けんかえれじいのレビュー・感想・評価
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ストーリーはあまり面白くないが、やけに印象に残る映像も複数有る不思議な映画
鈴木清順 監督による1966年製作(86分)の日本映画。原題:The Born Fighter、配給:日活
劇場公開日:1966年11月9日
脚色が新藤兼人とは思えぬ、相当にぶっ飛んだ印象の白黒映画。これが、清順監督の持ち味ということか。原作がある様だが、未読。
旧制とはいえ主人公高橋英樹は中学生で、そのけんかなんだが、彼らが持っている武器が強力すぎて暴力団の出入りの様。けんかの師匠スッポン川津祐介やタクアン片岡光雄等、何者か全く説明ないままの活躍であり、物語構成はかなりズボラというか、そういうとこへは監督は興味がなさそうな感じ。
喧嘩は馬鹿馬鹿しく物語もイマイチ。ただ高橋英樹が、ポワーンとしたひょうきんさと、それと裏腹の喧嘩強さ、そして下宿先の女校生浅野順子への純情一途な姿が、意外に良くマッチングしていて結構魅力的だった。福島県喜多方の中学に転校した主人公が、腕力の強い先生加藤武には従い、弱い先生浜村純を虐めるありがちな同級生を批判し、山猿とこき下ろすのが何とも小気味良い。
憧れの彼女がいつも弾いているピアノ鍵盤を、高橋が〇〇〇?で弾く描写には、今まで見たこともなくビックリ。お笑いねらいの描写なのか?
彼女は修道院に入るとお別れを言いに岡山からはるばる福島の高橋のとこまで来たが、その帰り道、軍人隊列に邪魔者扱いにされて、雪道にはね飛ばされる。庶民を蔑ろにする日本陸軍の欺瞞性を提示したものと理解したが、もしかしてこの頃から動き出していたらしい学生運動の行く末を暗示?そう言えば、別れる前の二人の障子紙を破っての指先の絡み映像は、凄い、優れもの!と思わされた。
カフェでの松尾嘉代の気怠い色気を強調する映像、そして緑川宏演ずる北一輝の不気味で強烈な存在感は強く印象に残った。彼は、清順が67年日活を解雇されたことで精神を病み自殺とかで、とても残念。
226事件勃発と北一輝の触発されて、主人公高橋英樹は列車で東京に向かう。映画はそれで終わり当然に第二作があると思うのだが、脚本のみで、その存在が無いことに唖然とさせられた。
監督鈴木清順、脚色新藤兼人、原作鈴木隆、企画大塚和、撮影萩原憲治、美術木村威夫、音楽山本丈晴、録音秋野能伸、照明熊谷秀夫、編集丹治睦夫、スチール浅石靖。
出演
高橋英樹南部麒六、浅野順子道子、川津祐介スッポン、片岡光雄タクアン、恩田清二郎キロクの父、宮城千賀子道子の母ヨシノ、田畑善彦カッパ、夏山愛子ウドン屋の娘、佐野浅夫近藤大尉、晴海勇三柔道先生、長弘剣道先生、福原秀雄叔父、横田陽子叔父の若い妻、玉川伊佐男喜多方中学校長、日野道夫ガニ股先生、浜村純アヒル先生、加藤武マンモス先生、野呂圭介金田、加川景二橋谷田、松尾嘉代みさ子、緑川宏北一輝
君はなぜ東京に向かう
「杉田!東京に行くぞ!」で有名な鈴木清順監督作品。
ある少女への想いを募らせながらもキリスト教の禁欲思想に愛欲を抑えつけられた主人公麒六が、そのオルタナティブとして暴力を見出してしまう、という大筋。振りかざす拳の一つ一つが彼の射精であり、下宿先の乙女こと道子への愛慕だった。
とはいえ暴力は暴力だ。それが性的不満の発散であるという大義名分はあくまで麒六個人の内部で完結するものであり、周囲に暴力を振るっていい理由にはならない。
そこで主人公をはじめとする血気盛んな男たちは、せめてもの理論武装として「男磨き」などといった空疎な抽象論を題目に掲げるが、言わずもがな愚かしいことこの上ない。喧嘩シーンも含めて作品全体がある種の諧謔性に包まれているのは、そのような愚かしさに対する透徹したアイロニーなのではないかとも思う。
岡山を追われ会津に移住したものの依然として不毛な暴力に身を投じ続ける麒六だったが、ある日岡山にいたはずの道子が彼を訪ねてくる。彼女は麒六のことを好きだと言いつつも、俗世を捨てて神に奉仕する道を選ぶ。
これを彼女の主体的な選択と読み取ることも可能だが、私はむしろ麒六の、ひいては男たちの暴力のコードから逸脱するためのたった一つの道が修道だったのではないかと思う。恋する乙女はそれを凌駕する暴力から逃避するため、恋を捨てねばならなかった…のだと。
それでも麒六の暴力衝動に終わりはない。彼は東京で大規模な青年将校反乱事件(2・26事件)が起きたことを知るや否や、東京行きの電車に乗り込む。
もはや彼の衝動の根底に当初のようないじらしい性的不満はなく、不毛きわまる「暴力のための暴力」だけがあった。
本作の制作時代を鑑みるに、本作を来たる学生運動へのアジテーション映画として捉えることには私も正当性があると思う。しかしそこには暴力の消極的肯定だけではなく、それに加えて暴力を振るう意味についての熟考/再考を促すような寓意があるように感じる。
