黒蜥蜴(1968)のレビュー・感想・評価
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一流のスタッフが揃ったはずだったのに…
江戸川乱歩原作、三島由紀夫戯曲、
深作欣二監督・脚本、という面白くなって
当たり前のスタッフながら、何故か
キネマ旬報ベストテンでは
全く評価されていない作品だったので、
恐る恐る初鑑賞した。
しかし、この雑誌の評価通りの鑑賞に。
木村功の明智小五郎役も含め、
ミスキャストだらけの印象ではあるが、
そんな事を差し引いても、
そもそもが、演じる俳優陣も辛いものが
あったのではないかと想像するくらい、
全くの素人劇だった。
江戸川乱歩といえば、
幻想的な怪奇世界が魅力的なのだが、
そんな要素の一掴みさえも感じさせない
この作品はどうしたことだろうか。
一流のスタッフが揃ったはずだったのに、
と言うよりも、いい大人が揃って、
何をどうしたら、
こんな三流映画を作れるのか、
大いなる疑問が残る鑑賞となってしまった。
いずれにしても、江戸川乱歩物は、
彼のオドロオドロしたデフォルメ性
からしても、かつて妻が鑑賞した、
やはり美輪明宏主演の、せめて舞台で
観るべき作品ではなかったろうか。
三島由紀夫戯曲の映画化にある、俳優の彩と深作監督の映画的技巧の簡潔な面白さ
今年は作家三島由紀夫氏の生誕100年にあたり、また1970年の11月25日に割腹自殺してから55年になり、今回この命日にBS放送されたことで鑑賞の機会を得ました。原作は日本の推理小説の先駆者江戸川乱歩(1894年~1965年)が1934年に発表した同名小説で、1961年に三島由紀夫が戯曲化し、翌年初演されたものを脚本家兼監督の成沢昌茂(1925年~2021年)がシナリオに落とし込んだもの。この成沢は若くして溝口健二に師事して、晩年の作品「噂の女」(1954年)「新・平家物語」(1955年)「赤線地帯」(1956年)で採用された経歴の持ち主です。共同脚本と演出がアクション映画やヤクザ映画始め幅広いジャンルを手掛けた名匠深作欣二監督(1930年~2003年)。個人的には趣味嗜好から最も縁遠い日本の映画監督の一人です。音楽は「飢餓海峡」などの冨田勲(1932年~2016年)と、優れた映画人が結集したスタッフメンバーと言えると思います。
探偵物としてのストーリーは分かり易く、謎解きの面白さは特にありません。令嬢岩瀬早苗に桜山葉子が身代わりになるところがピアノ演奏のテープで提示されていて、ミステリー好きには簡単かも知れません。ただ早苗の美貌と肢体に惚れ込んだ黒蜥蜴が気付かないのが不自然でした。明智小五郎が部下の松吉に変身しても黒蜥蜴は騙されます。この映画の良さは、三島由紀夫の創作した観念的な台詞の言葉の美しさが際立っていることです。小説の映画化ではなく、あくまで戯曲の映画化の面白さが独特の世界観を作り上げて、そこには深作監督と堂脇博によるカメラワークが色んなテクニックを駆使していて、映画の流れが停滞することがありません。舞台劇の緊張と、移動やズームやパンによるカメラの明確な視点が融合した演出タッチは、綿密に計算された成果と言えるでしょう。そして、女賊緑川夫人を演じる丸山明宏33歳の妖艶さとミステリアスな魅力が、黒蜥蜴のキャラクターを唯一無二にしています。オスカー・ワイルドの戯曲『サロメ』のオーブリー・ビアズリーの挿絵を生かした舞台セットが黒蜥蜴の存在感を補足する美術もいい。この黒蜥蜴と明智小五郎が女賊と探偵の敵対する立場でありながら引き寄せられるのは、似た者同士の価値観と美意識の波長が響き合うからでしょう。ミステリー小説や探偵映画ではよくあるパターンです。それでも二人が会話する時の台詞が洒落ているし、モノローグが重なり合いながら最後同じ心の声になるところは秀逸でした。