一人息子のレビュー・感想・評価
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【一人息子を女手独りで育て上げた女性が東京に行った息子を訪ねる物語。貧しくとも人間の豊かな心を持った人たちを小津監督らしい、優しい視点で描いた作品でもある。】
■早くに夫を亡くしたつねは田畑を売り払い、必死で息子・良助を育てていた。
小学校で優秀な成績を誇る息子、良助のため、進学の資金まで捻出する。
13年後、東京で出世しているはずの良助は、市役所を辞め、夜学の教師となっており、生活は苦しかった。
初めてそれを知ったつねはがく然とするが敢えて顔に出さずに良助に東京の名所を案内してもらう。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・良助の中学進学に反対していたつねが、一転し、“中学に進学して、偉くなって。”と言うシーン。どの親も思う事であろう。
・つねが良助を訪れると、良助には気立ての良い奥さんと幼子迄いるシーン。
ー 何で、つねを呼ばなかったのか最初は分からなかったが、良助が後半自ら言う通り、偉くなった自分を見せたかったのである。-
・良助は薄給の中、同僚から借金をしてつねを東京の名所に連れて行ってあげるシーン。
ー トーキーを見ながら、つねがうつらうつらしていても、優し気に見守る良助の表情。-
・つねが良助に”もっと出世していると思った。”と涙するが、良助も東京の生活の大変さを訴えるシーンはキツイが、翌日に貧しい隣家の子供が大怪我をしたときに、良助が母親に入院費を与える。
ー そんな、姿を見たつねは嬉しそうである。つねが、良助をキチンと育てたからこそ、彼は貧しいながらも人間としての心を持った大人に育っていた事が分かったからである。そして、つねは良助あてに平仮名の手紙と孫へのお小遣いを残して、信州の故郷に帰るのである。-
<今作では、登場人物は皆貧しいが、人間の優しい心を持っている。つねも良助も、良助の奥さんも・・。
そして、信州に戻ったつねが、嬉しそうに東京の話をするシーンが佳き作品である。>
息子よ母は。母よ息子は。
Amazon Prime Videoで鑑賞。
苦労して育てたのだから、息子には立身出世して欲しいと願う母。東京での暮らしのままならなさを抱えて悩む息子。
どちらの想いも分かるから、とても切なかったです。主人公母子の姿を通して地方と東京が対比されているのが面白い。
飯田蝶子の名演に涙を誘われました。
今の世の中では表現できない内容
昔、田舎で教えてもらった青年教師が、東京で会ってみると場末のとんかつ屋になっていた。笠智衆演じるそんなさえない男のもとへ、子供が生まれた報告に行くと、夜泣き封じの絵をくれる。
主人公は家に帰ると、さっそく子供を寝かせている部屋にこの絵を貼る。これ以降、家の中のシーンにはずっとこの絵が映っているのだが、魔除けとはいえ、なんだか陰気臭く、不気味な雰囲気を醸し出している。
しかし、主人公が、もう一度勉強をやり直して再起を図ると妻に誓った時のシーンには、この絵が映っていないのだ。彼が、とんかつ屋のように落ちぶれていく生活に、きっぱりと決別したことが示されている。
ところで、とんかつ屋が、落ちぶれた元教師のしがない生業として描かれているのだが、世のとんかつ屋たちからしてみれば面白くない話ではないだろうか。
特定の職業や職場での立場を、このようにネガティブにとらえる物語を、現在制作することは不可能なのではないだろうか。人種や性別と同様、職業や役職も、その描写に政治的な配慮が求められるこの時代だ。今、この映画を製作することは難しいことだろう。
そんなことを気にせずに物語を紡ぐことのできた時代の、牧歌的な表現をたくさん見ることができた作品。
文章を売る人たちも、その表現内容について、常に政治的な正しさを求められるのと同様、いやそれ以上に、映画の表現内容に対する世の中の検閲は厳しくなる一方だと思う。
教科書に載る古典文学がつまらないものに偏っていく原因も、映画が表現する人間や社会が、イデオロギーや性差、経済格差などを中和した平板なものになってしまう原因も、映画製作に携わる人々の能力の問題ではなく、こうした配慮を求められることにあるのではないだろうか。
確かに、自分や自分の親の職業を、落ちぶれた人間のやることと表現されると、気分は良くないだろう。それを我慢してまで映画を観る観客はいない。
表現の自由とは、政治権力やイデオロギーに支配を受けていないからと言って、いつでも保障されているものではない。むしろ、政治色やあからさまな性的描写さえ出さなければなんでも自由闊達に描くことができたのは戦前・戦中なのではないだろうか。
作品の時代性について考えるとき、昔の不自由さと今の表現の可能性の比較だけではなく、今の表現を巡る神経質な状況、昔の観客のおおらかさに目を向けることにより、その時代が、いかに豊かな表現が可能な時代であったかを確かめることができる。
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