砂の器のレビュー・感想・評価
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かわいそうな父子の道行き→名作となる「宿命」!
原作未読、映画は初見での感想です。
本作の脚本には、設定やプロットに突っ込みどころが多々あります。
● 冒頭の秋田旅行が全く無駄!
● あの少年が成長していきなり天才ピアニスト!売れっ子作曲家!という設定が無理…
● 三木謙一が写真一枚で和賀英良の正体に気づく?親でもないし、30年も会っていないのに…
● 和賀英良は三木謙一と面会しなければいいのに。会ったとしても本浦秀夫なんて知らないと突っぱねれば済む話!
● 和賀英良は血のついたシャツの始末を愛人に託す?自分で始末せえ!
● 愛人はシャツを切り刻んでわざわざ列車の窓からばらまく?燃やせよ…
● 愛人は都合よくあっさり失血死!?肩透かし!
● 和賀英良は他人を石で撲殺した後に平然と作曲活動にいそしめるの?
● わざわざ政治家を登場させておいてなんにも悪さをさせない…
ではなぜこの映画が大ヒットし多くの日本人の心を掴んだのか。昭和を代表する俳優陣の熱演や音楽の素晴らしさもさることながら、「かわいそうな父子のお遍路の道行き」にスポットを当て、浄瑠璃風味映画に仕立てた橋本忍の大勝利ではないでしょうか。本作は私達の「共感性スイッチ」を見事に押します。「差別され迫害される弱き者たちがそれに耐える姿」を見せられると、私達はそれだけで胸が締め付けられてしまいます。それが親子の姿であればなおさらです。この感覚は日本人のDNAに刻み込まれた性のようなものであり、それを描いた作品はすべて名作となる「宿命」です。
捜査の中で人物が浮かび上がる
「ある男」と同じ構成、と思ったら実際「ある男」は「砂の器」を意識していたよう。
のんびりと全国を観光するかのような捜査ののちに、徐々に被害者や加害者の人物像が浮かび上がってくる
捜査はかなりのんびり描かれていて、電車から服を散り散りに切って飛ばすのを新聞のコラムで偶然見つける、なんてのは正直嘘くさくてうーんとなる
犯人の指揮者は、父との縁も切るし、不倫相手の子供も認めない
犯人にとっての父と子の関係は一概には断言できないような複雑なところがある
映像と音楽で描かれる親子の旅路は確かに父と子の関係を強く結びつけ、同時に父の受ける差別をそのままに子にも与えている
じゃあそこに不用意な善意で踏み込んだ被害者が、果たして押し付けがましい偽善者だったのかというと、そこも難しい
少なくとも差別者よりはましだったわけで、殺されてしまったのは気の毒
ただまあそういう善意の鬱陶しい部分もあるよなあとは思いつつ
けど、じゃあハンセン病患者を差別するでも手助けするでもなく、傍観するのが良かったのかと問われればそうでもないわけで
どうしようもない根深い問題がそこに残る
ハンセン病を知らなければ分からないだろう。
ハンセン病の悲惨な歴史を知らなければこの作品の重さは分からないだろう。
幸いに自分はある程度その歴史や病気を教える立場にいるので、何の前情報も持たずに観た本作が本疾患の暗い歴史から生まれた悲劇であることの意味を十分に理解出来た。まず、ハンセン病を簡単にでも学んでから観ることをお勧めする。
しかし後半の壮大な音楽「運命」と回想シーンとのマリアージュは大変素晴らしく、これは映画ならでは。原作の小説だけではこの音楽には出会えなかった。
また、丹波哲郎、森田健作、緒形拳などの名優の演技も素晴らしい。
しかし、一回観ただけではちょっと理解しづらかったですかね。
名作。
鑑賞直後、言葉が何とも出て来ず…なんと言えばいいか…とにかく、ただ咽び泣き。
原作は未読。まず、映像が美しい。日本の四季があまりにも瑞々しく美しく、そのせいで余計悲しい。自然がこんなに美しく撮れていなければ、多分ここまで苦しくない。東北やら出雲やらムード満点。原作は松本清張だが、あまりトリックやロジックに重点は置かず、あくまでハンセン病への差別や親子の宿命に焦点を合わせた作品にしている。
