「日本映画の金字塔のひとつに間違いありません」午後の遺言状 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
日本映画の金字塔のひとつに間違いありません
圧倒的な感動、本当の名作です
テーマは誰もにも必ず訪れる老いと死
超高齢化社会に突入した日本が無視できない
必ず向き合わないとならないシビアな現実です
さらに認知症と老々介護という極めて現代的な問題を真っ正面から扱ってアグレッシブですらあります
能の稽古でアカンという台詞
そうかアカンか…という2006年に京都で起きた認知症介護の悲劇を予言すらしているのです
優れた脚本、配役、演技、演出、撮影、音楽
何もかもパーフェクトでした
流石は新藤兼人監督です
感動と敬服しかありません
主演は杉村春子、助演が乙羽信子で、役柄を逆にしたのは何故と序盤で思ってしまいがちですが、なるほどという膝を打つような見事な配役です
あのガサツな杉村春子が大女優役で派手な衣装を纏って登場、高齢にもなり最初は彼女と気付かない程
しかし、だんだんとバシバシ、ズケズケと話し出して成る程彼女にしか出来ない役だと大納得です
監督のお気に入りの乙羽信子も、成る程という配役の理由がありました
ゲートボールに興じる老人達を鉄バットで襲って否定してみても老いは確実に訪れるのです
逃げ回ってみたところで必ず捕まるのです
だめ押しに列車で護送されるところにまで、見たくない老いの現実は追いかけてくるシーンまであるのです
そう、その脱走犯は団塊の世代の年代で設定されているのです
ゲートボールは川島透監督の1981年の映画竜二からの引用かと思います
終盤の赤い風船は深作欣二監督の1975年の映画仁義の墓場のオマージュではないでしょうか
飛んで行く彼女の無垢な魂です
段取りよく終活するのも良いでしょうが、死に急ぐことになっては本末転倒です
2500万も残して、心体健康で仕事もこなしていた
ろくべえは恥ずかしくなって、彼は黄泉の国から逃げ帰ってくるのです
黒子達が棺を担いで海から浜に揚がってくるシーンの意味はそれだと思います
そしてラストシーンで丸い石は小川に水しぶきを上げて捨てられたのです
素晴らしいカタルシスの瞬間でした
日本の明るい未来への視線も、娘の足入れ式の祝いのシーンとともに、バイクに2人乗りで空港に向かって疾走するシーンは新しい世代への期待が込められています
日本映画の金字塔のひとつに間違いありません
しかしあの娘夫婦も今はもう50歳と48歳
もう子供を産めない年齢です
何人の子供をあの夫婦は産んだのでしょうか?
本作公開からもう25の年月が過ぎ去さり、深刻さはさらに深く進行しているのです
世代も入れ替わってしまいました
老いと死を受け入れられなかった脱走犯の世代が主人公達の世代になったのです
しかしリメイクは無理かも知れません
本作はあまりにも完璧過ぎて、物語を時代に合わせたところでこれ以上に展開して掘り下げる余地があるとも思えないのです
第一、足入れ式をやる若者達が田舎に揃うこと自体が現実味を失ってしまい兼ねません