カルメン故郷に帰る

劇場公開日:

解説

わが国最初の総天然色映画として、松竹と日本映画監督協会が企画、高村松竹常務が総指揮に、月森仙之助(大船撮影所次長)が製作に当っている。脚本と監督は「婚約指輪」の木下恵介、撮影は同じ作品の楠田浩之である。色彩技術には富士フィルムの小松崎正枝と赤沢定雄が当る。尚、同時に白黒映画も製作される筈。出演者は、「宗方姉妹」「戦火を越えて」の高峰秀子、「破れ太鼓」の小林トシ子、「てんやわんや」の佐野周二、「宗方姉妹」の笠智衆、「三つの結婚」の佐田啓二などの他に井川邦子、望月美惠子、小沢栄などである。

1951年製作/86分/日本
配給:松竹

ストーリー

浅間山麓に牧場を営んでいる青山の正さんの娘きんは、東京から便りをよこして、友達を一人連れて近日帰郷すると言って来た。しかも署名にはリリイ・カルメンとしてある。正さんはそんな異人名前の娘は持った覚えが無いと怒鳴るので、きんの姉のゆきは村の小学校の先生をしている夫の一郎に相談に行った。結局校長先生に口を利いてもらって正さんをなだめようと相談がまとまった。田口春雄は出征して失明して以来愛用のオルガン相手に作曲に専心していて、妻の光子が馬力を出して働いているが、運送屋の丸十に借金のためにオルガンを取り上げられてしまい、清に手を引かれて小学校までオルガンを弾きに来るのだった。その丸十は、村に観光ホテルを建てる計画に夢中になり、そのため東京まで出かけて行き、おきんや朱実と一緒の汽車で帰って来た。東京でストリップ・ダンサーになっているおきんと朱実の派手な服装と突飛な行動とは村にセンセーションを巻き起こし、正さんはそれを頭痛に病んで熱を出してしまった。校長先生も、正さんを説得したことを後悔している。村の運動会の日には、せっかくの春雄が作曲した「故郷」を弾いている最中、朱実がスカートを落っこどして演奏を台無しにしてしまった。春雄は怒って演奏を中止するし、朱実は想いを寄せている小川先生が一向に手ごたえがないので、きんと二人でくさってしまう。しかし丸十の後援でストリップの公演を思い立った二人はまたそれではりきり村の若者たちは涌き立った。正さんは、公演のある夜は校長先生のところへ泊りきりで自棄酒を飲んでいたが、公演は満員の盛況で大成功だった。その翌日きんと朱実は故郷をあとにした。二人の出演料は、そっくり正さんに贈り、正さんは、不孝者だが、やっぱり可愛くてたまらない娘の贈物をそっくり学校へ寄付した。丸十は儲けに気を良くしてオルガンを春雄に只で返してやった。春雄は一度腹を立てたおきんたちにすまないと思い、光子と一緒に汽車の沿道へ出ておきんと朱実に感謝の手を振った。

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映画レビュー

4.5木下惠介監督の代表作に笑い、涙する。

2023年3月5日
PCから投稿

本当に面白い物語、映画だった。

木下惠介という監督の作る映画には
こちら側の意表をつくものが多い。
しかしこの映画に関しては終始あっけらかんとし
都会慣れしたカルメンと、純朴な村人たちの
何ともいえない交流と、すれ違いに終始する。
一方、カルメンの父は最初から暗い。
カルメンの存在に蓋をしているのだ。
その父が吐露するカルメンのエピソードで
過去に起こった事故を勝手に引きずり、
今も娘を案じているのが分かる。
物語の変調役として、カルメンの妹と、後輩の存在があり
彼女らとの絡みとセリフには深刻な表現は一切ない。

笑う村人と少し足りない都会っ子のすれ違い。
真剣に対応しているカルメンの姿に涙する。

ほんとうはどちらが賢いのかは分からない。
分からないけれどカルメンの帰郷で村に残ったものもあり
ラストシーンと同じく、実は清々しい映画である。
監督のメッセージはそこかな?

