張込み(1958)のレビュー・感想・評価
全15件を表示
スリリングではないサスペンス
形式としてはサスペンスなのですが、主人公が張込み対象の女の人生を覗き見し結果として自らの人生について思いを巡らせる物語です。
ですので、張込みや追跡のシーンで手に汗握らない点は受容します。
昭和30年代初頭の生活や建物、汽車、車両が見られるのも良いです。
九州は遠いですね
無味乾燥な日々を過ごす横川が石井と再会した途端に急変、秘めていた激情を発露させる高峰秀子氏の演技も実に良いですね。
神保町シアターさんにて特集企画『横溝正史と松本清張――映画で味わう至高のミステリー対決』(2025年5月3日~30日)開催中。
本日は『張込み』『黒い画集 ある遭難』『けものみち』の松本清張作品3作をはしご鑑賞。
『張込み』(1958年/116分)
原作・松本清張氏、『砂の器』の野村芳太郎監督、脚本・橋本忍に加え、山田洋次氏も助監督として参加した超豪華布陣。
映画化に際して、松本氏と橋本氏が警視庁に取材、原作の単独張込みから若手とベテランのバディに変更したことで、警察側の動向や刑事の心理描写がリアルになりましたね。
本作が出色なのは、追跡中の犯人の昔の恋人を張込むため、新幹線開通前、蒸せるような暑さのなか、横浜駅~佐賀駅の列車移動シークエンスが実際の車中で一昼夜撮影、冒頭長尺で採用されている点。
当時の記録としても貴重ですが、「張込む」という画替わりしない題材を飽きさせないよう冒頭に動きのあるシーンを差し込む橋本忍氏の脚本は心憎いですね。
張込みを続けることで、次第に犯人・石井(演:田村高廣氏)の昔の恋人・横川さだ子(演:高峰秀子氏)に心惹かれていく若手の柚木刑事(演:大木実氏)の心の機微、相棒のベテラン刑事・下岡を演じる宮口精二氏の『七人の侍』の久蔵とは180度全く違う軽妙洒脱な演技が実に良いですね。
特に石井と別離後、生活のためケチな銀行員の後妻となって、無味乾燥な日々を過ごす横川が石井と再会した途端に急変、秘めていた激情を発露させる高峰氏の演技も実に良いですね。
Woman
列車の窓を開けて天井で回る扇風機の風を待ちながら汗をかいて居眠り。
オープニングの蒸気機関車のシーンから一気に昭和の真夏へタイムスリップ。
羊や牛が行交うのどかだけど寂寞とした田舎の景色はエモいを通り越して心象風景のよう
みんなで聴くラジオからは日本人の魂そのもののような美空ひばりの歌が流れて…。
大木実みたいな顎がガッチリした男臭いイケメンはいなくなりましたよね。
今なら高峰秀子の役は安藤サクラとか平岩紙?江口のりこ?
難役をこなす女優はいるのでしょうが、高峰秀子の醒めきった佇まいは独壇場。
主張は強く無いのにどんな役も結局この人しか考えられないと思えてしまう。
教科書のような大女優。
女の本質を知り、男は迷いを断ち切る。
性差のロマンチシズムも昭和ならでは。
16年前の『砂の器』
雨の中でのケンケンパ
高峰秀子は主役ではなかった。刑事が主役だった。そして、高峰秀子は徹底的に観察(ほんとは監視)されるのだった。好きだった人とは結ばれず、年上の細かくて口うるさい、三人の子供がいる男と結婚し、自分の気持ちを殺して生きる女。その暮らしぶりを見ているうちに、女に同情するようになる刑事。彼にも好きな女がいた…。
殺人事件が起こり、警察が犯人を追う話ではあるが、サスペンス要素は薄い。高峰秀子は主役の刑事の、プライベートな決断を後押しする役割だった。彼女が生き生きするのは、今の生活を捨て、昔好きだった男とやり直そうと、覚悟をする瞬間であった。夏の強い光の下で、その顔は輝いていた。しかし、時は遅かったのだ〜(涙)。タイミングって大事なのね。
どしゃ降りの雨の中、下駄の鼻緒が切れて、ケンケンパする高峰秀子が、すごくかわいかった。これ、昔は出会って恋が始まる場面なんだけど、なんも起こらない〜。がっかりだよ。
BS松竹東急の「生誕100年高峰秀子特集」放送を録画で鑑賞。
この映画は、日本のフィルム・ノワールの傑作ではないか。
BS260で視聴
この映画のことは、川本三郎さんの何冊かの著書で教えられてきた。初めて観る機会を得た。
深川で起きた強盗殺人事件で逮捕された容疑者の男が、逃走中の共犯者がいたことを自供する。しかも、3年前の上京時に別れた女を忘れかねていたようだ。そこで、捜査班の二人の刑事、若い柚木(大木実)とベテラン下岡(あの宮口精二)は、共犯者を待ち伏せるために、夜行列車でほぼ丸一日をかけて佐賀へ向かう。女は、佐賀の銀行員の後妻になっていた。銀行員の家の前にあった商人宿の部屋を借りて、張込みを開始する。
これは強いコントラストのモノクロで犯罪映画を描くフィルム・ノワールではないかと思った。