行進する軍人たちに蹴飛ばされ、踏みにじられた道子のロザリオが大写しにされるシーンなどは、加熱する暴力衝動の陰で被害を受ける弱者たちが存在していることをありありと示している。
その後の学生運動のエスカレーションへのアジテートであったのではないか
舞台は昭和10年1935年の岡山と会津
この翌年日本では二二六事件、ドイツではラインラント進駐があった
戦争の様相を強めていく直前の最後の平和な時代
監督は原作小説を単なる戦前の学生の青春物語ではなく、当時の青春模様と1960年代の学生運動をリンクさせたアナロジーとして映画に仕立てたように感じる
けんかは当時の学生運動の暴力肯定の方向性に繋がる表現なのではないだろうか
校長先生が言う
人生には後で考えれば馬鹿馬鹿しいと思うが、その時には命を張ってやることがある
それが男だ
学生よりもまず男だ
男らしくだ
本作公開の1966年は60年代の学生運動が激化していくその発端となった年だということは頭に入れておきたい
駅に向かおうとする道子が雪中に行軍する兵隊達に翻弄され、落としたロザリオを軍靴に踏みつけられてしまうシーンは、戦後の民主化へのと非軍備化に逆行しようとする当時の社会や政治の逆コースと呼ばれたの動きの暗喩だろう
そして二二六事件の思想的首謀者としての北一輝との対決を予感させてのまるで続編に続くかのように唐突に終わるラストシーンは、その後の学生運動のエスカレーションへのアジテートであったのではないかと思わせる
つまり、この先の戦争への逆コースを進もうとす者達にけんかを仕掛ける物語は君たちや私達が紡ぐのだという監督の主張であったのだと思う
暴力的な学生運動を肯定し焚き付けたのだ
それが本作の本当のテーマなのだと思う
映画としてはところ処でハッとする映像表現に出くわす
例えば主人公に岡山からわざわざ修道院に入ることを告げに来た道子と障子越しに手を繋ごうとするシーンだ
障子を貫き破いて主人公の指が彼女の指先と触れるシーンは、処女喪失の破瓜そのものを象徴するエロチックなシーンであった
しかしそれは本作を観る意義の一部分だろうと思う
やはり本作は政治的なアナロジーを意図して撮られた作品として捉えなければ、あまり意義も意味も感じられない
果たして本作公開の2年後には鈴木清順解雇・封鎖事件が起こる
難解でかつ政治的だということで日活を解雇され作品を封鎖されたことに対して、裁判で対抗するに当たり監督本人の個人的問題とだけに留まらず当時の政治的な闘争の色彩を帯びていく事件だ
21世紀から振りかえってみれば、本作はこの事件を経たことによって神格化され、その内容を超えて評価さているのでは無いだろうか?
白虎隊
岡山でずっと頑張るのかと思ってたけど、後半になって、キロクが退学ということになり、会津に転校してしまう。軍人教育にも反骨精神を見せたところなんて、結構面白かったのになぁ。やっぱ退学なんですよね・・・
転校そうそう、いたずらでイスを隠され、ずっと蹲踞の姿勢で授業を受ける。物理のマンモス先生が加藤武。後年、金田一シリーズの等々力警部をやっているが、顔が全く変わってないことにびっくりです。
会津なので、ケンカグループも“白虎隊”。まぁ、白虎隊は右翼ですからね・・・こんなグループには入りたくないや。
道子が会津まで追いかけてきて「結婚できる体ではないので修道院に入る」とキロクに別れを告げ、2.26事件のニュースを見て東京にケンカしにいくキロクであった・・・なんだかシュールな描き方。
退屈だった
喧嘩などはエキサイティングな場面のはずなのだが、見ていて眠くなるばかりだった。主人公のキャラが薄い。肥溜めの攻防が恐ろしかったのだが、だれもそれほど汚いと感じている様子ではないように見えた。
フットワーク軽い高橋英樹!
1966年、鈴木清順監督作品。タイトルは有名だったが未見だったのを配信で。
清順監督の映画は数えるほどしか観ていないが、これはまた独特であった。他の監督作ともまた全然違ったテイスト。昭和10年という時代設定と新藤兼人脚本というのがその理由か。
なんというかスコーーンとしつつギラッギラッとしてる。ラフで猥雑でありつつリリカル。ラストの哀歌的な流れと急な政治的な締め。ちょっと真似できない作り。主人公の『麒六』という奇妙な名前の響きが耳に残る。浅野順子が美しい。
喧嘩シーン等は今の基準ではちょっと厳しいけれどパッションは買えます。原石的なものを見る感じで鑑賞しました。
冒頭の歌が面白い。喧嘩に明け暮れる昔の不良、時代を感じます。いやし...
冒頭の歌が面白い。喧嘩に明け暮れる昔の不良、時代を感じます。いやしかしあんな道具で本気にやったら殺人事件ですやん(笑)
前半は青春映画っぽいのに一転終盤はやや思想的に。ピアノの究極の弾き方には笑ったが、今ひとつ合わなかった。熱烈な信奉者がいる監督さんのようですね、また他のも見てみよう。
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