人斬りのレビュー・感想・評価
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ドングリの背比べな村社会の「イザコザ」を残し、日本は世界に負けた。
殺陣を目的に見たが、御託を並べすぎ。
それならば、もう少しきちんとした解釈をしてもらいたい。
「岡田はもういらん。これからは、戦争よ」と武市に言わせしめるが、眉唾なファンタジー。
「気に入らぬなら国へ帰れ」
さて、国とは?
藩と言う村社会は、カオスを抱え、それが大日本帝國へと新たなカオスを生むことになる。そして、中国、米英、韓国に負けてカオスが表面的にやっと収まる。しかし、時すでにに遅し。相変わらずの空気を読めぬ顔色から、
全世界からは主役の座は降ろされる事になった。それで、良いとは思うが。
統一した大日本帝國としてのナショナリズムも無いまま、また、開国に対するリテラシーも東洋哲学もない者だけが生き残って、明治維新を迎え、鬼畜米英だけでなく、中国、朝鮮のアジアからも見下される目に合うのである。但し、哲学、リテラシーを持った人物が残っていても同じ歴史を繰り返した可能性は高い。
そもそも、この主人公はテロリストでは無く、ただの人殺しマニア若しくは、金の為に人殺しをやった人物だと思う。
唯一無二、三島由紀夫の切腹はリアル。勿論、良し悪しは別問題。
映画はアクション無しでスカスカ。やはり、テレビ。
何が為に斬る
五社英雄監督1969年の作品。
『御用金』に続くフジテレビ製作映画。
本作も大ヒット。同年に2本の時代劇巨編を大ヒットに導いた五社監督の手腕もさることながら、映画界に参戦したばかりの一介のTV局の商業も目を見張るものがある。なるほど、今も映画製作を続けている訳だ。
勝プロダクションも共同で製作。すでに映画を製作していたが、時代劇映画は本作が初。『座頭市』じゃなかったのか…。
主演は勝新太郎。共演に仲代達矢、石原裕次郎、デビュー間もない倍賞美津子。そして、三島由紀夫。豪華なスターたちと異色のキャスティング。
原作は司馬遼太郎。脚本は橋本忍。
五社監督の手腕もますます冴え渡った、こちらも一大娯楽巨編。
題材は、岡田以蔵。
幕末の四大人斬りの一人で、“人斬り以蔵”の名でも知られる。
扱われた作品は数知れず。時代劇に少々疎い私でも聞いた事ある。
が、詳しくは知らない。関わった事件、人物など絡むと私なんぞより歴史好きの方々の方が詳しく説明出来るだろうが、あくまで個人として見ると、『るろうに剣心』の剣心なのだ。(尚、剣心のモデルは同じく幕末四大人斬りの河上彦斎)
この国の未来の為と、人を斬る。それは“殺し”ではなく、“天誅”。
そう信じていた。が…
以蔵は己の矛先に何を思い、何を見たのか…?
土佐の貧しい村で燻るような暮らしをしていた以蔵。
彼の剣には他に縛られない野獣のようは鋭さがあり、その腕を武市半平太に見込まれる。
だが、まだ人を斬った事のない以蔵。人を斬るとは如何なものか、武市らが土佐藩執政・吉田東洋を斬る場を目に焼き付ける。(武市らによるクーデター事件)
斬る!斬る!斬る!…ギラギラメラメラと、己の中から燃えたぎる。
武市率いる土佐勤皇党は、京都へ。
その勢力は留まる事を知らず。中でも以蔵は“人斬り以蔵”と知れ渡り、一目置かれていた。
自分を見出だしてくれた武市への忠誠は変わらず、しかししばしば働きが度を過ぎ、武市から叱責を受ける事も。
そんな中、同じ土佐出身で今は別の道を歩む坂本龍馬と再会。
また、薩摩藩で同じ人斬りとして名を轟かせる田中新兵衛と出会う。
坂本龍馬から勝海舟の護衛を頼まれた事で、武市との関係が悪化。以蔵は離反。他の藩へ自分を売るが…。
俺を欲している藩なんて幾らでもいる。すぐ雇われる。
慢心だった。
何処も以蔵の腕は買うが、雇い入れるまでは及び腰。何故なら、
武市の“犬”で、暗殺者。もし雇い入れたら、土佐藩、勤皇党、武市…いずれとの関係が危うくなる。
武市の“犬”として飼い慣らされ、そこから逃れる事は出来ない。暗殺者として背負った宿命からも…。
新兵衛や想いを寄せ会う女郎の前で泣きじゃくる。
抗い、運命は自分で決める。が、そうは出来ない不器用な者も。
結局、武市に頭を下げ、戻るしかなかった。
武市から暗殺の密命。標的は耳を疑う人物。そしてその罪を、新兵衛がした事に。
以蔵は従うしかなかった。
以蔵の精神は苦悩に満ち、酒に溺れ…。
