劇場公開日 1988年4月16日

「街も、人の心も荒廃していくのが戦争」火垂るの墓(1988) 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 街も、人の心も荒廃していくのが戦争

2025年7月31日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

Netflixでの配信をきっかけに数年ぶりに見たが、いつ見てもこんなに痛切で胸をえぐられるような鑑賞体験は他にはない。
冒頭の清太が餓死する寸前のシーン。身体に力が入らないというリアリティが絵でこの上なく見事に表現されている。
劇映画にはできない、アニメにしかできないリアリティはここにあると思う。餓死のリアルだ。生身の役者がどれだけ肉体改造をしてもたどり着けない死が間近に迫った肉体のリアルがこの作品には描かれている。それは後半の節子の死のシーンも同様だ。

本作は戦争の物理的な恐ろしさも描くが、人の心の荒廃も描かれている。戦争で窮乏すればだれもが心に余裕がなくなり、子供を助ける気持ちすら失っていく。誰もが明日を生きることで精いっぱいなのだから、それもまた個人を責めるべきことではないのだが、そのように街も心も荒廃させるのが戦争なのだろう。この作品はいつの時代も見られるべき作品だと改めて思った。

杉本穂高