「『大怪獣決闘』の裏側で、もう一つの対決が…」大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン TRINITY:The Righthanded Devilさんの映画レビュー(感想・評価)
『大怪獣決闘』の裏側で、もう一つの対決が…
大映ガメラシリーズの二作目。
誰も成功を期待せずカラー化する予算ももらえなかった前作『大怪獣ガメラ』の予想外のヒットを受け、大幅予算アップで製作された本作。もちろんカラー作品。
シナリオも前作と同じ作家が書いたとは思えないほど重厚で本格的。
核兵器の影響でガメラが復活するということ以外メッセージ性皆無だった一作目と異なり、人間の強欲(利己主義)が招く悲劇が主要なテーマとなっていて、巨大オパールと誤解されるバルゴンの卵や5000カラットのダイヤがアイコンとして寓意的に用いられている。
本作で新しく用意されたガメラの着ぐるみは目つきが鋭く口も大きく開き、より凶暴な雰囲気。
光学処理ではなく直火を使用したガメラの演出はあらためて見るとかなりの迫力。
前作ではアニメで表現される場面が多かった回転ジェットもすべて本物の火が使われていて、見応え十分。
ただし、いろんなものに引火して撮影現場は大変だったそうで、ガメラが大阪城で復活する場面でも本体に延焼しているのが確認できる。
今回登場する冷凍怪獣バルゴンはガメラの腹甲同様、焼き網模様の表皮のデザインがチープで造形的には今イチ。しかし、大映特有の凝ったカメラアングルや陰影を強調した撮影でカバーしていて、尻尾の操演もゴジラのスタッフがバイトで参加してるんじゃと勘繰りたくなるほどヴィヴィッドで生物的。
ダサいデザインに反して初戦ではガメラを圧倒し、人類が繰り出す攻撃にも倒れず意外と強い。
神戸港で巨大化したあとすぐに姿を見せず、倉庫を見下ろすようにして登場する場面の演出は秀逸。
海中でデカくなったのに水が弱点という設定には矛盾を感じるので、せめて淡水に弱いということにしておけばよかったのでは。
本作は旧大映シリーズのみならず、すべてのガメラ作品のなかで唯一子供がストーリーに絡まない大人向けの作風。
レビューを投稿された方の間でも賛否両論だが、本作のようにアダルトな方向性を継続させるべきだったかはギロン、いや議論を呼ぶところであろう。
主演の本郷功次郞はゲテモノ映画に出るのが嫌で、散々逃げ回った挙げ句に仮病で入院までしたのに、「治るまで待つ」と言われて観念したそう。
後年、彼はその時のことを「ほかの俳優がみんな逃げちゃって自分しか残ってなかった」という趣旨の発言をしているが、たぶん違うと思う。
当時の大映での本郷は看板俳優、市川雷蔵の弟分的立場。消去法的なキャスティングではなく、会社としては東宝における宝田明のような存在に彼を仕立て上げたかったのだろう。
柔道をやってただけあって、いいガタイしてる。
江波杏子が演じるカレンは場面ごとに衣裳が異なり、おしゃれでファッショナブル♡
本作の見どころの一つなので、「来日中の原住民の娘が何着服持ってるんだ」などと言い掛かりを付けてはイケナイ。
子供の頃、江波はすでに軸足をTVに移していて姉御的な役柄が中心。
あらためて大映時代の出演作を調べると、『女賭博師シリーズ』とか、女なんとかみたいなのばっかし。
本作こそ彼女の初期の代表作といってもいいような気もする。
医師の松下を演じた菅井一郎は溝口健二監督作品の常連にして、黒澤明の監督デビュー作『姿三四郎』(1943)をはじめ、彼の作品にもたびたび起用された名脇役。
出番は少ないが、老練な演技を見せてくれる。
上記の三人と藤岡琢也を除けば、出演陣はほぼ端役中心だが、大映誕生以前から活躍したベテラン監督の田中重雄が妥協のない演技を引き出している。
南国の原住民を日本人が演じるのは東宝特撮作品でも定番だが、本作は短いダンスシーンのためにプロの舞踊団を雇うなど本気度が非常に高い。
原住民部落の全景に使われたマットペイントなんて、出来映えはほとんど絵画作品。
本作は初公開当時、京都撮影所が製作した『大魔神』との併映。どちらの製作スタッフも互いの情報をある程度は把握していたはず。
大映の東西両撮影所は対抗意識が強かったことで有名(今風にいえばバチバチの関係)。
そもそも『大魔神』は『大怪獣ガメラ』を成功させた東京撮影所に対する競争心から生まれた企画で、本作が関西を舞台にしているのに関西弁がほとんど使われないのも東京撮影所の京撮に対する反発心が影響しているから。
『大怪獣決闘』の裏では「大映撮影所の対決」が行われていたとも言えるし、深読みすれば副題には京撮の『大魔神』と雌雄を決するという心意気が込められているという気も。
両撮影所が互いをライバル視して競い合った結果のケミストリーが、ともに完成度の高い作品を生み出したように思う。
ちなみに、どちらも大型予算を組んでもらったものの、本作は赤字、『大魔神』はトントンだったとか。
色彩美を意識した大映伝統の画面作りへの拘りは本作でも健在。
ガメラの炎やバルゴンの殺人光線(虹)を強調するため、両怪獣の二度の決闘はナイトシーンに限定され、怪獣の血やガメラの炎(火炎噴射は赤、回転ジェットは青で表現)の色分けといった細部まで徹底している。
原住民のダンスシーンの衣裳や楯もカラフル。
自分の推し場面はバルゴンが孵化するシーン。
赤外線治療器のクローズアップを執拗に繰り返すことで、ただの機械がまるで一つ目の怪物かHALー9000のように邪悪な意思を持つ存在に見え、機械文明への警告や、前作で言及されなかった放射能の危険性への暗喩にも思えてくる。
トミーさん:
いつもコメントありがとうございます。
芸術的という発想は自分も思いつきませんでした。
ご指摘、感謝いたします。

