遠き落日
劇場公開日:1992年7月4日
解説
世界的な細菌学の権威として広く知られる野口英世の一生を、その母シカとの関係を通して感動的に描いた伝記ドラマ。脚本は「ぼく東綺譚(1992)」の新藤兼人が執筆。監督は「白い手」の神山征二郎、撮影は同作の飯村雅彦がそれぞれ担当。
1992年製作/日本
配給:松竹
劇場公開日:1992年7月4日
ストーリー
磐梯山と猪苗代湖に挟まれた貧しい農村に、後の世界を代表する医学者・野口英世は生まれた(本名は野口清作)。母親であるシカは幼児2人をかかえて、酒ばかり飲んで働こうとしない夫に代わって過酷な農作業をも一身に引き受け、一家の生計を支えていた。そんなある日、シカは自分の不注意から清作の左手に大火傷をさせてしまい、その負い目に耐えながら生きていくことになる。やがてシカは、清作が貧しさや左手の不自由さにいじけないようにと小学校へあげることにした。だが、学校ではいじめられ、思い詰めた清作は発作的に自らの左手を小刀で切り裂こうとさえした。それでもシカの必死の姿を励みに清作は勉強にいそしんだ。またそんな息子がシカの心の支えでもあった。その甲斐あって清作の成績はみるみる向上し、小林栄先生の手によって、あきらめていた高等小学校への道も開かれた。やがて小林先生をはじめ、みんなの善意で手術の費用が集められ、清作の左手も動かすことが出来るようになった。これをきっかけに清作は、医学の道を志すようになり、小林先生のすすめで、母のもとを離れ恩人渡辺医師の門下で勉強することになる。やがて清作は“英世”と改名し、上京の後、次々と難関を突破、晴れて医師の資格を得ることになる。だが、不自由な左手や学歴の差のために研究や診察を思うようにさせてくれない教授達の態度に、英世は酒や女におぼれた日々を送り、見かねて上京したシカに英世は左手の不幸や貧困を嘆くが、シカは涙ながらに自らもまたあの火傷の事故以来、逃れられない苦しみを背負っていることを告げる。やがて日本で医学を学ぶことに限界を感じた英世は、アメリカに渡って、当時最も注目されていた細菌学に取り組むことになる。そこで寸暇を惜しんで研究に没頭する英世は、アメリカ人のメリーと結婚し、渡米して10年の年月が流れるころ、ついに梅毒のスピロヘータを発見、世界に名が知られるようになる。そのころ英世がいない寂しさをまぎらわすかのように働いていたシカは、英世に会いたい一心で初めて手紙を書く。そして英世は15年ぶりに日本へ戻り、シカと再会するのだった。時を忘れて語り合う2人。英世は左手の苦しみを完全に克服していた。この時はじめてシカは、あの火傷の事故以来36年間に渡る苦しみから解放されたのである。3年後、シカは、研究のために世界中を飛び回っている英世に見取られることなく、静かに息を引き取った。その後、英世も黄熱病の研究のため渡ったアフリカで、その黄熱病にかかり、51年の生涯を閉じた。その時、彼の目に映ったのはアフリカの大地に沈む真っ赤な太陽だった。