そして、やっぱり凄い、スゴイ、凄いと
高峰秀子の凄さを再確認した映画でもある。

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星組

3.5【目に毒なモノは見たいのが人情。だが、ストリッパーになった娘を想う男親の複雑な気持ちが沁みる作品。だが、ラストは爽快である。正にカルメンは、故郷に錦を飾ったのである。】

2022年10月24日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

知的

幸せ

■浅間山麓で牧場を営む青山家の娘・おきんはストリップダンサー、リリィ・カルメン(高峰秀子)としてマヤ朱実(小林トシ子)と一緒に里帰りする。
 派手な出で立ちのハイカラ娘に村人たちは戸惑いを隠せずにいるが、自分たちを芸術家だと信じる2人は、村でストリップ公演を敢行すると言いだす。

◆感想

・校長先生(笠智衆)を始め、純朴な村の人々が派手派手しい格好で村に戻って来た時の戸惑い。

・父の複雑な思いが、コミカルな中に描かれている。

・高峰峰子さんって、歌も踊りも何でもこなす人だったんだなあ・・。流石、3歳から子役として働き、その後、一流俳優になっただけの事はあるなあ。

■今作の見せ場は、高峰秀子と小林トシ子の場違いなのに憎めない、コミカルなストリッパーとして躍るシーンであろう。村人たちはその姿を息を呑んで齧り付きで観ている。

<ラスト、二人は稼いだ金をお金の父に渡すが、父はその金を校長先生に渡し、学校の為に使ってくれという。校長先生は”そういうことなら”と快く受け取るのである。
 リリィ・カルメンが故郷に錦を飾った瞬間であろう。>

■高峰秀子さんの気品あるエッセーは、好きである。又、旦那さんになった映画監督の松山善三との二人旅エッセーも愛読書である。
 3歳から子役で学校にも行かずに、働き通しだったという高峰秀子さん。
 今作は、そのイメージを吹っ飛ばす快作である。

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NOBU

4.0日本初カラー映画の中にある木下惠介監督の演出の先鋭さと、主演高峰秀子の完成の域にある演技の素晴らしさ

2021年7月19日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル、TV地上波

日本初の総天然色映画として日本映画史に記録される木下惠介の牧歌的喜劇映画。それもテクニカラーでもイーストマン・カラーでもなく、松竹と富士フィルムが協力して開発したフジカラーフィルムという純国産で制作したところに、戦後日本の文化復興の意気込みを感じる。荒廃した焼け野原から5年足らずでその偉業を成し遂げたことになるが、冷静に評価すれば赤と黄色は鮮明ながら緑色より赤茶色が強く、初秋の山々の美しさに僅かな不満が残る。しかし、内容は素晴らしい。出来の悪い家出娘が何年か振りに故郷に帰る数日のエピソードに込められた、当時の日本人の文化芸術に対する認識を風刺した台詞の可笑しさ、父正一と娘おきんの愛情のすれ違い、盲目の作曲家小川先生の夫婦愛、今では死語となる”故郷に錦を飾る”をストリッパーのリリー・カルメンで斬新に展開させた脚本が秀逸である。故郷のみんなに笑われても、東京で逞しく生きるリリーことおきんの”芸術”を披露することで、結局主人公は初恋の小川先生に最高のプレゼントをするのだ。それも彼女が全く意図しない形で、回り回って借金で奪われたオルガンが小川先生のもとに返る。木下惠介監督のこの脚本は、登場人物の役割を生かし動かし、尚自然な物語の流れに溶け込ませて、序破急の構成力の抜きんでた技量があり、傑出している。

