「とことん、やるせない。」GONIN 鎌鯱さんの映画レビュー(感想・評価)
とことん、やるせない。
駄作怪作傑作を多く送り込んだ奥山時代の松竹作品群。その中で一番高名なのは「ソナチネ」だろうが、これは取り分け異彩を放つバイオレンス映画の一本。まさに「松竹バイオレンス」の裏ベストでも良いかもしれない。
この物語に出て来る5人の男たちは、バブル崩壊によって社会から溢れ(かけており)、経済的にもギリギリ(そうでもない人もいるこたぁいるが)。彼らは纏まった金を欲するが故、暴力団の事務所へ乱入、資金を強奪する事にすんなりと成功した。
さて此処までは只の暴力映画なんだが、この映画の見せ場はそこからだ。
彼等が1人、また1人消されていく。暴力団に雇われたヒットマンビートたけしによって。この過程が鋭く冷淡な視線を以て描かれている事で、「GONIN」は凡ヴァイオレンスから飛翔し、アイデンティティを獲得した。北野映画もそうだが、裏では恐ろしい位の熱量を帯びた北野映画の視線とはまた一味違う、荒涼で毒々しい視線によって、観客はこの報復の行方に息を呑むのだろう。
殆ど呆気なく殺される彼らの末路は悲劇的であったり、はたまた異常性を孕んでいたり…目前で恋人を犯され、恋人のドレスを着て事務所に殴り込む椎名桔平や、家族惨殺という事実に発狂し、妻の死体と風呂に浸かる竹中直人や…容赦ない描写は北野映画ともタイマンを張れる程だ。
あまりに大きい『落とし前』に狂気の殻に籠もる者もいれば、もちろん、命を落とした仲間や家族の仇討ちに不意の中から立つ者もいる。情味のある『紅い花』の流れる中、観客の望む道は僅かに拓かれ、クライマックスに突入して行く…。
この一作しか観ていない身が言うのは傲慢だが、石井隆監督は結構過小評価されていると思う。こういうエネルギーの入り方が一線を画しているというか何というか。
それでいて、こういうとことんとやるせない闘いをどんと描く所なんかに、魅力がある映画なんだ。