劇場公開日 2022年1月14日

「そんなの、年をとってから後悔すればいい…。 少年は自分の進む道だけを見据えていた。」銀河鉄道999 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5そんなの、年をとってから後悔すればいい…。 少年は自分の進む道だけを見据えていた。

2025年1月13日
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鑑賞方法:映画館

【劇場版公開45周年記念】『銀河鉄道999 4Kリマスター版』(期間限定上映)にて。

15歳で漫画家デビューした松本零士は、高校卒業後に福岡の久留米から単身で上京する。
1957年のことである。
当時の長距離移動手段は夜汽車だった。
硬い座席に一人、見つめる窓の外は暗闇。
松本零士青年は、寂しさを紛らわすために息で曇る窓に女性の横顔を描き、二人旅を想像した。
そしていつしか、二人を乗せた列車は星空へと舞い上がっていったのだろう。

「宇宙戦艦ヤマト」の奇跡が起きたのは1977年。松本零士は一躍時の人となった。
やがて、「…ヤマト」の方向性において西崎義展プロデューサーと意見が食違い始めた松本零士は、自身のポリシーをアニメ映画に投射する企画に注力し始める。その第一弾が本作『銀河鉄道999 (The Galaxy Express 999)』だった。
既に東映動画によって「宇宙海賊キャプテンハーロック」がTVアニメ化されていて、東映動画の今田智憲社長(当時=本作の製作総指揮)が同TVアニメを高く評価したことから、チーフディレクターの りん・たろう を本作の監督に抜擢したらしい。東映動画の長編映画で他社所属の監督はこれが初めてだった。
りん・たろう は “WOWOWプラス” のインタビュー番組で、今田社長が「…ハーロック」の第1話に感動してお前と一緒に観たいと言うので試写室で隣に座って観ていたら、今田社長はまた涙を流していたと、当時を振り返っていた。
『約束』(’71,監督:斎藤耕一,脚本:石森史郎)の岸恵子と萩原健一の列車での会話に感銘した りん・たろう がアニメ作品の経験がなかった石森史郎に脚本を依頼したのだそうだ。
長編の監督が初めてだった りん・たろう は、絵コンテ作成に約1年かけたという。

「…ハーロック」放送開始から半年後、本作に先立って「銀河鉄道999」のTVアニメが放送を開始すると、たちまち広い層の支持を得た。
作画監督の小松原一男と音楽の青木望は映画版とテレビ版の両方を担当している(小松原一男は「…ハーロック」も担当)が、この映画とTVアニメは互いに関連しない独立した作品として制作が進められた。
まだ原作漫画は少年キングに連載中、TVアニメもフジテレビ系列でレギュラー放送中での公開だったにも拘らず、終着駅もメーテルの秘密も見せてしまったのだから驚いた。
松本零士は執筆する漫画よりもアニメの方を重視しているのだと、友人たちと話したのを覚えている。
ちなみに、2年半放送が続いたTVアニメも原作漫画が完結する前に最終回を迎えている。

企画・構成に直接的に関与した松本零士自身がそうだったように、男の子は旅立ち、そして大人になる。
その思いを脚本の石森史郎はより強調している。
メーテル、ハーロックなど鉄郎少年を熱く見つめる大人たちは皆、ひとりごちる。
それぞれのモノローグは、松本零士の言いまわしの特徴を捉えていて巧みだ。

機械伯爵の存在を原作よりも膨らませて鉄郎の当初の行動原理に位置づけたことで、この長大な物語を一本の映画に収める脚色は成功している。
そして、鉄郎の旅の目的が大きく転換し、「永遠に生きることが幸せではない。限りある命だから人は精一杯頑張るし、思いやりや優しさがそこに生まれるんだ」というテーマに行き着くのだ。

たった一人で戦おうとする鉄郎少年を強い大人が側面から支援する構成も熱い。
機械伯爵を追う鉄郎の盾となるアンタレス、機械化惑星に攻撃力を全開して突入するアルカディア号のハーロックと40人の海賊たち、クイーン・エメラルダス号のエメラルダス。アルカディア号の中枢にはトチローの心が宿っている。
戦士たちは、少年がその純粋な正義を貫くことを邪魔するものを排除する。そして、少年の正義は少年によって遂行されるのだ。
大人たちはこの不文律をわきまえているから、たまらなくカッコいい。
「いいか、鉄郎にかすり傷一つつけるな。無事に地球に帰すぞ」
「トチロー、あなたの意思は立派に鉄郎が継いでいる。死なすわけにはいかない」