すごく良いなと思ったのが、加藤剛演じるヒデオがどんな気持ちだったかについて、本人の口からはほぼ何も語られないところ。刑事や当時を知る人々が境遇を色々語るシーンはあるが、あとは映像を見ながら、彼の音楽を聴きながら、鑑賞者がひたすら想像する作品になっている。日本的だなーと思うし、そのおかげでペラい感じにならずに済んでいる。最後、捕まるシーンも無く、加賀英良が事件について語ることも一切無い。つい語らせたくなっちゃうものだけど、これでもかと泣きのシーンが畳みかけるので、更に語られたら野暮ったさ200%だったと思う。
子どもの頃、実家では頻繁に映画が流れていたので目にはしていたし、タイトルもあらすじも何となく知っていたけど、自分が大人になって結婚して子を持ち、今になって改めて鑑賞すると、ほんとに言葉では言い表せない感情になり、また観たいかと言われるとなんか複雑、でもきっと何年かしたら見ちゃう。そういう類の映画だと思う。
緒方拳の真っ白い制服姿が目に沁みる。
これ、三木が悪いんじゃないよね。親子にしか分からない気持ちがあるのに土足でズカズカ入るから、正義感振りかざして余計なことするから…じゃなくて根底にあるのはハンセン病への差別よね。
エネルギッシュな昭和の風情とその影の魅力
先日羽後亀田を訪れ、中学の頃父とDVDを見たのを思い出してAmazonプライムでレンタル視聴した。デジタルリマスター版の配信は嬉しい。
日本のさまざまな地域の鉄道の風景、田舎の様子を一本で味わえる、映像作品としてもとっても魅力的な作品だと思う。喫茶店で溶けたアイスクリームを啜るところが特に好きだ。
中学の頃見た時は、千代吉が会いたがっていた秀夫の写真を見て涙しつつも知らないと語った姿に、なにか感じるものはありつつも理解できなかった。
今回、多少成長してから視聴して、感想が大きく変わったので記しておきたい。
二人で過酷な旅をする中差別を受けた二人だけの共有する思いがあること、立派に大成した風の息子を病人の父がいるということで足を引っ張りたくない父心のようなもの、会いたいけれど会いたくない、そんな思いなのかもしれないと感じた。
三木はまごうことなき善人だけれど、良い人であるが故に、会いたいけれど会っては行けない、会いたいけれど会うわけにはいかないと心の奥底で理解してしまっている両者を会わせようとしてしまった。
元は決して悪い人ではないはずの三者が、被差別という体験を経て喜びの再会にすら萎縮し、善意に殺意を返してしまう差別のひっそりとした恐ろしさ。やるせない涙してしまう人間ドラマの根底に這わせられている、差別がなぜいけないか、それが解消された後も、人は生きていくという事実に行き当たったような感じがした。
また、ジェンダーなど、多少なりとも男性・女性間の認識のギャップや、父・母といった役割に意識を向けるようになった現代からみると、辛い経験のあるはずの秀夫もまた理恵子をその経験故か加害してしまう姿に、鋭い批判を感じた。男性から女性、あるいは子から母へ向かう無理解さ、経験の無さが秀夫の加害の根源とも思うが完全に善良な人も、完全に被害者の人も、完全に加害者の人も、この世にいないのだと肝に銘じたい。
また歳をとってから見返したい作品。
こんな人知らねーよ…
父は立派に育った息子を知らないと言った。。唯一会うことだけを糧に生きてきたのに。。昔ドラマを見たことがあったのでストーリーはわかっていたが、映画初鑑賞。ストーリーは元より構成、カメラワーク、役者陣全てが素晴らしい。全編通して、まさに足で稼ぐ今西刑事。事件の全容、悲劇を知り、他の刑事に話す目に涙、良かった。和賀が弾く曲と共に振り返る親子の旅のシーンは言葉は無くとも伝わってくる。逮捕後、全てから解放された和賀が収監前にひと時でも父に会ってほしいと思ってしまう。
音楽と放浪の日々の描写が無ければ
