ添って初めてわかる世界かも知れません
ラストシーンでの「頼りにしてまっせ、おばはん」の台詞を英語に訳すならそれはこうです
I Love You, Darling.
それはちゃんと伏線であるのです
本作で聞く大阪弁が本当の大阪弁です
現代のテレビで飛び交う大阪弁は本当の大阪弁ではありません
ほとんどが河内弁や泉州弁、播州弁が入り交じった汚い言葉です
本作はテレビはおろか今の大阪の街中でももう稀にしか聴くことのできない本当の大阪弁を聴くことができます
淡島は東京出身にも関わらず、宝塚にいたためかまるでネイティブのように大阪弁を操っています
自由軒は今も難波千日前のど真ん中にあります
本作のものと変わらないと思われるライスカレーが今も定番です
案外に辛いです。真ん中にある生玉子をかき混ぜないと大変です
何度も登場する水掛不動さん、法善寺横丁は今も本作と変わらない風情です
場所は道頓堀のすぐ近く、東京でいうなら歌舞伎町のど真ん中にあるとイメージして下さい
終盤に二人が入る甘味処の店名が夫婦善哉です
エンドマークに重なる人形はそのお店のお多福の招き人形です
このお店も本作そのままの場所に今もあります
蝶子のおでんやは何処にあるのか分かりませんが
水掛不動さんの脇に今も渋い戦前のままのようなおでんやさんがあります
カフェーは地下鉄谷町九丁目の近くにある生國魂神社の参道のようです
こちらはもはや戦前の繁華街の面影は微かにしか見いだせません
その近辺は今や大ラブホテル街です
有馬温泉のきつい坂の路地のような細い通りも本作のまま今もあります
流石に旅館はみな鉄筋コンクリートのホテルに変わっています
他にも戦前の道頓堀がちらりと写ったりします
それだけでも興味深く楽しめることができます
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