丹下左膳余話 百万両の壺のレビュー・感想・評価
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新作のように観られる素晴らしい修復版
28歳で戦病死した天才監督・山中貞雄の『丹下左膳餘話 百萬両の壺』が傑作であることは、もう動かしがたい事実として日本映画史に刻まれている。実際に観てみると、85年前の映画とは思えないくらい、軽妙で愉快でホロリとするエンターテインメントであり、高評価なのも納得だ。
ただ、いかんせんこれまでは保存状態が悪過ぎた。若い世代になればなるほど、白黒映画や時代劇というと大昔のもののように感じると聞く。自分だって生まれた時から映画もテレビもカラーだったのに、映画に興味を持ったことで、音も聞き取りにくく、画面も見づらい映画を、必死になって観ていたわけで、それが万人にとって容易ではないし、古い映画への最適な入口とも思えない。
そして2020年にようやく、この映画が4Kデジタル修復版になった。先んじて観る機会を得たが、本当に今まではいかに苦労して映画を咀嚼しようとしていたのかが如実にわかり、過去の自分が可愛そうになるくらい、画も音も格段に質が向上しているし、欠落していたシーンが復活したりもしている。
何度も観ていて、ストーリーもアタマに入っているが、まるで新作のように、丹下左膳が、お藤が可愛らしく見える。素晴らしい修復版である。
山中貞雄 その一
山中貞雄現存3作品の一つ。皆が絶賛するだけのことはあります。
但し、音声が悪くて大事なところで何を言ってるのかサパッリなので、WIKIのあらすじを片目で追いながら観ないと内容を理解できません。
この人の作品は、カメラを引いて長回しを多用します。黒澤親分も影響を受けたのか?
引いた分、江戸の街並みが俯瞰的にとらえられるので、他の時代劇に比較しても長屋や街並みの光景がリアルに映ります。
セリフの余韻を残した残影みたようなシーンも多く、脚本以上に抒情を強調します。
ストイックな丹下左膳を期待すると肩透かしです。コミカルで家庭的な丹下左膳を想像しました。本当の丹下左膳ファンは怒ったでしょうね。原作者は激怒したそうですが、当時の反応としてはそちらの方が正しいですね。
白黒映画苦手な人も楽しめるエンターテイメント!
シェイは丹下、名はシャジェン
なんだこの新しさは⁉️
人間の根幹を見通す普遍的コメディ
もう本当にびっくりするくらい面白い。笑いの水準というのは100年近く経過してもなおその本質は不変なのだということを思い知らされた。
たとえば孤児のちょび安が左膳の人情で居候先の矢場に転がり込んできたとき、女将のお藤は「こんな汚らしいガキ捨てちまいな」と悪態をつく。しかしシーンが切り替わると、ちょび安は矢場の新たな一員に加えられている。またある日のこと、ちょび安はお藤に玩具をねだる。お藤は「そんなもの買わないよ」と素気なくあしらうのだが、次のシーンではちょび安が買ってもらった玩具で楽しそうに遊んでいる。今であれば「即落ち2コマ」とでも形容できそうなユーモアが1920年代にして既に完成していることに驚かされる。
他にも「壺探しの旅」と称してお忍びで矢場に通い詰めている剣術道場の主人が、自分の妻に幾度となく「10年かかるか、20年かかるか…」と仰々しく言い訳をするのも面白い。また左膳と主人の八百長剣術試合も滑稽だ。これもまた50余年の時を経て『ドラゴンボール』のミスター・サタンvs18号の八百長試合に換骨奪胎されている。ざっと思い出すだけで無数のリファレンスが想起されるというのは、山中貞雄に人間の感情の傾向と機微を見通す眼力が備わっていたからに他ならない。
輪をかけてすごいのは、そういった単発コントのようなユーモアがきちんと一本の物語の中に纏め上げられている点だ。一事が万事おちゃらけているようで、物語のベースである百万両の壺をめぐる争奪戦には豊かな起承転結がある。
1920年代までの映画といえばそれまでの伝統芸能の模倣や「写真が活動している」という不可思議を見世物的に喧伝するものが多かったが、そうした時代性の中で本作のように豊かな物語を湛えたコメディが撮られたというのはひとえに驚嘆すべきことだ。言うなれば江戸の市街をスーパーカーが駆け抜けたようなもの。
山中貞雄は不遇の映画人であり、『人情紙風船』を遺作に弱冠28歳で戦死してしまった。ともすれば小津、黒澤に並び立つ世界的映画監督になれたであろう傑物を戦争などで失ってしまったというのは日本映画にとってただならぬ損失だ。ただ、そういう逼迫した時代性が彼の作風を練磨した側面も確かにあるとは思う。そのジレンマがひたすら悔しい。
全く古さを感じない面白さ!