この映画のクライマックスにして序破急の”破”にあたるのが、父が娘の公演をやらせて下さいと校長先生に涙ながらに訴えるシーンだ。小学校の運動会で小川先生のオルガン演奏を台無しにして村人たちから嘲笑されたリリーが、名誉挽回を画策し興行主の丸十社長と組んで特別公演を急遽企てる。翌日には”ハダカ美女の乱舞”や”裸芸術”と銘打った宣伝カーが村を巡回する。校長先生がこれを止めさせようとするのは当然の成り行き。帰郷を促したものの、駅で出迎えた時から、都会的よりただ派手な格好なので、これは純粋な舞踏家とは違うと疑念を抱いていた。しかし、父正一は牛に蹴飛ばされて頭がおかしくなった末娘が不憫で可哀そうで何より愛しい。出来の悪い子ほど可愛いという親心が涙を誘う。この時の(わしも一緒に笑われますだ)の台詞に、父親の無償の愛が凝縮されている。ここまでの演出もまた素晴らしい。裸踊りの事前練習をするリリーと友人マヤのところへ向かうシーンで、何とシューベルトの「未完成」がBGMとして流れる。浅間山麓の風景とは風情を異にするドイツロマン派音楽の名曲が、父正一の心理表現になり、そこにバケツでリズムを取るリリーとマヤの掛け声が重なる。二人の踊りを見せない演出と、音楽のミスマッチで表現した父正一の交差した心理表現のこの斬新さと先鋭さ。木下惠介監督の時に挑戦的で実験的な演出の一例と思われる。

興味深かったのは、このクライマックスで使われたフランツ・シューベルトの音楽が他にも多用されていた点だ。「軍隊行進曲」「野ばら」「アヴェマリア」などは自然に生かされているし、”芸術”公演の司会で説明される名前の呼び方が、シューバートなのには初めて知って驚いた。英語読みは当時のGHQ統治の影響なのだろうか。時代を反映した記録の点で、北軽井沢駅の表記も”きたかるるざは”の旧仮名遣いのままなのが当時を物語る。蒸気機関車ではない、コンパクトな小型電気機関車なのも興味をそそる。主題歌「カルメン故郷に帰る」の作曲家黛敏郎のモダンさと木下忠司作曲「そばの花咲く」の抒情的日本唱歌の対比も面白い。

頭の足りない芸術家リリー・カルメンを演じた名女優高峰秀子の突き抜けた個性表現がやはり作品一番の見所であろう。子役時代の作品は「東京の合唱」しか鑑賞していないが、5歳から運命的出会いをした映画に携わって既に22年のキャリアを重ね、この難役を自己表現の域に持って行っているのは、映画と共に成長した彼女の証しに他ならない。この後、同じ木下作品の「女の園」「二十四の瞳」や成瀬作品の「稲妻」「浮雲」と日本映画の黄金期を代表する名女優になるスタートラインの代表作。運動会のシーンで小川先生の演奏の厳粛さに打たれながらも居心地の悪さに顔をしかめるところが印象的。ふんぞり返ったマヤと対比する彼女の善人性が描写された演出と演技。初恋相手の小川先生を演じた佐野周二も味がある存在感で素晴らしい。全盲役の為演技の振幅は少なくとも、出兵前の故郷の景色を目に焼き付けた傷痍兵の哀愁を滲ませている。また二人の年の差で、おきんの少女期の早熟振りが想像できる。笠智衆演じるコミカルな校長先生も安定の面白さ。出番が少ない当時25歳の佐田啓二も要所要所でコミカルな好青年を演じている。マヤに言い寄られる校庭シーンや二人の踊りに見入りながらも生徒の手前後にする丘のシーン。姉ゆき役望月美恵子(優子)も好演で、父正一の坂本武と息の合った親子を演じている。ラストの手拭いを手に涙の別れをするシーンの情感がいい。

日本初のカラー劇映画の視点だけではなく、木下惠介監督の考えられた脚本・練られた演出と、主演高峰秀子の鮮烈な役作りを楽しむ秀作として高く評価したい。

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Gustav

4.0日本初の総天然色

2021年2月17日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

日本初の総天然色で、フジカラーが美しい。
光量の関係だろうが、ほとんどが晴天の屋外ロケで、唯一夜のストリップシーンは大変だったと思う。
子供の頃牛に蹴られて、頭のネジが外れた女を高峰秀子が楽しそうに演じているが、とても美しい。

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いやよセブン
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