戦前、戦後をまたぎその問題点をミステリーとして描いた松本清張の代表作。
やっぱりいろいろ謎は残る。
そもそもなんで犯人の愛人は殺人の証拠の衣服をいちいち中央線の車窓からばらまくなんていう人目につくことをしたのか?これが謎(まあそうしないと話にならんのだけども)。
後は他の方もレビューに書いていたけれど、主人公の殺人に対する葛藤は描いて欲しかった所。
突っ込み所はあるものの、芥川也寸志が手掛けた楽曲と病人の父と子が寄り添って辿る旅路の映像は素晴らしく、胸に迫るものがある。
逆にこれが無ければ見所が少ない映画であったかもしれない。
犯人の心情を描いてほしかった
以前にも何度か途中まで鑑賞したことはありました。その度に、途中で挫折していました。今回は最後まで鑑賞することができましたが、残念ながら高い評価をつけることはできませんでした。
理由の一つは、時代背景に対する私の理解不足です。舞台となっている時代にはまだハンセン病に対する偏見があったのでしょう。その事実を知らなくても字幕でそうした解説があるので理解はできます。でも、同時代を経験していないからなのか、いまいちピンとこなかったのです。
もう一つの理由は、犯人の心情に対する描写の少なさです。前半では犯人に至る過程に、後半では犯人の出自のルーツに焦点があてられています。一方で殺害前後に抱いたであろう感情については、ほとんど描かれていません。このあたりが、しっくりこなかった理由なのだと思います。犯人が捕まり、犯人の葛藤や苦悩が描かれている作品の方が好きなのかもしれません。
時代が生んだ悲劇
70年代の病気差別。コロナ禍の今、2020年代になっても人の根本はそんなに変わっていないのかなと。
自分の感性が弱いのか、他の人のレビューほどのものは感じれなかった。
丹波哲郎が評価の分かれ目
この映画で一番気に入っているのは捜査していく過程、警察内での捜査の進捗状況の報告等が非常にリアルっぽかったこと。マイナスポイントは、最後のクライマックスで、逮捕容疑の説明と犯人のコンサートの様子を同時進行で進んでいくが、長すぎないか。個人的な見解だがクライマックスは長すぎてはいけない。例外的に成功する例もあるが(例えばゴッドファーザーpartⅢのオペラのシーン)。しかも、肝心の動機を丹波哲郎が長々と説明する手法は映画製作者としてはやや安直すぎないか。小説ではなく映画なのだから映像で訴えなければいけないのではないか?
日本映画の名作の中の名作。!
この映画以上に感動した作品は私は見た事がありません。!
差別の問題は人間にとって永遠のテーマかもしれません。!
昨今、アメリカの人種問題、日本国内での原発被災者への心無い発言、最近ではコロナ患者への偏見等は人間の本質的な問題であり常に自身も注意しなくてはいけないと思いました。!
映画後半からのシーンは涙なしでは見れないがシーンが連続するが(親子の巡礼、駅での親子の別れのシーン等)特に私の好きなシーンは今西刑事約の丹波哲郎が事件の経過を話す所で千代吉(加藤嘉)と三木(緒形拳)の手紙のやりとりを紹介するシーンです。!
千代吉の言葉
「いったい秀夫はどこにいるんだ。」
「死ぬまでに会いたい。」
「一目でいいから会いたい。」
と、ただただそれだけを書き綴り。
それに対して三木は
三木の言葉。
「あなたの子供さんは見所がある頭のいい子だからきっと立派に成長しているでしょう。!」
「そして、必ず必ずいつの日かきっと会いに来てくれる事に相違ない。」と
繰り返し繰り返し、繰り返し繰り返し、この様に励ましております。!
ここのシーンも何回見ても涙が出てくる。!
名優丹波哲郎の演技が光る。!
(千代吉が自身の息子秀夫に強く会いたがっている事を三木が知っているため、和賀(秀夫)に強く主張する。→
これが犯行に繋がるきっかけとなる事も本当にやるせない。!)
その三木が和賀(秀夫→加藤剛)にいい放つ言葉が犯行の核心部となる。!
