「女の子の最後の姿が残す郷愁感」転校生 Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
女の子の最後の姿が残す郷愁感
総合:90点
ストーリー: 80
キャスト: 95
演出: 90
ビジュアル: 75
音楽: 70
特別美男美女とかおしゃれなわけでもなく、変に洗練されていないどこにでもいそうな中学生だが、それなのに登場人物の魅力がとびきり高い。男女が入れ替わって違う性別になったのに、元の性別としての習慣が抜けない演技が素晴らしかった。特に小林聡美は上出来で、乱暴な言葉づかいが出たりスカートはいていても平気で足を開いたり、あるいは歩き方一つも男っぽくしたりと努力の跡が窺える。胸を出したりして本人は相当恥ずかしかったと後に語っているが、恥ずかしさを感じさせない自然な少年らしさを押し出している。最初は一夫をからかっていた強気な一美なのに、体が入れ替わった途端に弱気で女々しくなって、何とか立場を受け入れてしたたかに生きる一夫と立場が逆転しているのも面白い。特殊な状況に置かれた二人だけの悩みを通じて、純粋な気持ちでいつしか共感を育んでかけがえのない存在になっていく姿に引き込まれる。学校や家庭でのどこにでもある場面の一つ一つが感情いっぱいに描かれ、平凡になることなく充実している。本来有り得ない特異な話なはずなのに、今の若さを駆け抜けている新鮮な二人のせいで、この状況に違和感を感じることもなく楽しめた。
それは出演者に加えて、大林監督の手腕が見事に発揮されている部分もまた大きいだろう。大林宣彦監督はたいしたセットを作るわけでもないし素晴らしい活劇があるわけでもないが、ありふれた人物の微妙な心の動きや何気ない町の雰囲気を魅力的にする手腕に優れている。白黒映像に残る、精一杯追いかけてきてから振り返り、まるでそのまま何事もなかったかのごとくスキップしていく女の子の最後の姿の醸し出す郷愁感が何とも心に残る。
尾道という地方都市の使い方も素晴らしい。東京一極集中の時代に、広島の地方の小規模の港町のありふれた風景を効果的に使って、そこに魅力を発見して視聴者に伝えている。灯台下暗し、である。ありふれた田舎町の風景が、この映画のせいで特別な思い入れのある町に写り、監督の故郷への愛着が感じられる。
黒澤映画やアニメといった一部の例外を除いて、基本的に邦画の質は洋画に比べて低いと感じていた。しかしこの映画を見てから、邦画も捨てたもんじゃないと思い直した。この後続く彼の他の尾道シリーズも良作が揃っている。