紀ノ川

劇場公開日:

解説

有吉佐和子原作の同名小説を「天国と地獄」の久板栄二郎が脚色、「暖春」の中村登が監督した文芸もの。撮影はコンビの成島東一郎。

1966年製作/173分/日本
原題または英題:The Kii River
配給:松竹
劇場公開日:1966年6月11日

ストーリー

◇第一話・花の巻・明治三十二年、二十二歳の春を迎えた紀本花は紀州有功村六十谷の旧家真谷家に嫁いだ。夫敬策は二十四歳の若さで村長の要職にあった。婚儀は盛大なものだったが、花を好いていた敬策の弟浩策はうかぬ顔たった。翌年の春、ようやく真谷家の家風に慣れた花は妊った。そして花は、実家の祖母豊乃に教えられて慈尊院へ自分の乳房形を献上し、安産を祈った。紀ノ川が台風に荒れ狂う秋、長男政一郎が産れた。長男穣生の報に喜んだ敬策は紀ノ川氾濫を防ぐ大堤防工事を計画するのだった。日露戦争が始まった年、浩策は持山全部をもらって分家し、敬策は県会議員に打って出ようと和歌山市内に居を移した。やがて花は、日本海海戦大勝利の中で長女文緒を産んだ。 ◇第二話・文緒の巻・十七歳の文緒は和歌山高女に学び、新時代に敏感な少女に成長した。そして、新思想の教師が追放されると学校当局と派手に渡りあったりして花を嘆かせた。東京女子大に進学した後も、男女平等を標榜しカフェに出入りしたり、「女権」という同人雑誌の編集に参加したりして敬策や花を心配させた。文緒には真谷家という家門や昔風の美徳に生きる花に対する反撥があったのだ。卒業後文緒は同人仲間の晴海英二と結婚した。晴海は日本正金銀行の社員で家柄もよく、二人の結婚は花や敬策の望むものでもあった。昭和初年、真谷敬策は中央政界に進出した。一方、夫の転勤と共に上海に渡った文緒は生後間もない長男を失い、二度目の出産のため日本に帰った。文緒はすっかり変っていた。以前はことごとく花に反撥した彼女が、花とともに乳房形を作って慈尊院へ詣でるのだった。昭和七年、文緒は長女華子を生んだ。そして大戦が始まる少し前、長年政界にあった敬策が急逝した。花の表情はうつろだった。そんな花を見て、文緒は華子に、真谷家の明治・大正時代がこれで終るのだとささやくのだった。花は真谷家を守ろうと六十谷へ戻った。やがて華子が花のもとに疎開してきた。華子は母と違って琴や古い道具を好み、花に可愛がられた。華子が空襲で炎上する和歌山城を眺めていると花は、和歌山は燃えても華子の祖父の事業は残っている、というのだった。終戦を迎えて真谷家は地主の地位を失った。そして、文緒は今では世間の常識を身につけた中年女性になっていた。夏の日、古くから家に伝わる道具類を虫干ししている時、真谷家のために生きた花、家風に反抗した自分、真谷家に素直になじんでいる華子と、三代にわたった母娘のことを感慨深く思うのだった。ある日、敬策の何回目かの法事を迎えた花は突然、真谷家の家財を売り払い、盛大な法事を開く。文緒は花の人間復活だと喜んだが、翌日花は脳溢血で床についた。そして、晩春のある日、守り神の白蛇が死んだと同時に花もその生涯を閉じた。明治、大正、昭和と三つの時代を生きぬいた花の臨終だった。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

5.0紀州・紀の川沿いの名家に嫁いだ女とその夫・家族が、明治・大正・昭和の動乱期をどのように生き、死していったのかを描く格調高い文芸大作

2024年9月2日
PCから投稿

初見が10年ほど前だったが、食い入るように魅させられた「逸品」というに相応しい邦画といたく感動し感心した作品。 何度も再視聴しようとしたものの相応の心構えが必要な「敷居の高い」映画でもあるので、これほど年月が経ってしまった。 ようやくの再視聴に、初見時同様の感動感心が生じ誠に感慨深い。 中村登監督作品はいずれも格調高さと品格が感じられ、居住まいを正されると共に、深い充足感に満たされる場合が多い。 この際、他の作品も再視聴しようと思う。 書き忘れそうになったが、武満徹の不穏さを匂わせる音楽が最初のうちはそぐわないような気がしていたものの、話のすじ的に、結局はどんぴしゃりと適合していたとしか言いようがない素晴らしい音楽でした。 中村監督の狙いに武満音楽は完全に沿っていたのだなと、そこでも感心。また感心・・