「秀夫なぜだ。!」
「どけんしてなんだ?」
「会えば今やりかけてる仕事に行けんようになるなんて、何故そげんこと言うだらか?」
「わしにはわからん。」
「たった一人の親、それもあげな思いをした親と子だよ。!」
「秀夫、わしは首に縄、縄つけてでも引っ張って行くから。!」
「来い、一緒に秀夫。!」
ここも切なすぎて涙が出てくる。!
誰の責任で誰か悪いと言えるのだろうか。!
しいて揚げるとしたら差別を行ってきた社会だと思う。!
この砂の器はドラマで何回もリメイクされているがこの映画以上の作品は作られていない。!
(言い切っていいでしょう。!)
それはテーマである差別(ハンセン病)の深さを本質的に目を反らしているからと思える。!
コロナ問題の今こそ見るべき映画と思います。!
最後に音楽「宿命」も本当に素晴らしい。!
もちろんCD持っています。!
視聴を義務教育化してもよいくらいの良作
初めて見たのは20代後半。
これ以上泣けませんという位、泣いたが、
実父のシーンでは、何年も会ってないのに分かるなんてなぁ~と訝しく思った。
子供の親となった今は、素直に「ああ分かったんだな」と思う。
そしてきっと彼と同じ言葉を言うだろう。
もう二度とこんな世の中にしてはならない。
コロナ陽性者を過剰に攻撃する悲しい現在に、改めて大きなメッセージをもらえた。
削ぎ落とした
原作から映画化するにあたり主題を明確にし、余剰なところを削ぎ落とし収斂された作品。
為に、全編通して緊張感があり、後半は殺害に至る事情を情感豊に哀しく顕かにする。
ハンセン病のことをググってみた。
そうすると千代吉親子のおかれた状況に同情するとともに、まだ当時は建前と現状が合致していなかったことを知らされる。
公開当時、ハンセン病は完治する病であるとは知られていた。
原作当時もそう。
ただ、何故か日本では隔離政策がまかり通っており、社会的な差別・偏見は改善されていない。
千代吉のような患者はいないと言われているが、現実は療養所に隔離されていた。
しかも子を持つことが許されていなかったとのこと。
調べてみるとひどい話がいくらでも出てくる。
その現実を知って改めて思い返すと、千代吉が秀夫に持つ親子の情がなんとも深いものであることに気付かされる。
“宿命”とは言うが、それって社会が産み出した偏見が根底にある。
人の持つ業の深さが思われる。
避けることのできない運命
前半は殺人事件の被害者が死の直前に合っていた男と交わした会話で出たカメダという言葉を頼りに地道な操作を続ける刑事物。
わずかな手がかりから全国を飛び回り、少しずつ真相に近づく展開は面白かった。
ただ、新聞の電車から紙吹雪を投げる記事から犯人のシャツだと予測したのは流石に無理やりなんじゃないかなと思った。
後、刑事2人がなんかオーバーというか、なんか濃いなぁと思いつつ、違和感を少し感じた。
後半パートは、事件の概要と加賀の捨て去ったはずの過去がオーケストラの音楽に乗せて回想される。
前半と違いセリフが大幅に減ることで、御遍路のシーンに集中することができ、ハンセン病患者への非科学的な根拠による差別、偏見が痛いほど伝わってきた。それと同時に、辛い目にあっても2人で生き続ける親子の絆に魅せられた。
過去を捨て成功を手にしたかに見えたが、親子の宿命からは逃れられない。加賀という砂の器はコンサートでの拍手喝采で満たされたかも知れないが、すぐ崩れ去るのかなと思った。
最初と最後、「そんなことは決まっとる!」
もう何度見返したか忘れました。
そして、見れば見るほど、冒頭の早い段階における、
今西警部補(丹波哲郎)と吉村巡査(森田健作)の
何気ないやり取りが、粋だなあと感心するのです。
この秋田県のシーンは確かに「無駄足」なのですが、
彼ら二人の信頼関係やら捜査への熱意やらを
実は無駄なく表現しているのでないかと解釈してます。
