劇場公開日 1962年11月18日

「完成された映画とはこれ!」秋刀魚の味(1962) Nightmare?さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0完成された映画とはこれ!

2023年5月30日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

小津安二郎は同じホームドラマを何度も繰り返しているだけで、面白みがない、革新的じゃない。……当時はそのように言われていたようだ。
確かに過激な内容ではないし、いわゆるドラマチックな展開が用意されているわけではない。なのだが、父と娘の結婚を巡る話ではあるものの、今回は一番下の弟以外家族全員働いているという「結婚前の娘だから家にいる」習俗から外れた現状を反映した設定になっている。
小津の映画は保守的といわれるが、そこに映し出される風景や風俗は当時の最新のものが積極的に取り入れられている(森永チョコレート、トリスバー、横浜トヨペット、キノエネ醤油、サッポロビール…風景に現れるブランド名のなんと多いことか。同年公開の松竹映画『切腹』のポスターまで登場)。飲み屋にテレビがあるのも当時としては新しいものだっただろう。家の中では小型テレビまである。長男夫婦が団地に住んでいるというのも、新しい生活様式だった。
家の中での妻も、ただ夫に唯々諾々と従う存在ではなく、ズバズバと夫に意見を言う姿が、夫の対応も含めて観てる男側としては辛いものがあるものの楽しい。本当に男っていつになっても子供なのだなぁと。
この映画の特に好きなところは、主人公の旧友たちとのやりとりだ。こんなに面白くてしかもオチまで付ける会話が他にあるだろうか。
いざ娘の結婚が決まっても、良かったねですまさず、想像の余地を残している。父が結婚式の後寂しげなのは、娘が家からいなくなったからだけではなく、自分が娘に注意を向けなかったばかりに、意に沿わない結果を押し付けてしまったのではないか、と後悔しているようにみえる。
小津の映画は何度も観てきたが、日本家屋の中で映像を構築する上で小津がよく使うローアングルは、人物が背景から浮き上がって見える効果を得ている。狭い空間で障子・襖・窓ガラス・家具などの造形を立体的に見せるための考えられた手法なのだと、改めて思った。

Nightmare?