黒木太郎の愛と冒険のレビュー・感想・評価

10月14日慢性心不全のため東京都の自宅にて89歳で他界

監督と脚本は『ニワトリはハダシだ』の森崎東

1977年公開作品だがモノクロ

あらすじ
伊藤銃一は映画仲間の太田勉と荒木公一と共にゴメさんの世話で菊川菊松が営む大人のおもちゃ屋の2階に下宿をしている
勉の伯父は映画のスタントマン黒木太郎
太郎の妻は元女優で太郎の妹が営むパーマ屋で働いている
太郎と妻の牧子の間にはまだ幼い白百合という娘がいる
伊藤は映画監督になって太郎の妻を主演女優として主演で起用する夢を持つ
医者から止められているのに酒がやめられないゴメさんは肝臓の病気により路上で死んだ
友人の死に悲しむ太郎は銃一と共にゴメさんの妹に遺骨を届けに行った
ゴメさんの妹は夫と共に漁師町で床屋を営んでいた
床屋夫妻は2人とも聾唖者で幼い息子がいた
2階で下宿している女教師はオールドミスのインテリで猫を20匹も飼っていた
たくさんの猫たちのせいで一階の天井から数多くの蚤が降ってくる
それを正そうと拳銃を持ち女教師の下宿先へ夜這いに乗り込む黒木太郎
大人のおもちゃ屋のまえで客相手の菊松の話を聞き夫が女教師を犯したことを知る
ヤケになった牧子は仕返しに浮気をしてやろうと銃一を待合茶屋に呼んだのだが

黒木太郎は愛車のジープのボンネットにデカデカと日の丸
右翼を気取って東京都内中の警察を揶揄っている
日の丸で警察が取り締まるとはどこの国の警察だろうか

森崎東監督の『ニワトリはハダシだ』の映画タイトルは『黒木太郎の愛と冒険』に出演した財津一郎が何度か言った台詞が来ている
その言葉自体は当たり前のことだが比喩として意味不明
財津一郎演じる菊川菊松は大人のおもちゃ屋を営むが売っているのはテンガやピンローのような性的ないやらしいものではない
昔の漫画雑誌の広告で紹介されていたような悪趣味なドッキリ悪戯グッズだった

伊藤銃一演じる伊藤裕一はのちのAV監督TOHJIRO
若い頃から声が独特でドスが効いている
今作でナレーターも
TOHJIRO監督といえば森下くるみ
彼女のAVで彼女が「リンカン学校でリンカンされた」というような駄洒落を言うシーンがある
これは『黒木太郎の愛と冒険』でも財津一郎演じる菊川菊松が発言しているが偶然だろうか

女教師を演じる緑魔子
彼女の出演作を過去に何度か観たがほぼ確実にヌードになっている
それにしてもアングラ感を感じるとすごい芸名
ちなみに夫は長らく別居中の石橋蓮司

ブルマの声を担当したことでも有名な今は亡き鶴ひろみ
彼女もまた子役出身で出演しているのは同姓同名でなくまず間違いなく本人だろう
まだ中学生くらいですっぴんのためわかりにくいが
その点でいうと冨永みーなは子役の頃からほぼ完成されていて本人だと確認できる
赤ちゃんの頃からいや胎児の頃から冨永みーなだったんだろう
きっと産声は「オギャー」ではなく「あすまー」に違いない

トルコの女子寮からまだ中学生の姪の和美を救出に乗り込んだ黒木太郎だがトルコの元締め赤田組に重傷を負う
病室で連呼される南無妙法蓮華経
警察に連行される赤田組長と他一名組員を仇討ちのため襲撃するのは伊藤銃一
パトカーのてっぺんに捕まりカーチェイス
最後に美味しいところを持って行ったのは田中邦衛ではなくTOHJIROだった

配役
将来は映画監督を目指す俳優のガンちゃんこと伊藤銃一に伊藤裕一
文句さんことカースタントマンの黒木太郎に田中邦衛
大人のおもちゃ屋を営む元刑事の菊川菊松に財津一郎
元女優で義妹のパーマ屋で働く黒木太郎の妻の牧子に倍賞美津子
博打の負けの取り立て屋のゴメさんに伴淳三郎
太郎の妹であり勉の母でパーマ屋の加津江に清川虹子
太郎と加津江の妹で芸者の置屋をしているチイ婆こと満江に沖山秀子
満江のボーイフレンドの信太郎に小沢昭一
伊藤銃一の父親で精神病患者の豊太郎に三國連太郎
ゴメさんの妹で聾唖の吹雪に杉本美樹
妻と共に床屋を営む吹雪の聾唖の夫に岡本喜八
吹雪の家の2階に下宿し猫を30匹飼っている教師の君島に緑魔子
手配師Aに火野正平
手配師Bに殿山泰司
労務者に井川比佐志
助監督兼俳優で黒田太郎の甥の太田勉に太田聖規
制作部助手兼俳優の荒木公一に荒木健一
公一の恋人でトルコ嬢の絵見に深沢綾
絵見の先輩トルコ嬢のエバに森みつる
勉の従姉妹の和美に鶴ひろみ
待合の女将に赤木春恵
トルコ「紅雀」のバックにいる暴力団赤田組組長の赤田に麿赤兒

川崎市市民ミュージアムで2015/11/28に鑑賞。
田中邦衛を食った演技をしてた銃一役の伊藤裕一という俳優が良かった。ルックスからかけ離れたような低い声で初めは違和感あったけど見ていくうちにそれは気にならなくなり、不器用で朴訥で真っ直ぐな青年を上手く演じてたと思う。ナレーションの声もやってて実質的に主演だった。気になって伊藤祐一の名前で検索しても別人の俳優しか出てこないので、映画の冒頭で挨拶していたように本当にスタッフが俳優をやらされていたのかもしれない。そう思ってさらに調べたら、マジだった。”当時横浜にあった今村（昌平）さんの映画学校の生徒さん”だそうです。
冒頭で田中邦衛が右翼左翼のデモで警戒中の中、国会やソ連大使館周りを日の丸付けたジープで乗り回し、警官をからかうシーンは痛快でカッコ良かったwそんな破天荒なキャラなのかなと思ったら全般的には頼りになる兄貴的なキャラでした。
田中邦衛演じる文句はスタントマン、伊藤祐一演じる銃一は映画監督志望という設定でしたが、あまり話には関係なく、途中で忘れてましたw
迷惑な女教師役の緑魔子の左右が上下にずれたように見えた目が気になったけど、実際に斜視なんですね。それを逆手に取って魅力にしてたみたいですね。何でもすぐに整形する最近の芸能人と比べて潔いなあ。過去の呪縛を解かれて自分を取り戻した後の演技は別人のように可愛かったね。

政界や財界の下でもがきながら一生懸命生きる底辺の人達の人間臭いドラマでした。