「文脈に則った良質な怪獣映画」キングコングの逆襲 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
文脈に則った良質な怪獣映画
この頃から量産されるようになる東宝怪獣映画はとにかく怪獣が暴れ回るまでに長い長い時間を要する。最近見た中だと『モスラ』なんかは宣伝用ポスターをデカデカと飾るモスラの成虫が登場するまでに1時間半ほどかかっている。つまり最後の10分ほどしか成虫モスラが活躍していないということだ。その圧倒的不在を幼虫モスラとザ・ピーナッツとフランキー堺がうまいこと誤魔化しているのが『モスラ』の面白さなのだが、それはそうと怪獣が見たいという幼心は退屈してしまう。
その点本作の歓待ぶりはすごい。常にコングかメカコングが画面にいるし、概ね暴れている。それでいて単なる怪獣プロレスに留まることなく、策謀渦巻くサスペンス・スリラーを同時に展開している。温暖な南の島から南極へのダイナミックな空間移動も面白い。
キング・コングの造形は当時の国内特撮映画らしくおどろおどろしいものの、一方でどこか愛嬌があって憎めない。このあたりは本家『キング・コング』のエッセンスをうまいこと看取している。
また、東京を舞台にしたコングとメカコングの一騎打ちでは、コング・メカコングの東京タワー登攀は本家コングのエンパイア・ステートビル登攀と重なり合う。しかし本家のような惨劇は起きず、心優しいコングはメカコングの手から美女を救い出す。コングの代わりに地面へ激突するのはドクター・フーのメカコングだ。その後コングはドクター・フーの根城である船舶を発見するや否や容赦ない攻撃を加える。そして元気よく南の島へと帰っていく。
この手の国を跨いだリメイク怪獣映画は往々にして文脈もへったくれもないプロレス映画に陥ることが多い(『GODZILLA』『ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団』など)なか、本作はきちんと本家『キング・コング』を範型としたうえでそこに新たな文脈を築き上げることに成功している。そのうえ頭でっかちになりすぎることなくプロレスも披露してくれる。『ゴジラ』レベルの傑作とまでは言わずともなかなかの秀作であるように感じた。