切られ与三郎
劇場公開日:1960年7月10日
解説
「ジャン・有馬の襲撃」の伊藤大輔が自らの脚本を監督したおなじみの時代劇。「ぼんち」の宮川一夫が撮影を担当した。
1960年製作/94分/日本
配給:大映
劇場公開日:1960年7月10日
ストーリー
江戸の蝋燭問屋“伊豆与”は跡目をつぐ子供がいないところから与三郎を養子に迎えたが、間もなくお金と与之助の実子が生れた。このため総領養子の与三郎はみずから放蕩三昧にふけって家を飛出し、得意の三味線を抱えて中村座の舞台裏から手弁当さげての道楽勤めをしていた。病気の父の与左衛門は家督を与三郎に譲ろうと考えていたが、妻のお菅は大阪から縁つづきの山城屋文左衛門を呼んで与之助が跡目をとれるよう策動していた。すべてを知った与三郎は、お金の切ない願いをよそに一人旅に出てしまった。そして木更津へ--与三郎は、新内の取り持つ縁で網元、源左衛門の囲い者料亭“きさらず”のお女将お富と結ばれたが、旅先から帰った源左衛門にかぎつけられた。覚悟したお富と与三郎は墓場の井戸へ身を投げた。しかし二人は源左衛門の子分に発見され、与三郎は全身三十数カ所の生キズを受けるリンチにあったうえ、簀巻にされて海へ投げ込まれたが、幸にして田舎まわりの女歌舞伎“芝村あやめ”一座の女たちに助けられ、座頭のあやめ、女役者のかつらから好意を寄せられた。それから一年--与三郎ははからずも湯の町でかつらに出会った。彼女は一座の借金のかたに、大貸元・佐々良三八のめかけになっていた。“ここから自分をつれ出してほしい”というかつらの願いに迎えに行った与三郎は三八を殺したかつらから犯人に仕立てられ、怒りに燃えた与三郎はかつらを刺してしまい牢につながれた。その夜、牢を破った与三郎は、牢破りとして関八州のお尋ね者になるとともに三八一家の子分たちに追われながら、お金の安否を気づかって江戸に帰った。そして、“伊豆与”は与之助がついだが、すべては山城屋を後見役とするお菅の思い通りに切りまわされ、そのうえ、十七歳になったばかりのお金はお城のご用商人係、飯沼左門のもとへめかけに出されそうになっているのを知った。与三郎は、同じ安宿の蝙蝠ノ安五郎をさそって、多左衛門の別邸に乗り込んだが、意外にもそこにはお富がいた。“お富久しぶりだな……”とタンカを切る与三郎に多左衛門は小判の紙包みを差出した。与三郎はお富を使ってお金を助けようとするがだまされ、また仲間の蝙蝠安にも裏切られ、三八の子分とご用提灯の群に追われることになった。“自分さえつかまれば……”--兇状持ちの妹として左仲との話もこわれる。こう決意した与三郎のふところにお金がとびこんで来た。“私--お兄さまが好き”。流転の果てに生涯で初めての恋をつかんだ与三郎のあとにはご用提灯の波が追って来た。“お金、お前は俺ひとりのものだ”--こう叫んだ与三郎はお金を抱いて海へ歩み入った。二人の顔には恍惚の微笑があった。