「社会が生んだ悲劇」砂の器 everglazeさんの映画レビュー(感想・評価)
社会が生んだ悲劇
邦画で最も好きな作品のひとつです。
分かっているのに毎回泣きます。
劇場では初めて観ました。
数少ない台詞に、雪景色に映える日本海や桜咲き誇る農村などの美しい日本風景と、「宿命」のオーケストラで描く父子の悲劇の物語。父子が差別の中助け合って生き抜いてきた道のり。
改めて鑑賞すると、内容を知らなければこの作品だけで事件の全容は観客に伝わらないのではと思いましたが、ポイントは謎解きではなく、その悲しい動機なのです。正義感が強くて情け深い、模範的警察官であり、誰からも慕われる人格者が、なぜ怨恨の線を疑われるような方法で殺されたのか。
母親が幼子を置いて出て行くほど、村を出て行かねばならぬほど、物乞いしようにも汚らわしいと門前払いされるほど、戸籍を偽って生きるほど、過去を知る命の恩人を特定不能なまでに顔を潰して殺すほど、ハンセン病に対する差別が凄まじかったということです。成長した息子の写真を見て、その未来を守りたくて、顔を見れた喜びと否定しなければならない悲しみの狭間で鳴咽しながら知らない!と断言する病の父親の悲痛な姿。
松本清張の作品には、地位や名誉、富のために人間性や理性を失っていく愚かさを描いたものが多いですが、その中の傑作だと思います。
電子書籍で「宿命」もダウンロードして聴けるようにしたらどうでしょう?
こんばんは。
たくさんの共感をありがとうございます。数多くの名作レビューを毎回興味深く事ある毎に拝見させていただいており、ありがとうございます。本作は原作を超えた素晴らしい脚本と演出そして日本の消えゆく原風景を作品の中で捉えている撮影、さらに音楽と正に総合芸術としての映画の理想形に近いクオリティを持っていると思っており大好きな作品です。