「大好きなオレ、大好きなアタシ、大好きな尾道、大好きな大林映画」転校生 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
大好きなオレ、大好きなアタシ、大好きな尾道、大好きな大林映画
大林宣彦監督1982年の作品。
言わずと知れた監督の代名詞、“尾道3部作”の第1作目。
今では“尾道3部作”と言われているが、当初はそんな予定は全く無く、たまたま故郷・尾道を舞台にし、たまたま『時をかける少女』『さびしんぼう』も同舞台となり、後にファンがそう呼んだもの。
それが大林監督の名高い代表作になるのだから面白い。
話は今更語る必要も無いが、
斉藤一夫と斉藤一美。
一字違いの幼稚園の幼馴染みが、一美の転校で中学で再会する。
親しげに接してくる一美に一夫はうんざり。
ある時、2人一緒に石段を転げ落ち、気付いたら、
俺(私)たち、入れ替わってるゥ~!?
原作(山中亘『おれがあいつであいつがおれで』)はあれど、邦画に於ける“男女入れ替わり映画”の原点。
言うまでもなく、かのメガヒット・アニメ映画にも多大な影響を。
「ある!」「ない!」、モミモミ、アレどうやって使うの!?…子供の下ネタみたいだが、この手の作品のあるある定番。
やはり面白いのは、入れ替わった後。
一夫は活発でクラスの人気者だったのに、急にオカマみたいにナヨナヨに。
一美はおしとやかだったのに、急に「オレ」「テメェ」口調のガサツな性格に。
周囲の怪訝な目は元より、問題は当人たち。
困惑、トラブル…あ~もうヤだヤだ!イヤよイヤよ!
尾身としのりの女の子演技。
でもやはりMVPは、本作で映画デビュー&初主演の小林聡美だろう。
今やベテランの彼女だが、何とチャーミング。時に16歳。
入れ替わる前の女の子演技、入れ替わってからの男の子演技。
当時まだまだ新人ながら、女の子と男の子の魅力を見事演じ分け、天晴れ!
勿論、尾身としのりのナヨナヨ演技も(笑)
でも本作、少々苦言もある。
入れ替わってから、そんなに目立つ振る舞いしたら周囲に過剰に怪しまれるやろ! ちょっとはそれらしく振る舞おうよ…。
その後一夫は一応それらしく振る舞ったりするが、一美はいつまでもメソメソメソメソ…。見てて少しイライラ。
だけど、これがもし入れ替わったらのリアル…なのかも。
そしてこれがまた映画の面白味なのでもある。
ただのファンタジー青春ドタバタコメディに非ず。
入れ替わって初めて気付く、異性の事。
それぞれ報告・相談していく内に、お互いの事を思いやるようになる。
異性への理解と、もう一つ…。
大林監督作品としてはどちらかと言うとおとなしめで、ヘンな色は出してないが、遊び心やユニークな演出も。
まず冒頭、入れ替わる前は白黒、入れ替わってからはカラー、ネタバレだが最後元に戻ったら再び白黒。何だかこれが非常に情緒さを感じさせる。と同時に、2人にとって忘れられない青春の色…。
入れ替わる石段落ちは“らしい”表現。
8ミリカメラ映像、クラシック音楽、名作映画ポスター…。
そして、わが故郷の尾道。
あの黄金色の海。
誰もが思い浮かべる坂道。
その美しさ!
名所巡りではなく、どれも素朴な風景。それがまた魅力。
もし自分も映画を撮る立場に居たら、我が故郷・福島県郡山市を舞台に魅力を捉えたいものだ。
ユニークな設定を、青春の悲喜こもごもと共に、ノスタルジックに。
尾道への愛を込めて。
大林監督心の映画。
最後にこう付け加えたい。
故郷を離れた少年は映画監督となり、故郷を舞台にあの不思議な体験を基にした映画を作った…。