忍ぶ川
劇場公開日:1972年5月25日
解説
原作は、幻の企画といわれ映画化の話が出ては消え、やっとこのほど11年ぶりに映画化の運びとなった、三浦哲郎の同名小説、第44回芥川賞を受賞している。脚本は、長谷部慶治、監督は脚本も執筆している「地の群れ」の熊井啓、撮影は「裸の十九才」の黒田清巳がそれぞれ担当。
1972年製作/120分/日本
原題または英題:The Long Darkness
配給:東宝
劇場公開日:1972年5月25日
ストーリー
哲郎と志乃は料亭“忍ぶ川”で知りあった。志乃は“忍ぶ川”の看板娘だった。哲郎は初めての出合いから、彼女にひかれて、“忍ぶ川”に通った。ある夜、話が深川のことに及んだ時、志乃は、私の生まれた土地で、もう8年も行っていないと言う。哲郎は志乃を誘い、薮入りの日に深川を案内することになった。志乃は洲崎パラダイスにある射的屋の娘で、父はくるわでは“当り矢のせんせ”と呼ばれていた。志乃が12歳の時、戦争で一家は栃木へ移住、弟や妹たちをおいて、志乃は東京に働きに出ていたのである。深川から帰った夜、哲郎は志乃に手紙を書いた。〈今日、深川で言いそびれた私の兄弟のことを、ここにしるします。私は六人兄弟の末っ子です〉兄が二人、姉が三人いて、上の姉二人が自殺、長兄が失踪、次兄はしっかりものだったが、私を大学へ入れてくれたのも、深川にいたのもこの兄なのだが、3年前に自分で木材会社を設立するという名目で逐電した。そのショックで父は脳溢血で倒れた。一番最初に次姉が自殺した日が、よりによって私の6才の誕生日のときでそれ以来私は誕生日を祝ったことがない。あくる日、志乃から返事がもどって来た。〈来月の誕生日には私にお祝いさせて下さい。〉7月末、志乃に婚約者がいることを知らされた。志乃に問いただすと、婚約はしたけれど、気はすすまず、栃木の父も反対しているという。哲郎は志乃に、その人のことは破談にしてくれ、そして、お父さんにあんたの好みにあいそうな結婚の相手ができたと、いってやってくれと言うのだった。秋のおわり、志乃の父の容態が急変した。志乃は、ひと目、父にあってくれとことづけして栃木の父のもとへ--。哲郎は、志乃のあとを追って行った。「いたらぬものですが、志乃のことはなにぶんよろしゅうお願い申します」といい残し志乃の父は死んだ。その年の大晦日、哲郎は志乃をつれ、夜行列車で上野を発ち、ふるさとへ--。駅には哲郎の母が出迎え、家の前には体が悪いのに雪かきをして、父も待っていた。目の不自由な姉香代も志乃を気に入ってくれた。あくる二日、哲郎の家族だけで哲郎と志乃の結婚式があげられた。初夜。馬橇の鈴のさえた音に、二人は裸のまま、一枚の丹前にくるまり部屋をぬけでて、雨戸をほそ目にあけ、馬橇の通りすぎるのをいつまでも見ていた……。翌朝、新婚旅行に近くの温泉へ出かけることになった。汽車の中から志乃は「見える、見える、あたしのうち!」と子供のようにはしゃぐのだった。