小説吉田学校

劇場公開日:

解説

被占領下の戦後日本の運命を賭けて政治の世界に生きた吉田茂を中心とする“保守本流”の実力者群像を描く。戸川猪佐武の同名小説の映画化で、脚本は長坂秀佳と「海峡」の森谷司郎、監督も同作の森谷司郎、撮影も同作の木村大作がそれぞれ担当。

1983年製作/132分/日本
配給:東宝
劇場公開日:1983年4月9日

ストーリー

昭和二三年、GHQ民政局次長チャールズ・ケージスは新内閣を野党第一党・民主自由党を中心とした連立内閣とすることを要望し、総理大臣には民自党幹事長・山崎猛が望ましいと伝えた。しかし、党長老・松野鶴平の強引な奇策、吉田の側近・林譲治の必死の巻きかえし、さらに党総務会における一年生議員・田中角栄の大胆な発言などによって形勢は逆転し、一〇月一五日第二次吉田内閣が成立した。吉田は、みずからの勢力を拡大するため議会の解散をはかり、翌二四年選挙において民自党は圧勝、この時以来吉田学校と呼ばれるようになる吉田派は大量の新議員を誕生させる。二月一六日、第三次吉田内閣が発足した。吉田はまず平和条約草案の作成のために外務次官太田一郎を中心とするプロジェクトチームを極秘で結成、太田らは血のにじむ苦難の末、吉田の要求に答える草案を作り上げた。続いて再びマッカーサーと会見、池田勇人、宮沢喜一の渡米許可をとりつけた。二人の渡米の表向きの目的は、アメリカの財政・経済の視察であったが、吉田が二人に託した密命はしかるべき人物を捜し出して、対日講和の下打合せをしておこうというものである。二人は国務省ドッジ公使と接触することによって役割りを果した。二六年朝鮮戦争が勃発した。消沈する吉田のもとにGHQからダレス国務長官顧問の面会要請の連絡が入る。ダレスは吉田に早期講和に賛成する旨を告げたが、付帯条件として日本の再軍備を出した。吉田は断腸の思いで警察予備隊の設置を認めた。政敵・鳩山一郎の追放解除にともない謀将・三木武吉を中心とする鳩山派の動きが日増しにその不気味さを増し、アメリカが執拗に日本の再軍備を要求するなか、吉田学校のメンバーは九月八日、遂に対日平和条約調印を実現させた。それは日米安保条約とともに結ばれたものであった。対日講和が調印され日本国内は新しい政治局面へ向って動き始め、吉田自身には鳩山・三木との宿命の対決が待っていた。

全文を読む(ネタバレを含む場合あり)

