飢餓海峡のレビュー・感想・評価
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骨太だが、緩い戦後昭和
事件の骨格がしっかりしている。殺人事件が絡むのに、主な登場人物は厳しい生活を送っているのになぜか優しく人を思いやる。このアンバランスがこの作品の真骨頂と思う。 戦後の動乱期が舞台だが、警察もなんか緩くてスピード感や緊張感がない。特に、犯人をどうして逮捕せず、北海道行きを認めたのか疑問。予想される結末だったのに。 それにしても、青函連絡船はやっぱりドラマを作るね。数時間揺られて乗ったと知れると年がばれる。ラーメン美味かった。 前回2014.7.20
人の弱さ、社会の矛盾、人間の本質に迫る芝居が怖い
「飢餓海峡」は今から50年以上前に連載された人気小説だ。この作品の映画化は65年作である。その後この作品は、TVで68年78年88年と10年毎に3度もドラマ化されている。そして、舞台劇にも2度もなっているようだ。 しかし、映画化は65作の本作1度だけと言う事を考えると、いかに、この作品が良作で、この作品を越える作品を制作する事が出来る人達が、その後現れる事が無かったと言う事だと思う。 今観ても見応えの有る、大変に面白い作品である事は確かだ。 しかし、原作のこの小説は、サスペンスとしてのトリック性について無理があったと、その後指摘されていた様だ。 だが、ドラマとして多少の設定の不自然さが、ミステリーや、サスペンスものには付きもので、その点を指摘しても余り意味は無いと私はこの作品を観て感じた。 むしろ、この作品に出演した、強盗殺人容疑者犬飼という男を演じた三国連太郎の芝居の巧い事には圧倒される。改めて俳優、三国連太郎の偉大さを感じ、心から冥福を祈りたい。 そして彼を追う執念の老刑事、弓坂刑事を演じた伴淳三郎の素晴らしい芝居は、その後の刑事ドラマでの、刑事役の理想の原型になる。その渋い演技は今でも観ものの一つです。 そして、その2人の脇を固めるのが、今や邦画界の重鎮の一人である高倉健さん、そして昭和の名母役として名高い、沢村貞子など豪華なキャスティングだ。 この映画を観ていると、高倉健さんが演じる味村刑事は、まるで子供の様に見えてしまうくらいだ。 この作品を監督していた内田吐夢は、「大菩薩峠」「宮本武蔵」などの時代劇を晩年監督した事でも有名な名監督だ。 昭和初期の御姫様女優として、名高い入江たか子と言う、邦画界きっての大スターをスカウトしたのも、この内田監督だと言う。 3時間とこの作品は、かなりの長尺であるけれども、私は全然長さを感じる事も無く、あっと言う間に観終えてしまった。 それは、三国連太郎演じる樽見京一郎というキャラクター性と、彼を想い続けるヒロイン杉戸八重を演じた、左幸子がまた、素晴らしく巧い役者である事がこの映画を飽きさせずに観客の目を惹きつける所以だ。左幸子は、社会派大監督である今村昌平監督の代表作「にっぽん昆虫記」で日本人として初めての主演女優賞をベルリン国際映画祭に於いて受賞するなど、国際的にも評価を得る我が国の昭和期の演技派女優だ。 水上勉のベストセラー小説が原作であり、この昭和期に日本の映画界・演劇界を牽引する程の実力派俳優を多数キャスティングして生れた本作は、邦画の歴史に残る名作として、是非観ておきたい作品だ。今、再びこの作品をリメイクするとしたら、一体どんな俳優を選ぶ事が出来るのかと考える、想い浮かばないのが現状だ。 平成時代に入ってからは、こう言う芝居で魅せる社会派ドラマが無くなって、それに代わり、コメディー色が濃いが、今一度こう言う作品が出来る事を期待したい。
貧しさについて考えさせられる映画。
八重と弓坂の人生が哀れでたまらなかった。極貧のため娼婦にならざるを得なかった女と、自身が信じる捜査を続けたために警官を辞めざるを得なかった男。それに比べて、犬飼は極貧を味わったことがあるが、後半生で一時いい思いもしている。それぞれの人生を考えると感慨深いものがあった。白黒映画ながら、推理シーンに画面を工夫するなど、3時間以上の大作ながら、一気に観られた。最後がちょっとあっけない気もするが、46年も前の映画なのに古さを感じさせなかった。
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