パイナップル・ツアーズのレビュー・感想・評価
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紙幣爆撃
本作を見て、やはり沖縄という空間は日本という国家の一部にやすやすと接収できるようなシロモノではないなと改めて思った。
文化的差異ももちろんそうだが、何よりそこに流れている時間の速さが違いすぎる。そこでは時間は時計の秒針によってではなく、雨や風などの自然のダイナミズムや冠婚葬祭をはじめとする伝統的慣習によって区切られている。それゆえどれだけ画面そのものがワチャワチャしても、せせこましい感じがしない。
異国情緒、などという手近な語彙で片付けたくはないが、それでも我々内地人からするとやはり沖縄は日本とは異なる別世界に思われる。『ウンタマギルー』なんかを見たときもそう思った。
本作は3つのセクションからなるオムニバス作品だが、それぞれのセクションが登場人物や世界観を完全に共有しているためほとんど一本の映画といって差し支えない。どの部も沖縄の緩やかな時間の流れを感じられて心地よいが、とりわけ3部「爆弾小僧」は記憶に残った。
洞口依子演じる杉本は、島に埋まった不発弾を発見すれば発見者に1億円を贈呈するという。それを聞きつけた地元のパンクバンド「爆弾小僧」の2人組は、ニセの爆弾を造って1億円を強奪しようとする。2人は杉本が乗ってきた小型飛行機に乗って島から逃亡を図るが、ああだこうだと揉めている間にエンジンをかけっぱなしていた小型飛行機は勝手に空へと舞い上がってしまう。もちろん1億円のアタッシュケースと一緒に。
島民たちは島の上をフラフラと滑空する飛行機を見上げる。すると飛行機からヒラヒラと何かが紙吹雪のように舞い落ちてくる。それはアタッシュケースから漏れ出した無数の紙幣だった。島民たちは思わぬ僥倖に狂喜乱舞しながら紙幣をかき集める。そしてそんな大熱狂の中で本作は幕を閉じる。
これら一連のシークエンスが太平洋戦争における米軍の加虐に対する、被虐側(=沖縄)からの文化的反撃であることは自明だ。島の上を滑空する小型飛行機は米兵と爆弾の乗ったB-29そのものであるし、巨大な資本をちらつかせ島民を誘惑する都会人の杉本は戦後に沖縄本土へ流れ込んできた米軍の姿と重なる。本作の冒頭にあった米軍による沖縄空爆シーンは明らかに本シーンの枕詞として付置されていたように思う。
しかし本作の小型飛行機は爆弾ではなく金銭の雨を降らせる。当の杉本は軽トラに乗ったまま海に落っこちて威厳もへったくれもない末路を辿る。一方で島民たちは空から突如として降ってきた1億円の恩恵に湧き上がる。
島民たち、つまり沖縄の人々は、一切の暴力的措置を講じることなくして米国(あるいは内地)に一矢を報いたというわけだ。
それにしてもこれだけ強大なイデオロギーを、あくまで沖縄映画に伝統的な間の抜けたマジックリアリズムによって表現したというのがすごい。こんな主題を扱おうとすれば普通はもっと平々凡々なドキュメンタリー的作風に寄ってしまうと思う。
今年は沖縄返還50周年の節目であるわけだが、なぜか都内でそれを視野に入れた上映キャンペーンなどが行われていないのが悲しい。DVD化やサブスク配信をしていない作品も多いから是非やってほしいんだけどな。
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