河内山宗俊のレビュー・感想・評価
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守りたくなる原節子
アマプラ(日活プラス)で鑑賞(4Kデジタル復元版)。
無為な日々を過ごすふたりの男が、唯一心和む存在である少女お浪の危難に立ち上がり、彼女を救うため一計を案じる。
「わしはこれで人間になったような気がするよ。(中略)そのために喜んで死ねるようなら人間、一人前じゃないかな」。
本作のテーマを端的に示した市之丞のセリフが沁み、生きる目的を得た男たちが命を燃やして戦う様に心震えました。
クライマックスの立ち回りは、巧みなカメラワークとテンポの良い編集によって手に汗握り、ハラハラさせられました。
とても戦前とは思えない、色褪せてない演出だな、と…
男たちの行動の原動力となるお浪を演じる原節子の、15歳とは思えぬ演技が素晴らしい。守らずにはいられない儚げな佇まいが、天性で身に纏った雰囲気と共に画面から溢れ出す。
その才能を発掘し抜擢した山中監督の慧眼恐れ入る。誠に非凡な才能を持った監督ですし、若過ぎる死が惜しまれます。
若き日の原節子と壮絶シーン
甘酒を売ることで弟との二人の貧しい生活を支える少女の役を原節子が可憐に演じる。しかし、その弟がだらしない。盗み、女郎の足抜けに加担などやりたい放題の揚句に、姉を身売りするところまで追い詰めることになってしまう。
遊び人の河内山宗俊らが、その少女の健気さに義教心を打たれて、やくざの手から逃れさせることになる。そこへ至るまでの宗俊とその妻の葛藤がドラマチックである。いい歳をした夫が若い女にほだされていると誤解し嫉妬の塊となっていく妻を、宗俊ははじめは冷たく突き放す。自分の嫉妬心すらも顧みられず、ますます怒り心頭の妻に対して、いよいよ自宅にやくざたちが押しかけてきたときに、彼は「お前は河内山宗俊の妻」なんだという言葉を残して去る。このたった一言で、妻は夫の義侠心と自分への信頼を確認し、やくざの追っ手に対して毅然とした態度で臨むのだ。
このような決定的なセリフが映画の随所に現れるなかなかの脚本だ。
しかし、画のほうも素晴らしい。水路にバリケードを築いて追っ手を阻む河内山宗俊が、その障害物を必死で支える背に刃を受けてなお立ち続けるラストのシーンは、いったいこの後どれほど多くの作品に受け継がれた構図だろう。やはり、カメラのほうを向いた被写体がその背中を襲われて苦悶の表情を見せるというシーンは壮絶である。
もう一度ゆっくりとセリフを味わい、アクションシーンの構図を確かめながら鑑賞したい一本である。
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