「無菌的性善説」映画ドラえもん のび太のねじ巻き都市冒険記 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5無菌的性善説

2024年10月30日
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ドラえもんが22世紀の福引で手に入れた小惑星引換券。最後の1枚の番号をどこでもドアに告げると、そこには美しい緑の惑星が。のび太一行は「生命のねじ」で生命を吹き込んだおもちゃをその惑星に放ち、おもちゃたちによるねじ巻き都市を建国する。

とまあドラえもん映画に特有の導入パートを経て本編が開始されるわけだが、本作ではそこへ熊虎鬼五郎というイレギュラー要素が紛れ込む。

鬼五郎は現実世界の刑務所から逃げ出した凶悪脱獄囚なのだが、彼はひょんなことからのび太宅のどこでもドアを発見し、そこからねじ巻き都市のある小惑星へと逃げ込んでしまう。

のび太一行が都市開発を進める傍ら、鬼五郎はドラえもんがおもちゃたちに渡しておいたおもちゃの複製装置を悪用し、自分の分身を何人も製作する。鬼五郎はのび太一行が森の向こうの湖に金塊があるという情報を嗅ぎつけ、彼らより先に金塊をせしめようと企む。

しかし湖に沈んでいたのは金塊ではなく金色の巨人。鬼五郎とその複製たちは金塊を諦め、ドラえもん一行を直接脅しにかかる。その道中でのび太が谷底に転落。のび太を除く一行はどうにか鬼五郎から逃げ延びることに成功する。

谷底に転落したはずののび太は「種まく人」という超越的存在に命を助けられていた。彼はその名の通り生命を生み出すことができ、地球の生命もまた彼が種をまいたことにより誕生した。

種まく人は惑星に生命を吹き込もうとした矢先にのび太やおもちゃたちがやってきたため、嵐や黄金の巨人によって彼らを排除しようとしたが、彼らに悪意がないことを知り、以後の成長を見守ることにした。

惑星の支配を目論む鬼五郎たちを危機一髪で撃破したのび太たち。惑星の未来をおもちゃたちに託して惑星を後にした。

本作の主題は言わずもがな性善説だ。のび太たちが持ち込んだおもちゃが高度な倫理意識を持っていることも、超越的な力を持つ「種まく人」が敢えてのび太たちを静観していることも、鬼五郎の複製の中に「ホクロ」と呼ばれる無害な人格の者がいることも、全ては楽観的なまでの性善説に基づいている。

しかし翻って言えば性善説の範疇を逸脱した者の存在する余地がないともいえる。「種まく人」というおっかない排除システムが存在するのも、人格を一元化された鬼五郎が極悪脱獄囚の「鬼五郎」ではなく心優しい「ホクロ」になるのも、よくよく考えてみるとちょっと恐ろしい。

因果