りん・たろう の演出もスケールが大きい。
星雲が浮かび上がる宇宙空間に無音のまま文字が打ち出される「ひとがこの世に生まれる前からこの星は輝き…」
画面上手奥に小さく光が瞬くと、蒸気で駆動するピストンの音とともにその光は目の前に迫り、蒸気機関車の形状を現してカメラをなめるように下手に去っていく。
このときスクリーンいっぱいに映し出されたC62の足回りの描写は、松本零士独特のペンタッチが見事に再現されていて、圧倒されんばかりの迫力だ。
そして、城達也によるナレーション「人はみな星の海を見ながら旅に出る…」
毎夜FMラジオで聴き慣れた〝JET STREAM〟の機長の低く甘い声音だった。
レールのない空中に車輪を回転させて進む〝999〟の姿を追いながらナレーションは続く「…夢と希望と野心と若さを乗せて、列車は今日も走る…」
汽笛が高鳴る。
「…そして今、汽笛が新しい若者の旅立ちを告げる」
タイトル表示…
青木望による厳かな劇伴が流れる…
なんと素晴らしいアバンタイトルか!
手描きのセル画による少しギクシャクとした列車の動きに、なんとも言えない温かみがあるではないか。

さらに映像は〝999〟を追い続ける。メインスタッフ表示の背景で、劇伴に乗せて。
列車は絶妙のバランス感覚で発着用のレールに降りると、地上に向かって下降し、ターミナル駅に吸い込まれていく。
銀河超特急は今、地球に帰還した。
そして、間もなく始まる宇宙冒険旅行への折り返し運転の時を待つのだ。

そして本編の導入部。
地下の貧民窟で壁に貼られたハーロックたちの指名手配ポスターを見て振り向いた少年は、原作よりも少し年長の星野鉄郎だ。
鉄郎は仲間への合図に指笛を吹くと、脱兎のごとく駆け出し、ジャンプ一番のストップモーション。
そこで劇伴は軽快に転調して高鳴る。

宇宙へ飛び立つ前なのに、ここまでで映画のスケールの壮大さが伝わり、ワクワクさせる。実に見事だ。

この映画には〝999〟が地球を出発するシーンが2回ある。
初めて鉄郎がメーテルとともに乗車した旅立ちのときと、地球に帰り着いた後メーテルだけを乗せて出発する別れのとき。
どちらも〝999〟の出発にゴダイゴの歌が重なる。

旅立ちを唄う「テイキング・オフ!」は、軽やかに少年の夢を応援する。
このときの鉄郎は、機械の身体と永遠の命を手に入れることが旅の目的だった。
亡くなった母や、地球に残した仲間たちに思いを馳せながら、アンドロメダを目指す。
タケカワユキヒデの歌声。
「♪年老いた大地を思い切り蹴って、星たちの彼方へ、さあ、飛び立て♪」

別れのときは、かの大ヒット主題歌が新たな未来への希望を唄い、ひとつ成長した少年をもう一度歩き出させる。
まず、ストリングスの調べが鉄郎とメーテルの別れに涙を誘う。
動き出した〝999〟で長い金髪をなびかせるメーテル、列車を走って追う鉄郎、最後尾でそれを見つめる車掌。
レールの終わりを越えた〝999〟は空に輝く一筋の光になる。
城達也のナレーション「…さらば少年の日よ」
ミッキー吉野によるイントロ。
鉄郎は、涙を拭い、振り向いて歩き始める。
タケカワユキヒデの歌声。
「♪古い夢は置いて行くがいい、再び始まるドラマのために♪」

松本零士は主題歌を人気バンドに任せることに懐疑的だったが、完成したエンディングを観て、漫画では出せない効果に感激したという。

松本零士の独特の絵柄は、そのデッサンとペンタッチを真似るのが難しい。
時折メーテルの顔のバランスが狂ってしまうところに、原画担当の苦労を窺わせる。
ところが、ハーロックの描画はまるで松本零士の絵がそのまま動いているかのようだった…。

kazz
たなかなかなかさんのコメント
2025年1月17日

kazzさん、コメントありがとうございます♪

私はコメントしていないので、どなたかと勘違いしていらっしゃるのかと^^;

何はともあれ、熱量のあるレビューを楽しませていただきました!

たなかなかなか
kossyさんのコメント
2025年1月17日

素晴らしいレビューに感服いたしました。
松本零士ワールドがあちこちの作品で交差する楽しさもいいし、原作漫画とは違った広がりが素敵でした。
コミックも昔は読んでいて、「セクサロイド」とか四畳半なんとかとか・・・鬱屈した中で壮大なストーリーを紡ぐことが出来るってのも天才ですね~

kossy
活動写真愛好家さんのコメント
2025年1月15日

kazzさん、共感&コメントありがとうございます😊
ホントに「銀河鉄道999」への愛あふれるレビューですね‼️でもこの時期の日本のアニメーションというのはホントにすごかったと思います‼️「宇宙戦艦ヤマト」があって、その続編があって、そして79年に今作と「カリオストロの城」があるわけですから‼️また再見したくなりました😁

活動写真愛好家
Mさんのコメント
2025年1月15日

凄い情報量ですね。
このレビューを読みながら、もう一度見てみたくなりました。ミッキー吉野、C62等、なんと懐かしい響きでしょう。
蒸気機関車のことを(その代名詞として)デゴイチ(D51)とか言ってましたが、私はC62の力強い姿の方が好きだったことを思い出しました。

M