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resuwisshu311

4.0お前のお母はな、紀ノ川やな。

2023年9月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

すごいな、司葉子。乙女からおばあさんまで違和感ない。しかも、当然ながら美しい。仕草もその美しさに添えるように品がある。若い岩下志麻も魅力的。この人こそ何でもできる。ここでは跳ねっかえり娘を演じているが、母との間にはしっかりと結ばれた絆がある。ドライに見えて情も深い。葬儀の場面、「ああいう悲しみかたもあるんだ」には、彼女の人としての一本の太い信念が見えた気がした。花から母娘三代、とは言うが、花の祖母の見送り姿にだって、紀ノ川の傍で生きてきた女の気骨を感じたな。当時の女性の生き方は、現代のいてはコンプライアンスにがっつりとひっかかることだろう。隷属状態の妻を見て、憤慨する人もいるだろう。だけど、この時代の母の姿はこうであった。婚家のしきたりに従うことこそ良き妻であった。まさしく「一旦、嫁したるは、身を灯明の油にして」の姿だった。それはけして服従の気持ちではなく、大家に嫁した嫁の矜持としている。それを現代では厭うであろうけど、この時代はこうであったのだ、と受け入れてほしい。 とにかく、今ではもう映像不可能な風景と、演者の佇まい。長尺も厭わず。時代を幾世代も通り過ぎ、世情や人々の様子も変わっていく。なのにわからぬ、紀ノ川の流れ、か。紀ノ川は、ここに暮らす人々にとって精神的な重心であるんだろうな。

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栗太郎

4.0172分という長尺

2019年7月18日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 九度山から川下の真谷家に嫁いだ花(司)。長男の敬策(田村)は東京の大学を出てすぐに村長になったという。これも旧家のなせる業なのか。舅・姑のイジメにでも遭うのかと思っていたら、かなり大切に扱われ、琴を弾いたり、自由気ままな生活のようだ。冒頭の紀ノ川を舞台にした嫁入りのシーンは大画面で観たくなるほど壮観かつ幻想的。まるで日本版アンゲロプロスだ。  次男は浩策(丹波哲郎)だ。嫁をもらいたいが、花に好意を持っていて、やがて分家させられるということに長男に嫉妬しているような雰囲気。数年後、花の長男が4歳になった頃、日露戦争が始まり、次男以下は戦争に駆り出されることに不安を感じる。財産分与に関してひねくれた態度も取ったりする。  時は流れて大正10年。敬策は県会議員になっており、長女の文緒(岩下)は女学校のリーダー格になっていた。花は文緒に対する教育もままならず、やきもきするばかり。浩策とも仲が悪くなり、文緒は叔父になついていた。  女の一生を川に喩えた大河ドラマ。172分という長尺もしょうがないけど、映画ではかなりの部分がカットされていると気になってしまう。もちろん司葉子演ずる花がいいのだが、ストーリーの中心となる一人の政治家の辿る道が平均的な日本の政治家を表現していて、それに反する娘の文緒と弟の浩策の考え方もまた対比させていて面白いのだ。まぁ、田舎出身の政治家なんてこんなものだ。

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kossy

2.0文字通りの大河ドラマ

2015年8月1日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

知的

幸せ

紀ノ川上流から下流の村へ嫁いだ女性の一代記。司葉子が嫁入りから老婆となって生涯を終えるまでを描く。 冒頭の嫁入りは船の行列が幻想的。司葉子と岩下志麻の若い頃の顔が良く似せてある。最初はこの花嫁を演じているのが司なのか岩下なのかよく分からなかった。しかし、このよく似た姿のおかげで、後半の似たもの母娘の相克がより真に迫ったものになってくる。 兄嫁を慕えばこそ、主人公の最大の理解者となる丹波哲郎の脇役ぶりも見事。

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佐分 利信