「監督の死生観や宗教観、監督の理想とする死期が強く打ち出された、かなり硬質で野心的な社会派コメディですね」大病人 矢萩久登さんの映画レビュー(感想・評価)
監督の死生観や宗教観、監督の理想とする死期が強く打ち出された、かなり硬質で野心的な社会派コメディですね
2月21日(金)からTOHOシネマズ日比谷さんで開催されている「日本映画専門チャンネル presents 伊丹十三 4K映画祭」(監督作品を毎週1作品、計10作品上映)も7週目。本日は『大病人』(1993)。
『大病人』(1993/116分)
前年の『ミンボーの女』(1992)公開直後、組関係者に襲撃、重傷を負い入院中に着想したと語られる作品。
滝田洋二郎監督『病院へ行こう』(1990)のような病院内の内実を描いた痛快娯楽作と思いきや、然にあらず。
癌告知、延命治療、尊厳死、安楽死、臨死体験、在宅死など人の死に関わる問題を織り交ぜながら、監督の死生観や宗教観、監督の理想とする死期が強く打ち出された、かなり硬質で野心的な社会派コメディ、『マルサの女』などの「女シリーズ」とは一線を画しています。
クライマックスの黛敏郎氏作曲の西洋のカンタータと『般若心経』を融合させた朗唱演奏は最たるものですね。
本作の見どころは主人公・向井武平(大病人)を演じた三國連太郎氏の円熟味を増した硬軟織り交ぜた怪演。
『利休』(1989)『息子』(1991)、『ひかりごけ』(1992)『夏の庭 The Friends』(1994)と本作品前後は死期が近づいた老齢の役が多く、どれも鬼気迫る熱演で名作が多いですね。
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