切腹のレビュー・感想・評価
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砂のプライド
誇り高きあるべき武士故の苦労が伝わる作品でした。
内職と寺子屋でやりくりしてきた貧しい浪人生活。武士たる者物乞い等もってのほかと思いつつも、背に腹はかえられず、武士の魂である刀を質入れし、潤沢な藩の情け心に何とか訴える手段に出る主人公の婿。彼は自分の誇りよりも、床に伏す妻と乳呑み子の命を選びました。そんな婿の心情を知るまでは、主人公自身も、生まれたばかりの孫に武士の心意気を言いながらあやしたり、帯刀し続けたりしています。婿の変わり果てた姿を前に、武士の誇りも命あってこそなのだと気付かされたのでしょう。
婿の事情を知らされるタイミングが、井伊家と観客同時進行なので、こちらもそれまでどんな目で、彼の武士としての立ち振る舞いを見ていたかに気付かされます。
勇ましく命を捨てることを美意識とし、戦前まで声高らかに叫ばれていた精神論に疑問を投げかける作品です。嘘で塗り固めた面子を保つことに何の意味があるのか。何よりも人間らしく生き抜くことが大切なのだという点は、いつの時代にも通じると思います。
鬼気迫るサスペンス時代劇といった感じで引き込まれました。終盤の殺陣は、いかにも昭和のチャンバラで、必殺技ポーズ?さえなければなぁと思いました。最初から唯一情け深かった側近だけ、斬り合いを見事免れていました。
でも字幕がないと全く聴き取れず2回観ました。
時代劇も案外いけた
小林正樹は苦手です
武士の体面の不条理と死の覚悟
総合:85点
ストーリー: 85
キャスト: 85
演出: 90
ビジュアル: 65
音楽: 65
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張り詰めた緊張感。義にかられてそうせざる得なかった一人の浪人。もちろんただの切腹が目的なのではなく、どうしてもやらなければならない何かがある。敵中に一人乗り込み、時に抜刀した武士に回りを取り囲まれた中で、話をすると称して貫き通すその強固な意志。最初から死を覚悟したうえでの行動とはいえ、その堂々とした勇気ある態度と凛とした姿には心打たれる。
侍といえども所詮は人間。厳しい社会情勢の下で浪人となり、喰えなくなれば背に腹は変えられず、誇りを捨てて意地汚いこともしなければならない。安定した名藩に勤める武士たちはそんな浪人を見下して軽蔑する。たかりをしてくるような者たちに嫌気がさす気持ちはわかるが、自分の優遇された立場に安住し優越感に浸っているからの感情とも言える。そして必要以上に残酷に人の命を弄んだ。そして武士の体面を取り繕い守ろうとする武家社会の暗部が描かれる。
体面を守るために現実にも多くの不条理があったことだろう。全体として暗くて救いのない悲劇なのだが、悲しさと厳しさがこの映画を見ていて心に突き刺さってくる。感情をえぐるような演出が緊迫感の中に満ちている。
斬り合いの場面、もう少し現実感が欲しかった。やはり多勢に無勢、本来ならばあっという間に圧倒されるはず。集団で斬りかからず戦わずに後ろで待っている武士がたくさんいるのは緊迫感が薄れる。実戦経験豊富な津雲半士郎がどうやって集団相手に戦うのかをもっと現実的に見せてもらいたかった。
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