相手役は三島由紀夫が舞台で推薦した天知茂(1931年~1985年)でなく、当時ベテラン俳優の域にいた木村功(1923年~1981年)です。この俳優の生真面目さが明智小五郎として活かされていると感じました。数少ない作品の印象でも、木村功の正攻法の演技から真摯な俳優と人間性を想像してしまいます。私的にはテレビドラマ「ザ・ガードマン」の俳優でインプットされた川津祐介(1935年~2022年)が、自殺願望から黒蜥蜴の奴隷になり、最後は桜山葉子と駆け落ちするという、この映画の中で最も謎で曖昧で分からない雨宮潤一を演じています。役回りとしては、けしていい役ではありませんでした。早苗と葉子の二役の松岡きっこ(1947年生まれ)は、黒蜥蜴が陶酔する日本的美人ではなく、この時代のスレンダーなモデル体型の可愛さがある21歳の初々しさ。登場時間が少なくも存在感があるのは、的場刑事の西村晃(1923年~1997年)です。木村功と同年齢と知って驚きました。更に異色の存在は、黒蜥蜴の手下で信頼厚いひなを演じた小林トシ子(1932年~2016年)で、蛇遣いの女スパイのキャラクターに瞳の色が変わる演出が面白い。「カルメン故郷に帰る」(1951年)の時の面影はなく、地味に女優を続けていたのが役に表れています。今回調べて「砂の女」の勅使河原宏監督のパートナーだったことを知りました。カメオ出演の丹波哲郎はそれ程印象に残らなく、やはり原作戯曲の三島由紀夫が裸体を晒した生人形の役が見せ場になっています。亡くなる2年前、43歳の三島の身体は30歳から始めたボディビルの筋肉を誇示しても違和感はありませんが、この自己顕示欲も含め作家三島由紀夫本来の姿なのでしょう。幅広い芸術分野に精通して、映画にも関心の高かった三島由紀夫の、どんなことでも面白がる好奇心は、凡人の想像力では追いつきません。
これらキャスティングの面白さ含め、映画としての完成度はけして優れているとは言い切れなくも、上質なお遊びを真面目に楽しむ戯曲映画化のユニークさには好感を持ちました。苦手な深作監督の演出にも今回は感心しました。
淀川長治さんが1956年、『金閣寺』執筆前の31歳の三島由紀夫氏にインタビューしたものがあります。映画のシナリオは自分が監督しない限り書きたくないと言い切っていました。実際1966年に『憂国』を映画化して、監督、脚本、製作、主演を果たしています。小説には不思議な感動を得ましたが、映画「憂国」は台詞が無いモノクロ映像の短編で、死と生、愛と性が渾然一体となった観念的映像作品で、どう評価してよいものか迷うものです。ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』の音楽が効果的に使われていました。
31歳の三島由紀夫が好きな映画監督は、カザン、マンキウィッツ、ジョージ・スティーヴンスで、最も好きだったのはエルンスト・ルビッチと答えています。俳優では「フィラデルフィア物語」のキャサリン・ヘップバーンが特に良かったといい、笑われる覚悟でアン・ブライスが好きと正直に告白しています。「エデンの東」のジェームズ・ディーンの演技には、一言巧いと感心しながら、カザン監督の演出指導あっての演技力とみていました。驚くほど映画を観ている三島氏に、オリジナル・シナリオに手を付けないことを残念がる淀川さんでした。
全体的には不気味な雰囲気
美輪ちゃまが既に仕上がっています
年代や性別を超越した怪作
妖艶な空気感に浸れる怪作
江戸川乱歩原作の明智小五郎シリーズの一作を、三島由紀夫が戯曲化し、それを深作欣二が監督として映画化、さらに主演を務めたのが美輪明宏(当時は丸山明宏)――この錚々たる布陣を見ただけでも、本作がいかにエポックメイキングな作品であるかが分かります。今回、Bunkamuraル・シネマにて期間限定上映されていたため、観に行ってまいりました。
