劇場公開日 1951年10月3日

「逆に今の映画やドラマが余白を廃して説明過多になり過ぎているのでしょうね。」麦秋 矢萩久登さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0逆に今の映画やドラマが余白を廃して説明過多になり過ぎているのでしょうね。

2025年1月5日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

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早稲田松竹さんにて『小津安二郎監督特集 紀子三部作 ~NORIKO TORILOGY~』(25年1月4日~10日)と題した特集上映開催中。
本日は『晩春』(1949)、『麥秋』(1951)、『東京物語』(1953)のそれぞれ4Kデジタル修復版を英語字幕付きで鑑賞。
英語字幕付きのためか外国の方や若い方の来館者も多く、70年以上前の作品にも関わらず150席の館内はほぼ満席でしたね。

『麥秋』(1951)
『晩春』(1949)に続く紀子(演:原節子氏)三部作の2本目。
前作で父娘を演じた笠智衆氏と原節子氏が本作品では兄妹の設定、さらに父親・周吉を演じた菅井一郎氏は当時44歳で笠智衆氏とは3歳しか離れておらず、笠氏もいつも以上に若作りしておりますが、最初の数十分は正確な家族構成の把握に苦心しましたね。
本作でもベースは適齢期(当時25歳)を過ぎた紀子(28歳)の結婚話ですが、前作の父娘から家族とその周辺まで人間模様を広げた構成。舞台も北鎌倉で変わらず。

本作で特筆すべきは良家の良縁に恵まれるよう望む家族や周囲の期待とは裏腹に最後は決して裕福ではない戦死した次男の友人で幼馴染の謙吉(演・二本柳寛氏)と結ばれるのですが、紀子と謙吉の間に恋愛模様、過程のシーンが一切存在しないところ。謙吉の母(演・杉村春子氏)がダメもとで何気なく「息子と結婚してくれ」と語ったところで快諾するだけ。

監督曰く観客に余白を残して各自でイメージして欲しいとのことですが、あくまでも紀子とその家族だけにフォーカスあてる意図であれば、大胆ですが尺を考えると悪くない判断ですね。逆に今の映画やドラマが余白を廃して説明過多になり過ぎているのでしょうね。
個人的には紀子が『どんなに良家のご子息でも40歳にもなって独身なんて信用できないわ』というセリフは70年前とはいえグサリと来ましたね。

矢萩久登