それでもって映画の最後に、吉村巡査の問いかけに、
冷静な今西警部補が「そんなことは決まっとる!・・・・・・」と
感極まって返すシーンに繋がっていると思い込んでいます。
というよりもこのセリフのために、私は見てしまいます。
まさに名作
松本清張原作の刑事もの。原作未読。
橋本忍、山田洋次脚本。
丹波哲郎、森田健作、加藤剛、加藤嘉、緒形拳。
蒲田で殺人事件が起こる。
被害者の足取りを追う刑事たち。
東京蒲田
東北
山陰亀嵩
伊勢
北陸
大阪
愛人役、島田陽子さんの若い頃のお姿。
ハンセン病の患者と家族の悲しみ、苦しみ。
交響曲「宿命」
今だから見てほしい
古い映画だが、コロナが流行っている今だから見てほしい。特に後半から最後にかけて、捜査本部で丹波哲郎が主人公の生い立ちを語るシーン。施しをしようと出てきて、千代吉の顔を見るなり扉を閉めるおばさん、親子の姿を見るなりかくれる村人、二人に石を投げる子供たち(最近の大学正の事件を連想してしまった。)ハンセン病、水俣病、エイズ、そしてコロナ。人間の未知の病への恐怖心とそこから来る差別。今も昔も変わっていない。それがいかに人を苦しめ、人生を狂わせるか。緒形拳演じる巡査のような人が一人でも増えてほしいと願うばかりである。そして何より親子の絆は変わらない。すごく考えさせられる映画でした。ぜひ、いろいろな人に見てほしい映画です。
山陰まで来られたら、ぜひ奥出雲のロケ地を訪ねてください。
鳥取県米子市に住んでいます。
プライムビデオで先週見ました。
後半の丹波哲郎の語りとともに、親子の放浪のシーン、そして演奏のシーン、この3つが心に響き、テレビを観ながら涙を流してしまいました。
雨の降る中でお粥を親子で分け合うシーン、亀嵩地区の神社の下で、親子で隠れているところに緒形拳が語り掛けるシーン、SL列車汽笛と亀嵩駅で親子別れのシーン、涙、涙でした。
シーンの中に、大山をバックに特急列車が鉄橋を走行、松江市の宍道湖湖畔、国鉄宍道駅、国鉄木次線、出雲八代駅、亀嵩駅となじみのある場所が沢山登場しており、先週さっそく現地まで行ってきました。神社は当時と変わらず、亀嵩駅の別れのシーンは実際は出雲八代駅で撮影していたようですね。駅舎内に当時の写真が展示してありました。
八代駅のホームから線路を見ると、ランニング姿の幼き頃の和賀英和が走ってくるようでした。
不協和音
幼き「乞食」の子にとって、父親は唯一の家族であり友であり、その小さな世界の全てだった。引き離されるくらいなら、ともに飢えたりのたれ死んだりするほうが、彼にとっては幸福だったのだろう。
心優しき養父母も温かいご飯も、彼にとっては響かない。ただ父親と身を寄せ合って放浪したことだけが美しく鳴り響き、「宿命」として色濃く奏でられる。
その悲しき「宿命」には儚げで美しい女も、金と権力を持った女も、一切の卑しさも持たない養父も、そしてかつての彼があれほど求めていた本物の父親さえも入り込む余地など無く、音楽の中でのみ彼は彼として生きている。砂の器を満たそうとする水は、器自体を壊してしまう。
「乞食」の子の不満げな表情が、奈良美智の描く、不機嫌そうな子供そのもので、ただ駄々をこねているわけじゃない複雑な重みを感じた。それはおそらく子供にしか持ち得ない感情をはらんだ表情で、そこから今日の彼がつくられていったのだと思えた。
結婚や子供を持つことを頑なに拒んでいた彼は、誰よりもその子供の背負う「宿命」の重さを知っていたのだろう。
砂の器はどこまでいっても砂の器。不確かであやうく、保ち続けることなどできない。
人の耳に響いてはきえる音楽のように。
形を成さなくなった砂の器は、決して拭えぬ生い立ちの不協和音を超えて、その残像をたよりに何度も作り直され、時と共鳴していく。
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