私は三島由紀夫のファンということもあり、彼が出演する場面に特に注目していました。噂に違わず、ナルシズム全開の姿で登場した際には、劇場内に微かな笑いが漏れる一幕もありました(笑)
さて、本作の原作は明智小五郎シリーズの一篇ですが、テレビドラマで天知茂が主演した『江戸川乱歩の美女シリーズ』と同様に、主役は「明智」ではなく「美女」。本作におけるその“美女”とは、宝石泥棒・黒蜥蜴こと緑川夫人でした。演じるのは美輪明宏。その妖艶さと存在感は圧倒的であり、本作最大の見どころとなっていました。
また、「美しさ」を永遠に保存するために生きた人間を殺し、人形として保管するという黒蜥蜴の倒錯的な趣向には、三島由紀夫自身の美意識や死生観と深く通じ合うものがあると感じられ、その意味でも、三島ファンには実に興味深い作品でした。
作品内容とは直接関係しませんが、本作が公開された1968年当時、三島は遺作となる『豊饒の海』の第2巻『奔馬』を連載中で、その舞台となったのが三輪山を御神体とする大神神社(おおみわじんじゃ)でした。そして1970年に三島が割腹自決した後、丸山明宏が三島の供養のために美輪明宏へと改名したということを思い合わせると、この作品に漂う運命的な結びつきに、何とも言えぬ感慨を抱かざるを得ません。(勿論三島と美輪の親交は、本作以前からありましたが。)
ミステリー作品としては、論理性や整合性といった面は気持ちよいほどに端折られており、そうした観点では物足りなさを感じました。しかしながら、作品全体に漂う妖艶な空気感、レトロ調の美術、まさに舞台劇のように誇張されたセリフ廻しなどに目を向ければ、それらが一体となって、実に美しい芸術作品として結実していたように思います。
そんな訳で、本作の評価は★3.8とします。
美しすぎる悪
中野武蔵野ホールで観て以来だから27、8年ぶり。まだ立ち見のあった時代で、札止め寸前のギリギリ入場だったから座って観るのは初めて。
オープニングからカルト臭ぷんぷん。任侠映画をやりながら、こういう攻めた演出もやる深作監督も守備範囲が広い。
ずいぶん前とはいえ一度観ているから、ざっくりストーリーは覚えてはいるのだけど、オシャレ映画に憧れていた若い頃とは見方が違うかも。
やはり若かりし頃の美輪さん美しい。黒蜥蜴が女なのか女装なのか最早どうでもよい。あんな衣装を違和感なく着こなせるのは凄いな。
逃げる時の姿もお美しい、いわゆる男装の麗人ってやつか、いや厳密には男装ではないのだけど、やっぱりあれは男装...ややこしい。
そして川津祐介さん、やっぱり昭和の俳優さんはカッコいい。ハンサムってやつだね。
いろいろ荒唐無稽な設定は否めないのだけど、近年は昔の映画がたくさんリバイバルされて嬉しい限り。
奇怪で妖艶なムードに酔う
監督・深作欣二×戯曲・三島由紀夫×主演・美輪明宏という、何だかスゴい面子。
江戸川乱歩原作の明智小五郎ミステリー。1968年の作品。
美輪明宏が名探偵を演じるのではなく…
美輪明宏演じる美しいものを狙う怪盗“黒蜥蜴”と明智小五郎の攻防。
ハッキリ言ってミステリーとしての見応えは弱いが、それでも本作がそれなりに楽しめる理由がある。
妖しさとほんのりエロティズムの奇怪なムード。
明智先生にはご免なさいだが、僕の好きな金田一耕助作品にもこういう退廃的な都会ミステリーがあり、何か惹かれるものを感じてしまうのだ。
三島由紀夫が美輪明宏の為に書き改めただけあって、全編美輪の土壇場!
妖艶な美貌、華麗なる女装、自分を追う明智への恋愛感情をも楽しみ、インパクト抜群。
尚、“黒蜥蜴”は女性という設定。念のため。
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