※丹下左膳餘話 百萬兩の壺
Amazon Prime Videoで鑑賞。
「キネマ旬報」のオールタイム・ベスト(2009年版)で第7位にランクインしていた本作、ようやく鑑賞出来ました。
丹下左膳の躍動感とコミカルさが秀逸であり、大河内傳次郎の貫禄も相まって、とても魅力的なキャラクターでした。
元々は冷たい印象のキャラだそうで、改変に原作者も苦言を呈したらしいですが、大胆なキャラ変は寧ろ正解だな、と…
(あ、改変しているから「餘話」なのか…)
固定されたカメラワークや舞台劇のような人物配置は逆に新鮮で、コメディーの定石を踏まえた演出も古く無かったです。
壺をヒッチコック作品で言うところの「マクガフィン」とした物語も面白く、娯楽作品のスタンダードだと思いました。
人情モノとしての機微も深く、丹下左膳がちょび安の親代わりになっていく過程が非常に良くて、ほろりとしました。
戦前の映画とは思えないほど、面白くて愉快で痛快で、驚きました。これが山中貞雄監督が27歳でつくり上げた作品と言うのだから恐れ入る。こんなに非凡な才能をお持ちの監督が、若くして戦争で亡くなられたのが残念でなりません。
[余談]
最後の殺陣がGHQにカットされてしまったのがなんとも悔しい限り。クライマックスを彩るシーンだったはずなのに…
[追記(2023/12/04)]
復活したチャンバラのシーンが無声なのは残念ですが、これが有ると無いとではえらい違いだなと思いました。
[以降の鑑賞記録]
2023/12/04:アマプラ(日活プラス,4Kデジタル復元・最長版)
面白かった
原作レイプ!丹下左膳の最高傑作
1935年(昭和10年)の作品
白黒だし制作されたのがかなり昔だから原盤の保存状態は決して良くない
だいぶ前に地元のブックオフで安く購入したDVDで鑑賞
それ以来毎年必ず一回は観ている傑作
丹下左膳といえば大友柳太朗が1番と思っていたがこれを観て大河内傳次郎も良いよねと思えてくる
だがこれは本来の丹下左膳ではない
肝心の大岡越前が出てこないし乾雲坤竜はどうしたって話
敵も味方もバッタバッタと斬り殺す凶暴でニヒルなダークヒーローが本当の丹下左膳
しかしこれでは人情喜劇これではホームコメディー
ほのぼのとしたこの作品を観た原作者の林不忘は全くの別物に大激怒で日活に抗議
冒頭のスタッフキャスト紹介に原作者の名前はなくタイトルも餘話と付け加えられている
映画comでは丹下左膳映画の最古になっているがその歴史は古く無声映画時代からの定番
これ以前に伊藤大輔監督やマキノ雅弘監督などがメガホンとってきたチャンバラ映画の人気作だがその殆どが資料はあっても肝心のフィルムが現存していないんだろう
タイムマシーンにお願いしたい
昔の映画はエンドロールがなく本編の初めに短めに済ませるのが良い
中国の野戦病院で赤痢により28歳の若さで亡くなった天才山中貞雄監督の代表作
彼の監督作品は殆どが失われこれを含め3作品しか残っていない
ユーモアとテンポが素晴らしい
本来ならリズミカルでまるで音楽のような映画だがところどころ欠落しているようでそれが残念だ
特にやくざもんの兄貴の仇とりにやってきたチンピラどもとのチャンバラがない
元々ないのか欠落しているのかわからないが物足りない
用心棒の丹下左膳と矢場の女将のやりとりが面白い
言っていることとその後の行動が違う
特に女将の医者と竹馬の件が1番好き
丹下左膳役は剣劇の大スター大河内傳次郎だが女将役は九州から上京してきた芸者喜代三であり本来は役者ではないがいい味出している
柳生藩主の弟でお婿さんの道場主役は沢村国太郎
妹は大女優沢村貞子で弟は黒澤映画でもお馴染みの加東大介
長門裕之津川雅彦の父親
長門裕之にそっくりだ
比較的恵まれた環境ながら立場の弱い悲哀な男を好演していて面白い
あと脇役の屑屋コンビの背の高い方
高勢実乗のパンチの効いた変な顔が衝撃的である
顔だけなら知性が全く感じられないが男らしく強引に笑いを取りにいっている姿が清々しい
面白さはチャプリンに負けていません
河内山宗俊好き過ぎ!
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