夫婦善哉

劇場公開日:

解説

故織田作之助の小説を「「春情鳩の街」より 渡り鳥いつ帰る」の八住利雄が脚色、「麦笛」のスタッフで豊田四郎が監督、三浦光雄が撮影、団伊玖磨(「「春情鳩の街」より 渡り鳥いつ帰る」)が音楽を夫夫担当。出演者は「芸者小夏 ひとり寝る夜の小夏」の森繁久彌、「修禅寺物語」の淡島千景、「おえんさん」の司葉子、「新鞍馬天狗 夕立の武士」の小堀誠など。第29回キネマ旬報ベスト・テン第2位。

1955年製作/120分/日本
原題:Love is Shared Like Sweets
配給:東宝
劇場公開日:1955年9月13日

ストーリー

曽根崎新地では売れっ妓の芸者蝶子は、安化粧問屋の息子維康柳吉と駈落ちした。柳吉の女房は十三になるみつ子を残したまま病気で二年越しに実家に戻ったままであった。中風で寝ついた柳吉の父親は、蝶子と彼との仲を知って勘当してしまったので、二人は早速生活に困った。蝶子は臨時雇であるヤトナ芸者で苦労する決心をした。そして生活を切り詰め、ヤトナの儲けを半分ぐらい貯金したが、ボンボン気質の抜けない柳吉は蝶子から小遣いをせびっては安カフェで遊び呆けていた。夏になる頃、妹の筆子が婿養子を迎えるという噂を聞いて、柳吉は家を飛び出して幾日も帰って来なかった。地蔵盆の夜、蝶子は柳吉を見つけ身を投げかけてなじった。柳吉は親父の家に入りびたっていたのは、廃嫡になる前に蝶子と別れるという一芝居打って、金だけ貰って後二人末永く暮すためだと云った。それは失敗に終ったが、妹から無心して来た三百円と蝶子の貯金とで飛田遊廓の中に「蝶柳」という関東煮屋を出した。ところが暫くして柳吉は賢臓結核となり、蝶子は病院代の要るままに店を売りに出した。柳吉はやがて退院して有馬温泉へ出養生したが、その費用も蝶子がヤトナで稼いだのであった。柳吉は父からもその養子京一からも相手にされず、再び金を借りて蝶子とカフェを経営することになった。やがて柳吉の父は死んだ。蝶子との仲も遂に許して貰えず、葬儀には参列したが柳吉も位牌も持たせてもらえなかった。二十日余り経って、柳吉と蝶子は法善寺境内の「めおとぜんざい」へ行った。とも角、仲の良い二人なのであった。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

3.5呆けた男と美女

2022年11月8日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

生まれる前の作品ですが、昭和が懐かしくなりました。古い日本映画をみると、男尊女卑が日常的に描かれていることに驚くことがありますが、今作も同様でした。森繁久弥扮する維康柳吉は、大きな化粧問屋の跡継ぎながら遊び呆けてばかり、それを健気に支える美しい芸者・蝶子(淡島千景)という構図は、製作者が男性中心のせいもあるかもしれませんが、今の時代から観ると隔世の感があります。古き良き時代といってはいけないかもしれませんが、ダメな男をしっかり女が支え、二人三脚で生き抜いていく姿に、ほのぼのした気持ちになりました。宝塚出身の淡島千景さん、気品があってとても美しい方でした!

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赤ヒゲ

5.0「頼りにしてまっせ、おばはん」の台詞を英語に訳すなら

2019年9月5日
Androidアプリから投稿

昭和7年1932年、戦前の活気溢れる大大阪と云われた時代のお話です

冒頭の地震は関東大震災ではありません
それは本作の舞台の9年も昔の出来事で、その年には記録に残るような大地震はありません
つまり関東大震災の再来かと大した地震でもないのに逃げ帰る維康柳吉の頼りなさと、これ幸いと駆け落ちから大阪に帰れる口実を作る彼の打算を説明しているシーンです

旅館の中居さんのさっぱりした関東弁との対比で二人の大阪弁で全編進行する本作を包む雰囲気をものの見事に説明してしまう監督の演出の手際にも感嘆します

森繁久彌、淡島千景の演技は惚れ惚れするほどです
駄目男のだらしなさ、情けなさををこれでもかと演じきる森繁久彌の名演は神がかって驚嘆するレベルです
駄目男を更に甘やかせてしまう蝶子を演じる淡島千景は本当に愛情のこもった細やかな気遣いの仕草と表情を見せます
男の理想の女房像を見せてくれます

蝶子の父役の田村楽太も感嘆する名演でした

二人は本当の夫婦ではありません
駄目男とその浮気相手のカップルで籍は結局最後まで入りません
しかし本作の二人は本当の夫婦の姿です
駄目男の行状や言動や態度のひどさは耳が痛く胸が痛むものです
本作を観た男性陣はこれ程酷くはなくても、どれもこれも大なり小なり心当たりがあるものばかりでしょう
それに対する蝶子の怒り方、赦し方もまた思い出すとまた胸が痛むのです
それほどの見事なリアリティーです

本作にはシャイな日本人ができる精一杯の男女の細やかな愛情表現とその機微が画面一杯に全編に詰まっているのです
それが本作のテーマであり観る価値と意義なのだと思います

ラストシーンの肩を寄せあって小雪が降る中を歩く姿こそ、いろんなことを経験した末に結局このまま二人で生きていくのだという結論が心震えるレベルで映像となっています
長く連れ添って初めてわかる世界かも知れません

ラストシーンでの「頼りにしてまっせ、おばはん」の台詞を英語に訳すならそれはこうです

I Love You, Darling.

それはちゃんと伏線であるのです

本作で聞く大阪弁が本当の大阪弁です
現代のテレビで飛び交う大阪弁は本当の大阪弁ではありません
ほとんどが河内弁や泉州弁、播州弁が入り交じった汚い言葉です
本作はテレビはおろか今の大阪の街中でももう稀にしか聴くことのできない本当の大阪弁を聴くことができます
淡島は東京出身にも関わらず、宝塚にいたためかまるでネイティブのように大阪弁を操っています

自由軒は今も難波千日前のど真ん中にあります
本作のものと変わらないと思われるライスカレーが今も定番です
案外に辛いです。真ん中にある生玉子をかき混ぜないと大変です

何度も登場する水掛不動さん、法善寺横丁は今も本作と変わらない風情です
場所は道頓堀のすぐ近く、東京でいうなら歌舞伎町のど真ん中にあるとイメージして下さい
終盤に二人が入る甘味処の店名が夫婦善哉です
エンドマークに重なる人形はそのお店のお多福の招き人形です
このお店も本作そのままの場所に今もあります

蝶子のおでんやは何処にあるのか分かりませんが
水掛不動さんの脇に今も渋い戦前のままのようなおでんやさんがあります
カフェーは地下鉄谷町九丁目の近くにある生國魂神社の参道のようです
こちらはもはや戦前の繁華街の面影は微かにしか見いだせません
その近辺は今や大ラブホテル街です

有馬温泉のきつい坂の路地のような細い通りも本作のまま今もあります
流石に旅館はみな鉄筋コンクリートのホテルに変わっています

他にも戦前の道頓堀がちらりと写ったりします
それだけでも興味深く楽しめることができます

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