華岡青洲の妻

劇場公開日:1967年10月20日

解説

有吉佐和子の同名小説を「妻二人」の新藤兼人が脚色し、「痴人の愛(1967)」の増村保造が監督した文芸もの。撮影はコンビの小林節雄。

1967年製作/99分/日本
原題または英題:The Wife of Seishu Hanaoka
配給:大映
劇場公開日:1967年10月20日

あらすじ

父妹背佐次兵衛が近郷の地士頭と大庄屋を勤め、禄高百五十石の家柄の娘加恵は、請われて華岡家に嫁いだ。夫となる華岡雲平は医学の修業に京都へ遊学中で加恵はその三年間、夫のいない結婚生活を送らねばならなかった。しかし、雲平の母於継は、その気品のある美しさで、加恵にとっては幼い頃からの憧れの的であり、その於継との生活は楽しいものだった。於継も彼女には優しく、雲平の学資を得るための機織り仕事も加恵には苦にならなかった。やがて、雲平が帰って来た。加恵は初めて夫の顔を見て、胸のときめきを覚えたが、その日から、於継の彼女に対する態度がガラリと変った。於継は妻の加恵を押しのけて、ひとり雲平の世話をやき、加恵を淋しがらせた。加恵はそのときから於継に対して敵意に似たものを胸に抱くようになった。まもなく雲平の父直道が老衰で亡くなると、雲平は青洲と名を改め、医学の研究に没頭していった。彼の研究は、手術に際して麻酔薬を用いることで、何よりもまず、白い気違い茄子の花から、完全な麻酔薬を作り出すことであった。一方加恵は於継の冷淡さに、逆に夫に対する愛情を深めていたが、そんなうちに、彼女は身ごもり、実家に帰って娘の小弁を生んだ。しかし間もなく、於継の妹於勝が乳ガンで死んだ。周囲の者は、青洲が実験に使う動物たちのたたりだと噂しあった。その頃、青洲の研究は動物実験の段階ではほとんど完成に近く、あとは人体実験によって、効果を試すだけだったが、容易に出来ることではなかった。ある夜、於継は不意に自分をその実験に使ってほしいと青洲に申し出た。驚いた加恵はほとんど逆上して自分こそ妻として実験台になると夫に迫り、青洲は憮然と二人の争いを眺めるのだった。意を決した青洲は二人に人体実験を施したのである。実験は成功だったが、強い薬を与えられた加恵は副作用で失明した。その加恵に長男が生れるころ、於継が亡くなった。青洲はやがて、世界最初の全身麻酔によって、乳ガンの手術に成功したのだった。この偉業の陰に、加恵と於継の献身的な協力と、そして二人の対立が隠されていたのだが、いま、加恵は、そんなことは忘れたかの如くかつての於継のように美しかった。

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映画レビュー

青洲の成功譚でも妻の美談でもなかった

2025年8月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 日本最初の麻酔外科医である華岡青洲の名は知っていたし、彼の妻が自ら進んで全身麻酔の人体実験の対象となった事も知っていました。そして、有吉佐和子さんがそれを小説にしてベストセラーとなった事も読んではいないが知っていました。でも、妻の献身のそんな絵に描いたような美談をどうして有吉さんが自作で取り上げたのかは不思議に思っていました。これは、その有吉原作の映画化作です。

 なぁるほど、この映画を観て、有吉さんが自作に取り上げた訳が分かりました。本作は、麻酔薬完成に至る青洲の成功譚でもなければ、妻の自己犠牲の美談でもありません。一人息子の青洲を溺愛し、その出世と成功を祈る母(これを高峰秀子さんが演じ、その迫力が凄まじかった)と、その母の冷たい圧力に屈しまいとする妻(若い若尾文子さんも熱演)の嫁姑物語だったのです。しかし、それは橋田寿賀子ドラマ的なグズグズ・ホームドラマではありません。この時代にはこんな形でしか生き方を見つける事が出来なかった女性達の異議申し立てが潜んでいるのです。現代的に観ればフェミニズム・ドラマの萌芽と言ってよいかも知れません。

 市川雷蔵映画祭で上映される本作の雷蔵=華岡青洲は嫁姑問題は見て見ぬふりをして自分の仕事にだけかまけてる無責任男で、ほんの脇役にしか見えないのが皮肉でした。

 ちなみに、本作では、アヴァンタイトルの造りも、遠近感を生かした映像の構図やカメラ割りもかなり現代的でカッコよかったな。

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La Strada

4.0女同士の愛憎と相克を深く描いている

2025年6月26日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

知的

斬新

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ねこたま

3.5美談じゃなかったんだ

2025年5月25日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

悲しい

知的

難しい

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TRINITY:The Righthanded Devil

4.0構図と構成の巧みさ

2025年4月13日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

原作が素晴らしいのは言うまでもなく、その映画化としてもよいものである。アヴァンタイトルの、男は基本的には問題外であることをさりげなく示しつつ「これはどえらいことが始まるぞ〜」と思わせる描写、なかなか登場しない雷蔵、飄々と浮世離れし続ける雷蔵、前:姑・後ろ:嫁の構図が繰り返されながらいつの間にか入れ替わっていることなど、構成や構図によって物を語るところが面白い。“加江、覚醒”というシーンもあって、そこはなんだか『アプレンティス』など思い出した。被造物が創造主を凌駕する瞬間。/そして紛うことなきシスターフッド映画。

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ouosou

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