岡田以蔵の実物像は残されていないとか。数々の映画やドラマでは冷酷な暗殺者。二次創作のアニメやゲームではイケメンキャラ。
本作では勝新太郎が演じた事により、人間臭く、喜怒哀楽激しい人物に。
おそらく人によっては賛否分かれる。豪快な性格で、女も酒も好きなんて、勝新まんま。
勝新が岡田以蔵を演じたのではなく、岡田以蔵を勝新に合わせたような。
突飛なキャラ立ちでもある。しかしその中に、苦悩や哀愁を滲ませた熱演を見せる。
これはこれでスターの貫禄とインパクト充分。
武市も然り。調べると、高潔な人物とも評される武市。しかし本作では、目的の為なら手段を選ばない策略家で、不要になったら忠犬でさえ無情に切り離す冷酷さ。人斬りの以蔵より恐ろしい。仲代達矢が抑えた演技でそれを感じさせる。
無情に切り離す主もいれば、気遣う友も。人斬りや武市配下の以蔵の今の境遇を、何とか脱してやりたいと手を差し伸べる坂本龍馬。石原裕次郎が好助演。
勝新以蔵も仲代武市も石原竜馬も、イメージと違う、コレジャナイ!…と感じる人も多いだろう。が、圧倒的オーラのスター同士の共演については、誰も異論無い筈。これも映画鑑賞の醍醐味の一つ。
とりわけ異彩を放つは、田中新兵衛役の三島由紀夫。
出番はそんなに多くない。途中退場も…。が、
田中新兵衛はある暗殺事件の犯人とされる。明確な証拠は無いが、犯人である事に間違いないとの後年の検証。本作では罪を着せられた形に。
その取り調べ中、肯定も否定も曖昧のまま、突然切腹自害。史実通り。
演じた三島由紀夫も公の場で切腹自害した事はあまりにも有名。しかもそれを決行したのは、本作の翌年の事。
何の因果なのか、劇中と実際が奇妙にリンクし、三島の迫真の演技もあって、忘れ得ぬシーンに…。
ただただ演じただけなのか、三島由紀夫のリアルなのか、それとも田中新兵衛が憑依したのか…?
とは言え本作は、五社監督の手腕が存分に活かされた娯楽巨編。
橋本忍脚本による話は中弛みせず。
ダイナミックなアクションや見せ場。生々しい暗殺シーン。
訴え、問うドラマやメッセージ性も。
国の未来の為とは言え、国家転覆を図った彼らは、テロリスト。
そんな彼らをヒロイックに描くのではなく、罪人としてのその最期。哀しき末路。五社監督の“滅びの美学”。
利用され、裏切られ、切り棄てられ…。
そんな中でも友と話した夢があった。
いつの日か、農民も侍も殿様も平等な世界が来る。
いや、それこそが、この国の未来だ。
夢物語? いいじゃないか、そんな夢を見て。信じて。
今のこの国は、そんな夢見た世界に、未来になったか…?
以蔵よ、今の日本をどう見る…?
哀しきテロリストの自我の目覚めと自由への渇望。
①幕末は日本史の中でも最もテロリズムが横行しテロリストが暗躍した時代である。新撰組など正体はテロリスト集団である。本作は司馬遼太郎の原作を元とした土佐勤王党の有名なテロリスト岡田以蔵のお話。②司馬遼太郎は主人公を美化したりヒーローに仕立てる為に結構史実を湾曲する人なので、なるべく史実に忠実であって欲しい歴史好きとしては余り好きではない作家(大学の先輩だし、母方の里は奈良なんですけれどね)。③本作の岡田以蔵像やエピソードも史実からかなり離れていたり史実にないものも多い。ただ、これはドキュメンタリーではなく映画なので史実と混同さえしなければ、平均以上の出来の娯楽時代劇映画であるし、それで良いと思う。④最初は土佐勤王党のテロリストとして武市半平太の命令のまま人を斬り(殺し)まくっていたのに、殺し過ぎと煙たがれ重要任務からは外されるようになり、それでも命令に絶対服従と強要されるなかで、矛盾と疑問と孤独とを感じて一人の人間としての自我に目覚めていく岡田以蔵像なので、必然的に武市半平太が悪役となっている。テロリスト集団のボスというだけでなく、目的のためには協力者や仲間を平然と殺し、最後は戦争という手段で国家転覆を目論むヒトラーみたいな悪辣な人物造形になっているのがある意味スゴイ!⑤本作での、教育が無いため命令に盲従していたり功名心を押さえきれない一種子供のような一面があると共に、自我に目覚め内省し苦悶し絶望し悟っていく姿に感情移入できる岡田以蔵像を愛嬌たっぷりに演じて、勝新太郎はやはり並ではない俳優であったと思わせる。
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