劇場公開日 1965年1月15日

「人の愛憎と業渦巻く飢餓海峡」飢餓海峡 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0人の愛憎と業渦巻く飢餓海峡

2015年6月9日
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鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

知的

“日本のタイタニック”と言われる1954年に起きた洞爺丸号沈没事件に着想を得た水上勉の小説を内田吐夢監督が映画化した1965年の作品。
日本映画オールタイムベストが選出される時、必ずと言っていいほど挙がる日本映画史上に残る名作中の名作であり、自分も好きでもう何度も見ている。

戦後の混乱時期、津軽海峡を巨大台風が襲い、青函連絡船が沈没、多くの犠牲者を出した。だが、犠牲者の数が乗客名簿より2名多かった。実は、混乱の最中、殺人事件が起きていた。北海道の老刑事・弓坂は執念で事件を追うも、迷宮入りになってしまう。が、10年後、東京である殺人事件が起き、二つの事件が結び付く…。

大まかに三幕に分けられる。
前半は、事の発端である放火事件~沈没事故~犯人とある娼婦の出会い。後々の伏線になる。
中盤は、その娼婦・八重の顛末。彼女の存在が二つの事件を結び付ける事になる。
後半は、事件の解決と真実。

元は推理小説で映画もミステリーとしての醍醐味も充分だが、最初から犯人は分かっている。
三國連太郎演じる犬飼だ。
どん底から這い上がったこの男が背負った罪、事件によって人生を壊されながらも事件を追う弓坂、犬飼を愛した為に哀しき末路を辿る八重…数奇な運命、人の善悪を重層的に描く。

警察の捜査は今見ると強引な点もあるし、あんなものが物的証拠になるのかと思う。
一端糸口が見つかったら、スルスルと紐解かれる。
元々、単純な事件であったのだ。
自らボロを出し、さらに罪を重ねる男。
ここで弓坂のクライマックスの台詞が響く。
「私はあなたが憎い。憎みますぞ!」

三國連太郎は自身の出演作で最も好きな作品に本作を挙げている。それも頷ける名演、そして三國連太郎は真の名優だ。
弓坂役の伴淳三郎は喜劇役者として知られるが、本作では哀愁を滲ませる絶品の演技。この人の存在で、映画にメリハリが付いた。
八重役の左幸子は数少ない海外映画祭受賞経験のある名女優。キチ○イ的でもあり一途に男を想い続ける哀しき女を熱演。
東京の刑事役で高倉健も出演。先の三人の名演を前に、まるで高倉健が若造に見える。

“日本人全体を覆う飢餓状況を象徴”した映像処理も印象的。
本作製作~完成後にも起きた監督と会社の“事件”も有名。
名作には必ず逸話が残る。

全てはあの海峡で始まり、また終焉も。
人の愛憎と業渦巻く飢餓海峡。

近大