「侵略者は、警告者で放浪者」地球防衛軍 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
侵略者は、警告者で放浪者
東宝特撮1957年の作品。
『ゴジラ』が同社本格特撮怪獣映画の元祖なら、こちら本格特撮SF映画の元祖。
…いや、邦画の同ジャンルでも名篇ではなかろうか。
富士山麓一帯で怪事件が相次ぐ。
大規模な山火事の発生、謎の怪物の出現…。
これらは“始まり”に過ぎなかった。
やがて地中から巨大ドームが出現。
全ての事件の主は、火星~木星の遊星群の一つ、第5惑星ミステロイドから来た異星人、ミステリアン。
平和主義者で、ドームから半径3キロの土地と地球人女性との結婚を求めてきた。
一方的な要求を防衛隊は拒否し、戦闘が開始。が、ミステリアンの圧倒的な科学力の前に敗退。
地球人類は世界中の英知を結集させた“地球防衛軍”を結成。地球の命運を懸けた“最終防衛決戦”の火蓋が遂に切られた…!
ドストレートなくらいの地球人類対侵略異星人。
今から60年以上も前の作品なので、ツッコミ所やリアリティーの無さ、ユルい点、雑な点、粗い点は多々あり。(モゲラ弱っ!、何故かミステリアンの結婚相手候補に選ばれるヒロイン…)
でもそれらを含めても、徹底したエンタメ作りで面白さは充分!
今回実に久々に見たのだが、やはり面白く、東宝特撮の中でもトップクラス!
何と言っても一番の見所は、地球防衛軍/ミステリアン側それぞれに登場するメカニック。
ミステリアン側は空飛ぶ円盤、巨大ドーム、モゲラと異星人設定なので当然SFチックだが、注目すべきは地球側。
空中戦艦α号、β号、自走光線兵器マーカライト・ファープ、巨大輸送機マーカライト・ジャイロ…。
単なる空想兵器ではなく、“本物を造る”をコンセプトにデザインされ、その魅力とカッコ良さは色褪せない。
クライマックス、両陣営が繰り広げる大決戦。当時、東宝特撮初のカラー・ワイドスクリーン作品だったとか。
合成による光線の乱舞。
それらと爆発、噴煙の的確さ。
言うまでもないミニチュア、操演の見事さ。
1954年『ゴジラ』で名を轟かした円谷特撮演出は、さらに極まり!
伊福部昭の名曲“地球防衛軍マーチ”がさらにさらに盛り上げる!
中盤の防衛隊対ミステリアンもなかなか見逃せない。
通常兵器で闘うのだが、つまり実在の自衛隊兵器が多く登場。
それらが実物フィルムと精巧なミニチュア/特撮交互に用いられ、あまりのリアルさに驚かされる。
ミステリアン・ドーム内部はユニーク。
特筆すべきは、ミステリアンの設定。
ヘルメットやマントを装着し、赤・黄・青で階級分け。
なので顔は見えないが、「顔が見えないから面白い」と総統役を引き受けた土屋嘉男の心意気に拍手!
(尚氏は、日本の役者で初めて異星人を演じた、と生涯自慢だったとか)
人間ドラマ部分はいつもながら平凡。
が、ミステリアンの描写には少なからず見るべきものがある。
10万年前の水爆兵器戦争で母星を失ったミステリアン。
生き残った僅かな者が火星へ移住するも、長い年月が経ち、種の繁栄は風前の灯火…。
そこで目を付けたのが、地球。新たな居住と種族の繁殖。
科学力は地球を遥かに凌ぐが、一個の“ヒト”としては繁殖力も生存力も地球人類に劣る。
ただの絵空事、他人事…と笑っていられないかもしれない。
今地球も、世界中あちこちに核ミサイルがある。
明日は我が身。
確かに彼らは友好的なフリして近付いた侵略者。その一方、
警告者で、永遠の放浪者。
闘いに敗れ、夕空に去っていく彼らの姿が哀れで仕方なかった。
あまりにもチープでベタ過ぎる侵略SF。
でもその分、ストレートな面白さ、ワクワクするようなメカニック、メッセージ性…。
和製SFとしは勿論、古今東西のSFとしても、“最終防衛ライン”の不滅の名作である。