「小津安二郎の本当の遺作」小早川家の秋 山の手ロックさんの映画レビュー(感想・評価)
小津安二郎の本当の遺作
小津安二郎唯一の東宝作品を初鑑賞。当時東宝専属だった原節子と司葉子が前作「秋日和」に出演した見返りに、東宝が招いて製作したものとのこと。
前作では母娘だった二人が、本作では仲の良い義理の姉妹を演じている。二人のシーンでは、セリフの切り返し、横並びの構図、シンクロした動きなど、小津安二郎ならではの技法がふんだんに使われているが、本作では技巧的・人工的な感じが前面に出ていて、ドラマとしての深みにうまく繋がっていないような気がした。
本作の一番の見どころは、中村鴈治郎と新珠三千代の父娘のやりとり。父の妾通いを問い詰めるシーン、娘の目を盗んで出かけるシーンは、コミカルかつサスペンスフルで面白い。中村鴈治郎の軽妙さもいいが、新珠三千代が作品世界にぴったりハマっているのに驚いた。
父が急死した後、突然、特別出演の笠智衆と望月優子が出てくる川べりのシーンから、一気に雰囲気が変わる。人生の遣る瀬なさ、無常観といったものが、映像とセリフで珍しいほどストレートに表現されている。
小津安二郎の遺作は、次作の「秋刀魚の味」だったが、本当の意味での遺作は本作だったのかもしれない。
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