スタッフ・キャスト

全てのスタッフ・キャストを見る

受賞歴

詳細情報を表示

フォトギャラリー

映画レビュー

5.02022年、今年は主権回復70年の年 4月28日が記念日です いまこそ本作を観るべきです

2022年2月16日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

1983年4月9日公開 その2ヵ月後の同年6月4日には、小林正樹監督の「東京裁判」が公開されています この不思議な連動性は何なのでしょうか? 映画の神様がなさしめたことなのでしょうか? 黒澤明監督の一番弟子の森谷司郎監督作品ですからリアリティが強く追求されています 吉田茂役の森繁久彌のそっくり具合を筆頭に、実名で登場する多数の戦後の有名政治家達も皆、写真でみるその風貌や雰囲気によく似た役者が配役されています もちろん昔の首相官邸始めセット美術、車両、衣装、小道具も考証が徹底されていると伺えるものです 美術監督は村木与四郎 この人は黒澤明監督作品の大半の美術を担当して来た人です カメラは木村大作です 美しいカラーシーンもありますが、白黒の前半こそ彼の腕前の凄さを感じます また劇伴の音楽が、邦画と思えないほど格調高いものです 吉田学校とは、そういう学校機関が在ったわけではなく、吉田総理が配下の官僚出身の議員を長くても1年程度のスパンで、どんどん色々な大臣に取り立てて、政治と行政の経験を積ませたことがそのように人から呼ばれたという言葉です 吉田茂の薫陶をうけた門下生議員達の総称です 戦後の日本を作り上げた人達です 題名どおり、政治評論家の戸川猪佐武の実録小説が原作です 1971年から雑誌連載ではじまり、1981年に第8巻が刊行されて完結したもの 本作はその第一巻「保守本流」を映画化したものです 大宰相吉田茂を主人公に、1948年昭和23年10月7日の第二次吉田内閣発足から、1954年12月10日の第五次吉田内閣総辞職までの6年間を扱っています もちろん本作単独で鑑賞できる作品です しかし、できうるなら小林正樹監督の記録映画「東京裁判」とセットで是非ともご覧頂きたいと思います その「東京裁判」は4時間半もありますが、まずそちらをご覧頂いてから、本作を鑑賞されることをおすすめ致します 本作の冒頭は終戦の詔勅のシーンですが、すぐにいきなり飛んで1948年の10月7日の第二次吉田内閣発足するところから物語が本格的にはじまります その間に何があったのでしょうか? リアルタイムで生きてきたわけでない殆どの観衆は終戦直後の混乱期としか理解できていません その答えは小林正樹監督の「東京裁判」にすべてあります 本作の物語が始まる1948年10月7日、その1ヵ月後の11月12日には、東條英樹ら戦犯7名に死刑判決が下されているのです またその2年前の1946年11月3日には新憲法が公布され、翌1947年5月3日に発布されているのです これは本作で描かれない第一次吉田内閣のときのことです つまり「東京裁判」と本作「小説吉田学校」はシームレスにつながっているのです ですから私達21世紀の観衆は、その順序でこの二つの映画を観ることによって、戦後の歴史のはじまりを二つの映画で疑似的に追体験できるのです またそれによって本作の理解もより深めることができると思います 前半は、その1948年10月7日の第二次吉田内閣発足から、1951年昭和26年9月8日サンフランシスコ平和条約及び日米安保条約の調印の夜までを扱い、白黒で撮影されています そして後半は、そこから1954年12月10日までとなり、カラーで撮影されています なぜそのように白黒とカラーで分けてあるのでしょうか? それは恐らく森谷監督は、前半を過去の出来事として、すでに確定した歴史であると表現しているのだと思います そして後半がカラーなのは現在進行形の事柄であり、これからいかようにも変えることができるものであると表現しているのだと思います 1983年の公開当時からは30年も過去なのに現在進行形としたのは、つまるところ30年経っても政治の在り方も、日本の在り方の問題は、何も変わっていないではないかと監督は言いたかったのだと思います 後半は大磯海岸で吉田茂がこう語るシーンから始まることに注目して頂きたいと思います 「私達は日本の将来に向かって時間と力をかけて多くの宿題を解いていかねばならん (中略) 日米安保条約にしても10年先までこのままでいいというわけではない しかし殆どの問題は君達の時代まで残される 君達が解くべき宿題となる」 その場にいる池田勇人、佐藤栄作の二人に向かって吉田茂は話していますが、観衆たる私達1983年の日本国民へのメッセージとして監督は吉田茂役の森繁久彌に語らせています 1983年の本作公開時点での宿題の進み具合はどうだったのでしょうか? サンフランシスコ平和条約で積み残された沖縄と小笠原は返還されたものの北方領土は未解決 韓国とは国交を回復し、巨額の賠償金も支払いました 中国とも国交回復したものの、台湾とは断交するほか無くなっていました 日米安保条約は国論を二分する大混乱の2度の改定を経て、80年の安保改定は全くの無風で過ぎました しかし、その日米安保条約というものは日本の平和憲法との表裏一体をなすものです 結局自衛隊という方便でなされた再軍備の矛盾はいよいよ大きくなるばかりでした 宿題は1983年時点までに片付いたものもあります しかし難しくて、手を入れようにもどうにもならないものが山積しているままではないのか いや政争にあけくれそんなことを忘れ果てて放置してきたのではないのかと、本作公開当時の日本国民に問うていたのです この宿題を片付けなければならない それをするのは現代の私達ではないのか? これが森谷監督からの本作のメッセージだったのです だから後半はカラーなのです そして、今年は2022年です サンフランシスコ平和条約が発効して日本が主権を回復して70年目の節目の年なのです 本作の公開からは39年経ちました 宿題の進捗状況はその後どうなったでしょうか? 