二人は、宿の2階の物陰から女を見張っている。女が買い物や、銀行員の代理として葬儀のため外出する時、クラシックの作曲家である黛敏郎の作ったモダンジャズが流れる。ピアノ、ドラムスにクラリネットのトリオが多いが、弦楽がからむこともある。これが素晴らしい。背景の自然音に調和し、しかも臨場感がある。撮影にも工夫がこらされていて、宿からの見張りの場面はセットだが、女が外出するとロケの映像が使われる。しかし、そこに切れ目はない。さらに、それまでの捜査の経過や、捜査員の境遇がフラッシュ・バックで挿入される。見事な脚本。フレンチ・ノワールにも負けない出来栄え。
ただいくら張込みを続けても、何も起こらなかった。最後の7日目、もう帰京する日になって、僅かな前兆の後、ついに女が動き出す。柚木が一人で尾行することになるが、お祭りに巻き込まれ、すぐに見失ってしまう。二人が再会すると予想し、懸命に追いかける。ただし、柚木のモノローグは説明的で興がそがれる。やっと二人を探し当てるものの、あんなに近くで見守っていたはずなのに、また見逃してしまい、動きはややコミカル。しかし、それを補って余りあるのが女を演ずる高峰秀子の演技。「二十四の瞳」、「浮雲」の後で、彼女の女優としての最盛期と思われる。それまで家事と3人の子の育児を行うだけで、何の心の動きもなかった。男と再会して、情熱が吹きこぼれる。しかも清楚で、限りなく美しい。
事件が決着し、再び夜行列車に乗って二人の刑事が帰京する時、最初、東京駅で夜行列車に乗ろうとして記者に嗅ぎつかれ、やむなく省線(JR)で横浜に出て、列車に飛び乗ったことが明らかにされ、環が閉じる。
この映画のことを教えてくれた川本三郎さんと、放映したBS260に感謝。
さぁ、張込みだ‼️
映像の世紀(昭和の記録として)
完璧な名作です!
原作 松本清張、監督 野村芳太郎、脚本 橋本忍、音楽 黛敏郎という布陣で面白く無い訳がないです
果たして期待以上の面白さ!
登場する主演男優も、ヒロインの高峰秀子も、脇役の浦辺粂子等も見事、皆素晴らしい演技です
カメラも良い映像でしかもワイド
張込みという設定を、クレーンでヒロインの日常を俯瞰するという極めて映画的な撮り方で活かしています
さらに佐賀の市内、郊外、九州の高原を美しい階調で撮っています
序盤で宿に入って聴こえてくるラジオの天気予報
良く聴くと確かに雷雨を予報してます
芸が細かいです
冒頭の長い長い列車シーンが続いてようやく張込みが始まりやっとタイトルがでます
このシーンも駅名表示や駅名をズラズラと登場人物に語らせたり、関西訛りの男を出したりして、その遠距離さを表現すると同時に、遠隔地で の捜査の大変さを私達観客に手早く飲み込ませてくれます
そして息が詰まるような変化のない張込みシーンが延々と続いた後、起承転結の転からの動きのある展開に一気に雪崩れ込むのです
空撮まで取り入れて地平線まで広がる田園地帯を走る車を追い、やがて美しい光線の溢れる高原へ誘われることで、そこで解放感を感じるのです
それはヒロインが感じている解放感を観客に理解させる為の演出でもあった訳です
この素晴らしい構成にも舌を巻きます
尾行シーンではモダンジャズ風の緊迫感のある音楽が乗ります
まるでフランス映画のフィルムノワール的な味わいを醸し出します
高峰秀子のヒロインと犯人との会話が若い刑事の抱えている心情にビシビシ突き刺さっていくシーン、そしてラストシーンの若い刑事が犯人にかける言葉は実は自分のことである二重性も素晴らしい味わいを残します
完璧な名作です!
高千穂ひづる
ストレンジャー・ザン・パラダイスみたい
見た目は地味だが、緊迫感のあるサスペンス
この映画、派手なものを求めている人なら絶対に物足りない映画になるだろう。
しかし、これぞサスペンスな映画で今、見ても結構おもしろかった。
今作は、とにかくリアルを追求していて音楽もそんなになく、地味である。
しかし、これ張り込むだけのシーンなのに緊迫感を感じられる。劇場だったらその場にいるような臨場感を味わえる作品だと思う。
さらに張り込みだけで緊迫感があるのに尾行シーンでさらに上げさせられる。とにかくいつバレるのかのドキドキ感があって画面に釘付け。
クライマックスの追跡シーンでさらに映画は盛り上がっていき、最後の方で彼女の待ち続けた恋愛映画でもあることがわかり、ラストはどこか切なく終わる作品だった。
やはり野村監督は、こういう緊迫感を上げる作りがウマいな…。
最後の妻が泣くタイミングはリアリティを追求していたことがわかる見事な演出だった。あと、張り込みで見た妻の家の雰囲気で後々に会う犯人と今のつまらない家庭の対比も見事でした。
とにかく白黒作品ではあるが、今見てもおもしろいと言える傑作でした。
全15件を表示