「点と線」砂の器 ストレンジラヴさんの映画レビュー(感想・評価)
点と線
「この親と子がどのような旅を続けたのか、私はただ想像するばかりで、それはこのふたりにしか分かりません」
国鉄蒲田操車場で発見された身許不明の男性の撲殺体。血液型がO型であることのほかには、被害者が発見前夜に若い男性とバーで話し込んでいたことと、その際に被害者の口から東北訛りと思われる「カメダ」という言葉が話されたことしか手がかりがない。警視庁捜査一課刑事・今西栄太郎(演:丹波哲郎)と蒲田署刑事・吉村弘(演:森田健作)は、わずかな手がかりを頼りに粘り強く操作を行う。その先に浮かび上がったのは、ある親子の記録だった...。
午前十時の映画祭15にて鑑賞。
松本清張の同名小説の映像化にして日本映画の極限に手を触れた渾身の作品。話は知っているし本作自体も二度目の鑑賞なのだが、何か腹の底のもっと奥深いところまで強烈な一撃を見舞われ、涙が溢れ呼吸すらおぼつかない。理不尽に対する怒りなどというものはあくまでも後世の人間による後付けの価値観でしかなく、宿命に翻弄された人々の物語があまりにも悲しい。
社会通念の関係上、松本清張の原作をそのまま映像化することは今日では不可能であり、本作より後の作品では背景について様々な変更が加えられているが、はっきり言ってこれほどの悲しみと絶望には遠く及ばない。本作の時点でも原作通りの映像化はギリギリのタイミングであり、ことあるごとに但し書きがなされる。
ありとあらゆるキャストがこれをおいて考えられないくらいの完璧な布陣で、決定版と言ってもいいんだろうな。捜査そのものは強引に映る箇所もあるのだが、そのような指摘すら野暮なくらい、クライマックスで打ちのめされてしまう。このクライマックスについては原作者・松本清張をして「小説では絶対にできない」と言わしめた。
私はね、今西刑事がとても好きなんですよ。彼よりも切れ者の刑事は沢山いる。しかしながら彼より粘り強い刑事を僕は知らない。汗に塗れながら、時に背広のジャケットを肩にかけ、枝豆や駅弁を肴に瓶ビールを飲むその姿にはとてつもない執念が迸る。その執念の先にごく僅かに光っていた点が線になったとき、彼は恐らく頭を抱えたに違いない。果たしてこれを表に出して良いものか、出すべきか。最終的には、彼のその持ち前の胆力と刑事としての本分が全てを明らかにした。
殺人はともかく、誰ひとり悪人がいない中、わずかなボタンのかけ違いで起こってしまった悲劇。旅の形はともかく、親とこの"宿命"は永遠のものである。