北方領土はせめて2島返還でなんとか実現しようと近年かなり努力したものの、結局水泡に帰したようです 韓国との関係は1983年当時とは様変わりの悪化状況です 北朝鮮は核を開発し、ミサイルをどんどん発射する始末です 中国と台湾問題は、日本の存立事態を危うくする程のものとなるどころか、世界を二分する大戦争の危機をはらむほどの大問題になってしまっています 日米安保条約はより強固になり、日米同盟となりました 自衛隊は大きく拡充され、日本の防衛力はかなり整備されました しかし平和憲法との矛盾はますます大きくなるばかりで、憲法改定への道筋の入口にまで来たものの全く手付かずのままです 日本の再独立、主権回復から70年 とうとう宿題の提出期限が来たのではないでしょうか? 2022年4月28日 その日が主権回復70年目の記念日です 何か記念式典が行われるのかどうか、寡聞にして知りません 2013年には、当時の天皇皇后両陛下御臨席で式典が執り行われたとの記録があります 70年目の記念式典は是が非でも開催されるべきだと思います もし式典が開かれないなら、吉田茂が残した宿題の提出もまた有耶無耶になってしまうかも知れません 本作の後半は、実に呆れるような政争ばかりです まるでついこの間までの現代の国会での与野党の姿のようです 審議拒否、クイズのような国会質問、内閣不信任案提出、懲罰動議・・・ 本作で描がかれている70年前の醜い政争そのままです それらはこの時代にルーツがありそのままシーラカンスのように残されて来たのです 何の進歩もなかったのだと暗澹としてしまうのです 本作の中の実名の過去の政治家も、21世紀の現代の政治家もそんな無意味な政争こそ政治家の仕事であると勘違いしています 全くナンセンスなことです 吉田茂と鳩山一朗との政争は、感情的なものが入り混じった単なる権力闘争でしかありません 本当は国家政策の路線対立であったはずです 非武装での経済再建優先か、再軍備と憲法改正か 最重要な国家政策の路線争いが原点たったのにこの有り様だったのです 但し、吉田の非武装での経済再建はまだ焼け野原が残る1948年頃での考えです 彼自身、10年後このままで良いとは考えていないと劇中述べていますし、朝鮮戦争が始まれば、全くの非武装ではおられないことを認め警察予備隊の創設に動いています あの時点では経済再建が何よりも優先されるのは当然でしょう 実のところ吉田と鳩山の二人の最終的な目的は同じだったのだと思います 敗戦国、米国の属国としての日本の地位を、真の独立国家に回復すること ただその時期を東西冷戦の最中故に再軍備と憲法改正を急がなければならないのか、日米安保条約を盾にして経済復興を優先させたあとの課題にするのか その実現時期、順序の考え方の違いでしか無かったのだと思います 1983年本作の公開当時、日本は既に高度成長を遂げ米国に次ぐ世界第二位の経済大国になっていました そして東西冷戦はそのままであり、北海道はソ連からの侵攻の脅威に現実に晒されていたのです ならばその時点ですでに日米安保と憲法に手を入れる時はすでに到来していたはずです なのに、結局のところ吉田政権当時からまったく進展していないのです 最重要な宿題は放置されてきたのです 皮肉なことに本作公開当時の政権は中曽根総理の時代です 本作の中で、彼自身が国会で吉田茂に「もし第三国が日本に攻撃してきた場合、警察予備隊は戦うのか」と問うた人物だったのです 「帰んなんとて家もなく 慈愛受くべき父母もなく みなし児書生の胸中は 如何に哀れにあるべきぞ」 劇中にいくどか吉田茂がつぶやきます これは全寮制の学生時代に雑誌に吉田が寄稿した歌だそうです 複雑な家庭環境に育った孤独さと、乱暴な寮生にいじめられたつらさを歌ったものと思われますが、劇中では総理総裁としての孤独さを表現していたものでしょう しかし監督の狙いは別だと思います それは敗戦国日本が独立するその心細が込められていたのだと思うのです 自主独立 当たり前のことです しかし言うのは簡単ですが、米国の庇護下の属国的な日本の方がぬくぬくと安閑であったのも確かだったのです 独立国家として、なにもかも自国で国家と国民の運命を決め世界に立ち向かうときのその心細さこそがこの歌に込められていたのだと思います 安閑と年月は過ぎさり、気が付けば本作の公開から39年も経ちました このままでは主権回復70年記念の日に、私達日本国民は「吉田学校」の落第生の烙印を捺されてしまうのではないでしょうか? 一番大事な宿題をなにもしていないではないか!と 吉田茂に一喝されるのではないでしょうか? 2022年、今年は主権回復70年の年 4月28日が記念日です いまこそ本作を観るべきです 蛇足 大磯の旧吉田邸は2009年火災に遭い焼失しましたが、2017年に再建されて見学もできるそうです

コメントする (0件)
共感した! 0件)
あき240

3.0昭和戦後史

2022年1月19日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

サンフランシスコ講和条約にて、日本を独立国家の戻した吉田茂(森繁久彌)の半生記。 私の世代ではおなじみの政治家が総登場し、彼らのやったことを思い出しているだけで時間が過ぎた。 吉田茂の後半は三木武吉(若山富三郎)との政争に明け暮れた印象だが、この時代は日本をどんな国にしようか、と政治家は考えていたような気がする。

コメントする (0件)
共感した! 1件)
いやよセブン

3.0本当の主役は三木武吉

2019年11月19日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

若山先生演じる三木武吉。そう、いまの自民党の礎を築いた男である。徹底的に吉田茂に挑んで鳩山を立てた男である。ある意味、森繁久彌よりも主役であろう。 さて、漫画版吉田学校を読んでいたものの、映画になると尺が短すぎて少し物足りない。 それにしても広川弘禅に藤岡琢也を充てるとは素晴らしいキャスティングだ。この人の他にこんなタヌキを演じられる人はいない。

コメントする (0件)
共感した! 1件)
さすまー

他のユーザーは「小説吉田学校」以外にこんな作品をCheck-inしています。