劇場公開日 1966年6月11日

紀ノ川のレビュー・感想・評価

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5.0紀州・紀の川沿いの名家に嫁いだ女とその夫・家族が、明治・大正・昭和の動乱期をどのように生き、死していったのかを描く格調高い文芸大作

2024年9月2日
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初見が10年ほど前だったが、食い入るように魅させられた「逸品」というに相応しい邦画といたく感動し感心した作品。 何度も再視聴しようとしたものの相応の心構えが必要な「敷居の高い」映画でもあるので、これほど年月が経ってしまった。 ようやくの再視聴に、初見時同様の感動感心が生じ誠に感慨深い。 中村登監督作品はいずれも格調高さと品格が感じられ、居住まいを正されると共に、深い充足感に満たされる場合が多い。 この際、他の作品も再視聴しようと思う。 書き忘れそうになったが、武満徹の不穏さを匂わせる音楽が最初のうちはそぐわないような気がしていたものの、話のすじ的に、結局はどんぴしゃりと適合していたとしか言いようがない素晴らしい音楽でした。 中村監督の狙いに武満音楽は完全に沿っていたのだなと、そこでも感心。また感心・・

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resuwisshu311

4.0お前のお母はな、紀ノ川やな。

2023年9月2日
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鑑賞方法:映画館

すごいな、司葉子。乙女からおばあさんまで違和感ない。しかも、当然ながら美しい。仕草もその美しさに添えるように品がある。若い岩下志麻も魅力的。この人こそ何でもできる。ここでは跳ねっかえり娘を演じているが、母との間にはしっかりと結ばれた絆がある。ドライに見えて情も深い。葬儀の場面、「ああいう悲しみかたもあるんだ」には、彼女の人としての一本の太い信念が見えた気がした。花から母娘三代、とは言うが、花の祖母の見送り姿にだって、紀ノ川の傍で生きてきた女の気骨を感じたな。当時の女性の生き方は、現代のいてはコンプライアンスにがっつりとひっかかることだろう。隷属状態の妻を見て、憤慨する人もいるだろう。だけど、この時代の母の姿はこうであった。婚家のしきたりに従うことこそ良き妻であった。まさしく「一旦、嫁したるは、身を灯明の油にして」の姿だった。それはけして服従の気持ちではなく、大家に嫁した嫁の矜持としている。それを現代では厭うであろうけど、この時代はこうであったのだ、と受け入れてほしい。 とにかく、今ではもう映像不可能な風景と、演者の佇まい。長尺も厭わず。時代を幾世代も通り過ぎ、世情や人々の様子も変わっていく。なのにわからぬ、紀ノ川の流れ、か。紀ノ川は、ここに暮らす人々にとって精神的な重心であるんだろうな。

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栗太郎

4.0172分という長尺

2019年7月18日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 九度山から川下の真谷家に嫁いだ花(司)。長男の敬策(田村)は東京の大学を出てすぐに村長になったという。これも旧家のなせる業なのか。舅・姑のイジメにでも遭うのかと思っていたら、かなり大切に扱われ、琴を弾いたり、自由気ままな生活のようだ。冒頭の紀ノ川を舞台にした嫁入りのシーンは大画面で観たくなるほど壮観かつ幻想的。まるで日本版アンゲロプロスだ。  次男は浩策(丹波哲郎)だ。嫁をもらいたいが、花に好意を持っていて、やがて分家させられるということに長男に嫉妬しているような雰囲気。数年後、花の長男が4歳になった頃、日露戦争が始まり、次男以下は戦争に駆り出されることに不安を感じる。財産分与に関してひねくれた態度も取ったりする。  時は流れて大正10年。敬策は県会議員になっており、長女の文緒(岩下)は女学校のリーダー格になっていた。花は文緒に対する教育もままならず、やきもきするばかり。浩策とも仲が悪くなり、文緒は叔父になついていた。  女の一生を川に喩えた大河ドラマ。172分という長尺もしょうがないけど、映画ではかなりの部分がカットされていると気になってしまう。もちろん司葉子演ずる花がいいのだが、ストーリーの中心となる一人の政治家の辿る道が平均的な日本の政治家を表現していて、それに反する娘の文緒と弟の浩策の考え方もまた対比させていて面白いのだ。まぁ、田舎出身の政治家なんてこんなものだ。

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kossy

2.0文字通りの大河ドラマ

2015年8月1日
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鑑賞方法:DVD/BD

知的

幸せ

紀ノ川上流から下流の村へ嫁いだ女性の一代記。司葉子が嫁入りから老婆となって生涯を終えるまでを描く。 冒頭の嫁入りは船の行列が幻想的。司葉子と岩下志麻の若い頃の顔が良く似せてある。最初はこの花嫁を演じているのが司なのか岩下なのかよく分からなかった。しかし、このよく似た姿のおかげで、後半の似たもの母娘の相克がより真に迫ったものになってくる。 兄嫁を慕えばこそ、主人公の最大の理解者となる丹波哲郎の脇役ぶりも見事。

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佐分 利信

4.0時代の持つ日本の美の中における女の一生

2013年3月16日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

難しい

総合:80点 ストーリー: 80 キャスト: 85 演出: 75 ビジュアル: 75 音楽: 70  主人公は今風に言ってしまえばただの主婦であり、社会的に見てそれほどたいした人物でもない。それなのにその一生が、「家」を通して壮大に描かれていてしっくりと心に入ってきた。明治から昭和にかけての古い社会に生きる古い時代の女の生き様の描き方が、文学作品を基にしているだけあって透明感があって格調高かった。当時の社会は現代と随分と異なっているのだが、価値観や生活様式の違いが、美しく郷愁的な風景と一体となって興味をそそった。この時代は本当にこういうものだったのだろうし、登場人物の生き方にその時代の価値観が持つ美を感じる。また娘や孫との関係も時代の変遷と共に取り入れられて、それが彼女の生涯の大きな一部分になっているし、社会が大きく変動する中での世代の差も興味深かった。  1966年制作でそれなりに古いのだが、天然色の映像は日本の風景も古い屋敷も良く映していた。登場人物はみんな演技も良いのだが、特に主人公の司葉子は秀逸。

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Cape God