愛(1954)
劇場公開日:1954年8月31日
解説
井上靖の短篇三つを集めたオムニバス映画で、富士プロ作品。脚本は「ママの新婚旅行」の植草圭之助と古川良範のコンビに監督の若杉光夫「美しい人」が加わって共同執筆している。撮影も「美しい人」の岡崎宏三の担当。出演者は「足摺岬」の木村功、「晩菊」の有馬稲子、「青春ロマンスシート 青草に坐す」の桂木洋子、「或る女」の森雅之、「大阪の宿」の安西郷子のほか、民芸の山内明、宇野重吉などである。
1954年製作/113分/日本
劇場公開日:1954年8月31日
ストーリー
東海道線下り急行の二等車。その中程にゆで卵を頬ばりながらハシャイでいる一組の若い男女と、彼等に羨望の瞳を投げているもう一組の男女が居た。杉千之助は双方の男女を無表情のまま見守っていた。第一話・結婚記念日--ハシャいでいるのは唐木春吉と妻加奈子だった。結婚三年目の二人に訪れた定期貯金の当選賞金で、旅行しようと妻の加奈子は主張した。春吉は反対したが結局こうやって出掛けて来た。箱根の豪荘な旅館に着いた時、先ず加奈子が怖気づいて飛び出した。つましく暮している加奈子には湖畔の食堂でのウドンだけで精一杯の幸福だった。始め旅行を主張した加奈子の旅行反対で、二人はまた夜更けのアパートへ戻って来た。やがて当選金をそっくり貯金出来るよろこびを残して二人の部屋の窓の灯が静かに消えた。第二話・石庭--今日で結婚十年目の魚見三郎と光子は、夫々過去を持っていた。光子はかって社会運動家の上野と熱烈な恋をしたが、結局秀才だけれども平凡な魚見と結婚した。魚見も学生時代、親友の戸塚と女給のルミを争った事があった。しかし二人の間には一見何の問題もなかった。魚見は旅行に来ても社用に追われながらも暇を割いて京都見物する優しさを持っていた。竜安寺の石庭--二人はそこで互いの脳裡に去来する物想いに耽った。魚見がルミと別れるのを決心させたのもこの庭だった。--その夜光子は置手紙を残して彼の許を去った。石庭の真実の美に打たれた光子は自分の本当の愛に目覚めたのだ。第三話・死と恋と波と--紀州木本の南紀ホテル。杉は自殺するためにとうとうここまでやって来た。隣室に泊っている辻村郡美も自殺志望者である事を、杉は見破った。その夜更け、豪雨にうたれシュミーズ一枚姿の那美が杉の部屋に入って来た。那美は、人が死ぬのを知りながら冷く見守っている杉の存在が気になって、却って死ねなかったのだ。二人は翌日ポンポン蒸気で岬を廻って遊んだ。この女はもはや死ぬまい、今度死ぬのは俺の番だ、杉はそう思った。その夜身を投げるべく杉は大岩壁の上に立った。しかし何時の間にか那美が近よっていた。那美は死ぬも生きるも杉に賭けていた。だが杉もやはり死ねなかった。ギリギリの女の真実が彼の死を甦えらしたのである。